La flamme qui est perdue (Short version)


意識を取り戻した美しき地球人捕虜――森雪の様子を見るために、アルフォンは部屋を訪れる。

しかし、そこに彼女の姿はなかった。

(まだ、あの身体では動ける筈は……。まさか――)
思い当たる部屋がある。
アルフォンは身を翻して部屋を出ると、小走りにその部屋を目指す。

ドアを開けると――
やはり、彼女はそこにいた。

「そこで何をしている?」
背中に向かってアルフォンが声をかける。

慌てる様子も驚く様子もなく、ゆっくりと振り返るその表情には鬼気迫るものがあった。
瞬間、むしろアルフォンの方がたじろいだ。

「決まってる、でしょう!みんなを、古代君達を探すのよ!」
大きく上下する肩、計器類の音に混じって、荒い呼吸音。

「彼らは脱出時に全員死亡した――そう言った筈だ。」
半ば呆れ、冷たく答えるアルフォン。

「そんなこと……。直接、確かめたわけじゃないし、私は信じていない!あなたの言葉なんて信じない!」
雪は、キッとアルフォンを睨み、弱々しいがキッパリと答えると、再び計器に向き直り、操作を始める。

「それ以上の操作は無駄だ。残念ながらそれは私を認識しなくては作動しないからな。」

「……。」
雪はアルフォンを振り返りもせず、小さくうなだれた。

「……わかってるわ、そんなこと。でも……。何もしないでじっとなんか――」
言いかけて、雪はぐらり、と傾いた。
駆け寄って、慌ててその身体を支えるアルフォン。
その手から逃れようと身悶えする雪。

「まったく、無茶をする!まだ動いてはいけないと言った筈だ。あの時、君は肋骨骨折による肺挫傷で重篤な状態にあった。
それだけじゃない。
その肩からの傷は深部にまで達している上、粉砕骨折していたんだぞ。
あのまま放置していたら、君は間違いなく死んでいた。
いいか。君がそうやって動けるのも薬で痛みを抑えられているからだ。
もう一度忠告するが、君は重傷の身だ。少しはじっとしていろ!」

パン!――と激しい音を立てて雪がアルフォンの手を払った。
それから、ゆっくりと立ち上がる。

「何を言ってるの!?」
雪は、珍しく感情的になっているアルフォンに対し、口角をわずかに上げて薄く笑った。
そして、ふらつきながらも彼に詰め寄り、更に言葉を継ぐ。

「地球の人々を傷つけ、殺戮と破壊の限りを尽くして、恐怖と絶望に陥れたあなたが!
私から、愛する人と大切な仲間達を奪ったあなたが!
私に情けをかけて気遣うなんて、お笑い種ね!馬鹿にするにもほどがあるわ!」

雪は、激しい怒りに満ちた瞳でアルフォンを見据えた。
開いてしまった肩の傷口から、再び流れ出した鮮血が腕を伝い落ちる。
しかし雪は、それにかまうことなく、アルフォンを睨んだまま微動だにしない。

「みんなを返して!古代君を返して!」
雪は怒りと悲しみに全身を震わせながら、アルフォンに向かって叩きつけるように叫んだ。

しかし――。
胸に鋭い痛みを覚えて、ぐらりと傾き、蹲るように倒れた。
激しく咳き込む雪。

アルフォンは、肩を大きく上下させ、苦しげな呼吸をしている雪に、ゆっくりと歩み寄った。
雪は気丈にもグッと頭を起こし、尚もアルフォンを睨みつける。
口元を押さえていた掌の、細く白い指の間から零れ落ちる鮮血を見て、アルフォンは苦々しく口を開いた。
「だから言っただろう!無茶をするな、と!」

雪は、触れようとしたアルフォンの手を払い除け、立ち上がろうとした。
しかし、敢えなく崩れ、再び咳き込む。

「動くな!」
苛々と雪を抱き起こし、死にたいのか――と続けようとして、アルフォンは口を噤んだ。

……彼女にそれを言う資格が私にあるというのか?
傷つけ追いつめたのは、誰でもない、この私なのに……。

「頼む。おとなしく休んでいてくれないか。いくら我々の医学が進んでいても、無理をされては治るものも治らんぞ。」
呻くように言って、アルフォンは、顔にかかった雪の髪にそっと触れた。
(もうこれ以上、傷つかないでくれ。)

しかし雪は。
浅く早い呼吸を苦しげにするだけで目を開かなかった。
既に意識がなかったのだ。

身も心も深く傷ついて床に蹲る雪を、アルフォンは憂いに満ちた瞳で見下ろした。

衛生兵が、ようやく駆け込んでくる。

「遅い!何をしていた?早急に彼女の処置をしろ!
いいか!彼女はヤマトや軍に大きく関わっている。我々にとって利用価値の高い重要人物だということを忘れるな。
細心の注意を払って治療にあたれ!わかったな!」
アルフォンは苛立ちながら衛生兵にそう釘を刺すと、雪を任せた。


それから数日の間。
雪の意識は混濁していて夢と現の間をさまよっていた。

意識がしっかりと戻ってから更に数日が経ち――。
身体を起こせるようになってからの彼女は、ただ窓の外を虚ろな瞳で眺めるだけで、自分からはひとことも口をきこうとしなかった。

傷がある程度癒えて動けるようになると、アルフォンは彼女に身の回りの世話をするよう要求した。
彼女は黙ってそれに応じた。

深く傷つきながらもアルフォンに詰め寄ってきた時の、あの激しさは、彼女のどこにも見当たらなかった。











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