「あのう……。」


「あれ?古代さん?もうお帰りだったんですか?」

「ええ。予定が急遽、変更になったもんですから。あのう……。」

「ああ、森さんですね。ちょっと待って下さい。今、呼びますから。たぶん彼女も、もうそろそろ終わる頃じゃないかと……。」

「そうですか!」

「ふふ。クリスマスイブですからね。喜びますよ、彼女。」

「あっ……いや、まあ……その……。」

「じゃ、ちょっと待って下さいね。」

「はい……。」





Christmas Eve


「古代君!!どうしたの!?」

「ただいま。今、帰った。」

「わかるわよ、そんなこと!どうして――」

「なんだよ、帰ってきちゃ悪いみたいじゃないか!」

「だって……。月面基地を出るのは、早くてもあさって以降って――」

「艦のメンテナンス、都合で月基地でやることになってさ。あちこち新装備するらしいんだ。それで何かと時間がかかっちゃうらしくて、俺達クルーは先にご帰還ってワケさ。それでもホントならクリスマスに帰るのは絶対に無理だったんだけど……。」

「古代君……。なんか隠してる?」

「別に何も隠しちゃいないよ。実は……さ。真田さんが裏工作して早めに帰してくれたんだよ。」

「裏工作?。」

「真田さんの研究チームの極秘プロジェクトに俺の意見が是非必要だからって名目で、俺と一部の関係者だけ、ちょっとだけ先に小型艇で帰って来たんだ。他の連中だって早く帰りたかったろうに、俺だけ――と思うと……ちょっと後ろめたい気もしてさ。」


「そう……だったの。」

「ああ。それでも、いろいろ後始末してきたら今になっちゃって。」

「そう……。」

「なんだ。泣くなよ。」

「だって……。今年もクリスマスは、ひとりかなあって……。だから仕事、引き受けて来ちゃって、今日、着てきた服も――」

「バカ。ドレスアップしたキミもステキだけど、制服姿の……背筋の伸びた毅然としたキミも、俺にはたまんないんだけど。」

「うン!バカ!制服のまま帰るワケじゃないのよ、私は。そうじゃなくて――」

「なら、早く着替えて来いよ。もう上がれるんだろ?」

「うん。でも着替え――通勤用のスーツだし……。」

「なんだっていいよ、そんなの!!めかしこんでる時間なんかないんだぜ。貴重な時間がなくなっちまうじゃないか!」

「うん……。」

「おいおい、泣くなよ。参ったなあ。それより、腹、減ってないか?」

「……うん。お腹空いた。」

「実は、南部のヤツを拝み倒して、小さいけどいい店、紹介してもらってるんだ。フランスの家庭料理を出す店とかって。名前、難しくて忘れちゃったよ。そこでメシ食おうぜ。クリスマスのスペシャルメニュー、頼んどいたんだ。」

「ホント!?」

「俺にしちゃ、上出来だろ?あ、なんだよ、また泣くぅ〜。泣くなよお!」

「古代君……。」

「ん?」

「あの……。おかえりなさい。」

「ただいま、雪。これから去年の分のクリスマスも取り返そうぜ!」

「うん!」

「さあ、行こうっ!」


■END■