「早春の丘にて」
かずみさん・作
陽射しがあたたかい。
ときおり吹き去る風はまだ冷たいけれど、その陽射しのあたたかさに思わず顔もほころぶ。
メガロポリスを見下ろす小高い丘に、人影が2つ。
手をつないでやってきた2人は、抱えていた花束を置き、そのままぬかづいた。
手を合わせて瞑目する2人を、英雄の銅像が見守っている。
ここは、英雄の丘。
「急にどうしたの、古代君?」
それまで黙ってついてきた雪が、初めて疑問を口にした。
「この間、ドライブの帰りに寄ったばっかりよ。また、沖田艦長に会いたくなったの?」
銅像を見上げながら雪が問う。
「ゆうべさ、夢を見たんだ。こいつらのね。」
進が指さす、その先には・・・・。
加藤三郎、山本明、斎藤始。
レリーフがこちらを見て微笑んでいる。
「加藤さん達の・・・。ね、どんな夢?」
進は苦笑する。
「う〜ん。ケンカ・・・してる夢・・だった。」
「まあ、夢の中でまで?」
雪もつられて苦笑いだ。
「俺が、じゃないぞ。加藤と斎藤。山本と斎藤。ケンカばっかししてたな、斎藤は。」
「よく言うわ。あなたが一番よくケンカしてたくせに。」
「あ? そうだっけ?」
笑えるようになった。思い出話もできるようになった。
なにより、アイツらの夢を見ることが、できるようになった。
「俺、加藤にはムチャばっか言ってたような気がする。」
「あら? 加藤さんだけにじゃないでしょ。」
「そうか?」
進はチラリと加藤のレリーフを見やる。
「それにしても、山本はよくあんな長髪で戦闘機に乗ってたよな。」
「やだわ、古代君。それだって山本さんだけじゃないでしょ。」
そうだな、とまた笑って山本のレリーフに触れる。
「なつかしいな。あれもこれも。大事な思い出になってる。」
「そうよ。だから私達は、生きてるってことに感謝しましょう。ね、古代君。」
そう言う雪が愛しくて、進はつい抱きしめた。
「あ、見て。」
進の腕の中から、雪が空を指さす。
「あ・・・・。」
そこには、
2本の、ひこうき雲。
「やべぇ。雪、あいつら見てるぞ。」
「ふふ、そうかもね。」
「ひやかされないうちに退散だっ。」
再び、手を取り合って駆け出す2人。
その2人を見送るように、花が早春の風に揺れていた。
そして英雄達は、今日もこの街をこの丘から見守っている。