EPILOGUE



「う〜〜っ。結局、一番の貧乏クジは私じゃないか!」
力なく呻きながら神倉涼は鼻水をずびっと啜り上げた。

だいたい……。
あのバカップルがいけないのだ。
脳裏に浮かぶ、でれでれとした男女の図。
彼女はそいつをかき消そうと、つい、頭をぶんぶんっと振ってしまい、激しいめまいを覚え、再び呻いた。

「あう〜〜っ。最悪だ……。」
忌々しそうに天井を睨む。

――まったく。こいつらから、今年一年どれだけ被害を被っただろうか。





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12月26日。朝。
涼は佐渡酒造に押し付けるようにして頼まれてしまった書類を渡すため、森雪のマンションを訪れた。


チャイムを鳴らす。

「あで?留守かいな?いるって聞いてたんだけどな?」

再度、チャイムを鳴らす。

「ん〜?こんな朝早くから買い物かぁ〜?お〜い?」

尚もしつこくチャイムを鳴らす。


ドアホンのスピーカーからガチャリ――と音がした。

「おるやんけ!まだ寝とったんかい!お〜い!神倉だけど〜?」
声をかけてみる。

返事がない。

「あれ?ま、まさか。クリスマスをひとりで過ごした淋しさに、とうとう古代進に見切りをつけたか?えーーーーっ?」

「……そ、その前にもっと別のこと、考えない?フツー……。」
声が返ってきた。

「なっ!?誰ですかっ?」
しわがれた、ババァのような声だった。

「わ、たしよ。わたし……。かっ、風邪引いたのよ。」

「はぁ?」


部屋に入ると。
森雪が。
ドアホンのモニター前に突っ伏していた。

「……あんた、何してんの?こんなとこで。そんなに眠かっ――」

「ちがうわよっ!う、動けない……のよっ!」

「なるほど。だが、そういう時はなんていう?」

「手、貸し……て。」

「ください。」

「手、貸して、くださいっ!」

「じゃあ、しょうがない。起こしてやるか。」



なんでも。
古代進がクリスマスを共に過ごす約束を破って、余計な仕事を引き受け、帰らなかったので。
すっかりしょぼくれて。
着替えもせず暖房もつけず、部屋の隅っこで、ひとしきり淋しく泣いた後、泣きつかれてうたた寝をしたらしい。

おかげで。
すっかり風邪を引いた――と。
そういうことらしかった。

一応、森雪もひとり暮らしの身。
何が困るかというと、うっかり病気になってしまうことである。
案の定。
高熱にやられて動けなくなっていたのだった。


「ばかたれ!このくそ寒いのにつまらんことをするからだ!テレビドラマじゃあるまいに!っつうか、早々に両親とこか酒造ちゃんとこでも連絡すりゃよかったろうに!」

都合よく神倉涼は医者である。
佐渡のパシリをさせられたあげく、不本意ながら彼女は森雪の面倒を見るはめになってしまったのだった。





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12月30日。
宇宙ステーション・ターミナルビル。

涼は。
未だ寝込んでいる森雪に頼み込まれ、古代進の迎えに行かされた。

古代進は帰るなり。
涼の存在などすっかり忘れ、まるでこれまでの埋め合わせでもするように森雪につきっきりの看病を始めた。
おかげで涼はあっさりと、お役御免となった。





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12月31日・大晦日。
涼は。
森雪の風邪をすっかりもらい受けて床に臥せっていた。

さすがに申し訳ない――と思ったのか森雪は。
古代進を伴って、涼への恩返しに来たのだが――。

「うン、やだ!古代クンたらァ。大丈夫よ。熱が下がったらウソみたいに元気になっちゃったんだもの。」
「そうはいうけど病み上がりなんだぞ?無理してぶりかえしたらタイヘンだろう?」
「ウン、もうっ。古代クンたら心配性なんだからァ。」
「クリスマス、ダメにしちゃたんだ。初詣くらい一緒に行きたいじゃないか。」
「そうよね。クリスマスすっぽからされたんだものぉ〜。初詣は一緒じゃなきゃね。」
「そういうこと。」
「きゃっ!古代クン、水はねかさないでよ!」
「ごめん、ごめん!」


ガラッ――。

「え?」
「ん?」

「お、おまえら帰れ!」

「でもお粥……。」
「そうだよ、これからなんだぞ?」

「……食欲、ねえんだよ……ぜいぜい・・・…いいから帰れ!失せやがれっ!」





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「まったく、あいつらときたら。ヒトが高熱でうなってるってのに、キッチンでいちゃいちゃ、でれでれしてからに!いったい何しに来たんだか!!
おかげで熱が上がって悪化した!恩を仇で返すとはまさにこのことだ!」

「なるほどのぅ。それで追い返したっちぅワケか。」

涼のためのお粥を作る――と言っていそいそとキッチンに入っていったふたりは。
まるで新婚カップルのように寄り添って、およそ涼のためとは思えないアツアツ・甘々風情だったのである。
ふたりは涼の逆鱗に触れ、まとめて叩き出されて。
代わりに佐渡酒造が呼ばれてやって来た――というわけなのだった。



「げほげほ、ごほっ。ぐうううううっ。あいつら、こんちくしょーーーーっ!なんで私がこんな目に遭わなきゃならんのだ!ばかやろうーーーっ!」

「まあ、そう怒るな。おまえさんの面倒は、このワシがしっかりと見てやるでのぅ〜。」

「うううう。どうせなら、酒造ちゃんでなく、お知りあいの男前の若い医者をよこしてくれませんかね?その方が回復がは、や…いぃ〜、ごほごほ。」

「贅沢言うでないわ!地球一の名医のワシが直々に往診に来とるんじゃ!神妙に看病されんか、ばかもんが!」

「ばか言うな、この酔っ払い!」

「ふむっ!まったく、やかましい患者じゃ!ほんなら、ワシ、帰るぞ。さあ、ミー君。行くぞい!」

「うあああああ!待って、くだ、さいっ!見捨てないでくださいっ!森雪のヤツ、こんな強烈な風邪、ウツしやがってーーーっ!覚えてろよーーーーーっ!」

「ま、ワシ特製のたまご酒を作ってやるでなあ。それでも飲んで、大人しゅう寝とれ!のぅ、ミー君や。」

「みゃ!」





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そんなこんなでそれぞれに。
悲喜交々の大晦日。

神倉涼は。
酔っ払いと猫とともに、除夜の鐘を聞き。
たまご酒で新年を迎えたのであった。


そして。
古代進と森雪のふたりは。
宇宙の平和なんぞを祈りつつ――。
まあ、今さら言うまでもないが、恐らくきっと。
よろしく過ごしたことであろう。


めでたくもあり、めでたくもなし。



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★☆ THE END ☆★


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★☆ Merry Christmas & Happy new year ☆★










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■ちょほいとイイワケ
やっつけのような2007年クリスマス話、おつきあいいただきまして、ありがとうございました。
この話、そもそも書き始めたのは2005年で、タイトルはまったく違うものでした。
予定では後半部分の話もこれとは全然まったく違うものであり、“しっとりとした話”になる筈だったんですがねえ……。
このエピローグも予定になかった、あくまでオマケです。








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