「走る走る俺たち」


サランさん作

1)

地球防衛軍・総務課の掲示板の前に、人だかりができていた。

「何だ何だ〜?まさか、給料が出ねえとかってんじゃないだろうなあ?」

「それって、冗談になんねえぞ!」

会議のため、加藤と山本は月面基地から地球に戻っていた。



 "さあ、新たな大地へ!―――祝!地球再生・サファリラリー開催!"



「・・・で、車は貸し出してくれるのかあ」

世界中の自動車メーカーの共催によるものだ。防衛軍としてはとても世話になってい
る業界なので、協力せざるをえない。



 なお、サファリラリー出席者は出張扱いとする―――地球防衛軍・総務課



「お〜、出張なのか!地球防衛軍も粋なことするじゃねえか!山本〜、一緒に出よう
ぜ!」

「お前のナビは、宇宙だけで十分だ!」

「じゃあさ、別組でもいいからさ!」

もう加藤はすっかりその気だ。しかし、山本は取り合わない。

「でも、月はどうすんだよ!」

「んなもん、鶴見に任せりゃい―だろ?!今日だってそうだし・・・あっ!・・・
そっか、俺が相手じゃ勝ち目ねえもんな!わりぃこと言っちまったな、山本!じゃ、
俺と組む奴探してくっからヨ!」

とっとと行ってしまった加藤の後姿を見ながら、山本は舌打ちした。

「ちっ!笑わせんな!宇宙でも地上でも、俺のが速いってところを見せてやるぜ!」

かくして、2人ともラリーに出ることを決めたのだった。しかし、2人とも最後の一
文を読んでいなかった。



 ただし、3位までに入賞しなかった場合、バツを覚悟するように!



2)

薄紫色の空が少しづつ明るさを増し、真っ暗だった大地がその姿を見せ始める。地平
線近くの木々から一斉に鳥たちが羽ばたき、スタートを待ちかねる車に光が降り注
ぐ。

「エンジン快調!ブレーキもOK!後はスタートを待つばかりだ」

加藤は朝から元気がいい。

「ふわあああああ!まだ眠いよ〜!ったく、こっちに来たらうまいもの食い放題だっ
ていうからついてきたのに、ろくに食い歩く時間はないし、朝はめちゃくちゃ早いし
・・・」

「まあ、そう言うなって!おばちゃん特製のおにぎりがあるぜ」

「それを早く言えよ!いただきまふ。んぐ、んぐ、あ〜うま〜。・・・うっ!ご
ほっ、ごほっ!」

「何やってんだよ!ほれ水!ほんとに太田で大丈夫かなあ?」

「誰つかまえて言ってるんだよ!俺はヤマトのナビをやってたんだぞ!」

「わかってるって!だからお前に頼んだんじゃないか!なんせ、ヤマトを間違いなく
イスカンダルへ導いてくれたんだからな」

「加藤〜♪だてに隊長やってんじゃないんだな。俺の仕事のことそう言ってくれるや
つ初めてだよ。俺頑張るからさ、少しは運転もさせてくれよな!」

「ああ、もちろん!」

そうこういっているうちにスタートの時間となった。

「よっしゃー!加藤、太田機発進!」

「了解!」

砂ぼこりを巻き上げて朝日に向って走り出した。





3)

 チェックシートを見ながら太田が叫んだ。

「もうじき次のチェックポイントだぞ!そこを右45度だ!あと500地球メートル
・・・・・200・・・100・50、そこだ!またまたばっちりだな!言ってて気
持ちいいよ」

「太田の声をかけるタイミングがばっちりだからさ。地球メートルはいらないけど
な。しかしそんな大雑把な地図を見ただけでよくしっかりナビしてくれるぜ!」

「加藤だって、マニュアル車なんてそんな旧式なのよく運転するよ!俺たちはそれこ
そいろんなのを運転させられたけど、お前はどこで覚えたんだ?」

「いやあ、今日はじめて運転したんだよ。けどさ、エンジンがあって操縦桿だかハン
ドルがありゃあ、似たようなもんだよな」

「・・・ははは。はじめてね。そ、そう・・・。さすがだね・・・」

太田の引きつった顔に加藤はまったく気づいていない。

「がっはははははははははは!いやあ、それほどでも、あるかな?がっはははははは
ははは!」

それまで地図と窓の外とを交互に見ていたが、それに加藤の運転も加わった。しか
し、とても初めてとは思えない、というよりうまい!加藤の場合、どうも理屈じゃな
いらしい。ハンドルさばき、ブレーキの踏み具合、ギアチェンジのタイミングなど、
すべて滑らかだ。太田はまた、地図と窓の外を交互に眺めた。



調子よく走っていたのだが、加藤の口数が少なくなってきた。

「もっとスピードあげていいぞ。どうした?」

「・・・へ?あっ、あぁ」

ぐっぐ〜〜〜〜〜〜〜!

「なんだ、腹減ってたのか!じゃ、チェンジして助手席でおにぎり食べろよ」

「そうだな。それじゃ運転頼むよ」

車をとめ、2人は席を交替した。

「おにぎり、おにぎりうれしいなっと♪いっただきま〜す!あ〜、うめ〜」

「シートベルトはOKだな?よしっ、いくぞ!」

「んじゃ、今度は俺がナビを・・・」

「んなもん、頭に入ってら!」

「さっすが太田ぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁぁぁぁぁぁ!」

半端じゃない加速!ブラックタイガーよりGがかかったんじゃないかと思うくらい、
シートに張り付けられた。

「あ、あの、太田?そこまで あげなくても いいんじゃ ないかと」

「るせ〜っ!出せるだけスピード出さなきゃ、勝てるもんも、勝てねえだろうが!」

「はっ、はい〜!」

(太田って、ハンドル握ると性格変わるんだな。それで島はヤマトの操縦をさせな
かったのか)

「何ごちゃごちゃ言ってやがる!舌かんでもしらねえぞ!」

「きょ、きょわ〜〜〜!」

「次はあの岩塊からジャンプだ!しっかりつかまってろよ!おりゃあ!」

車が宙を飛んだ。ブワッシャッ!水たまりに落ち、泥水が車の周り中に飛び散る。フ
ロントガラスにも泥水が飛んできて、一瞬真っ暗になった。ワイパーで、フロントガ
ラスを急いでふく。そのとたん、目の前にチータが現れた。

「危ないっ!」

加藤が助手席から強引にハンドルをきった。

キキキキキキキキキキーーーーーッ!ガッ!ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜!

「へ?また飛んだ?」

さっきより滞空時間が長い。あれほど空や宇宙を飛んでいる加藤だが、体が少しこわ
ばる。

「何か、やな予感がする」

ヒュ〜〜〜ン!ゴン☆ガタッ☆☆バコッ☆☆☆ドタンッ☆☆☆☆☆キュルルルルルル
ルル・・・

2人とも昼なのに星を見た。

「く〜っ!太田、大丈夫か?」

「あぁ。お前は?」

「これくらいどうってことねえや!けど、逆さのまんまってのはやだな。とにかく外
へ出よう」

加藤はシートベルトをはずして狭い中、体をうまく回転させて外へ出た。太田はシー
トベルトをはずしたものの・・・

ブッブ〜〜〜〜〜〜〜〜!

「今、クラクションならしてどうすんだって!」

加藤が外からドアを開け、やっと太田は外に出れた。

「重ね重ね悪い!ほんと申し訳ない!」

さっきまでハンドルを握っていたのと、同一人物なのか?と思うほど、低頭に謝られ
た。

「まさか、チータがいきなり現れるとは思わなかったからな。お互い無事でよかった
よ。ほら、あそこで心配してるぜ!」

遠くから、そのチータが自分をよけるために車をひっくり返してしまった2人を見て
いる。が、2人とも出てきたのを見てほっとしているように見えた。

「ああ!ほんとよかった!」

「ま、ひっくり返るのもラリーの醍醐味ってとこさ。ところでこの車、何とか元に戻
さないとな」

「そうだな。じゃ2人で、せ〜のっ!」

持ち上がった。このまま何とかいけるか?!

ぐぐぐぐぐっ!・・・ガックン!

「くっそ〜!もう一回!」

そこへ他のラリー車がきた。

「加藤〜!太田〜!どうしたんだよ?」

「山本!車ひっくり返しちゃってさあ、何とかならないかなあ」

「あ〜〜〜っ!山本!!!お前、『月はどうすんだよ!』とか言っときながら、何
ちゃっかり出てるんだよ!」

「初めから負けを認めるのは性に合わないんでな!しかし、お前らこれじゃ身動き取
れねえだろ?手伝おうか?でも、その時点でお前たちはリタイヤになるが・・・」

「リ、リタイヤ?冗談じゃねえ!」

「俺もせっかくここまできたんだから、リタイヤしたくないな」

「そうか。太田もそう言うなら、悪いが遠慮なく行かせてもらうぜ!」

山本は自分の車に戻り、助手席で待っていた女の子に加藤たちのことを話し、エンジ
ンをかけた。太田はその女の子が心配そうな顔をこちらに向けたのをチラッと見た
が、すぐに砂けむりに消えてしまった。

「あ〜あ、行っちゃった!」

「太田!いつまでボ〜っといてるんだよ!それより早くこの車ど〜したら戻るか考え
ろよ!」

「これが山本みたいに彼女とだったら、もうちょっと力も入るのに・・・」

「え?今なんて言った?山本が彼女と乗ってる?!」

「いや、彼女かどうかはわからないけど、助手席にいたのは女の子だったよ。この時
間にここを通過するなんて、結構優秀なナビだよな。お、おい!どうした?」

「く〜〜〜〜〜っ!山本の奴!俺に内緒で彼女だと〜〜〜?!俺と一緒に行かなかっ
たのはそーゆーことか!ムムム!あいつにだけは負けたくねえ!」

そう言って、加藤は車の横にうずくまった。

「加藤?」

「・・・どりゃああああああああああああ!!!」

ガッタ〜〜〜〜〜〜ッン!バム、バム、バム・・・・・

車が元に戻った。

「お〜!すげぇ!加藤!」

「何ぐずぐずしてる!早く乗りやがれ!山本を抜くぞ!」

2人は急いで車に乗って、飛ばした。・・・飛ばした、飛ばした。そしてとうとう山
本の車を抜いた。バックミラーにあっという間に小さくなっていく山本の車を見なが
ら加藤は言った。

「ってやんでぇ!俺の前を走れる奴は誰もいねぇんだ!」

そのまま快調に飛ばしていたが、車が変な音を出し始めた。

ガコンッ!ガッガッガッガッガッ・・・・カタ。

そして止まった。

「へ?どうしたんだよ!」

キーを抜き差ししてエンジンをかけなおすが、何の反応もない。

「加藤。さっきの回転で、どっかおかしくなったようだな」

「う〜〜〜〜、ゴールはすぐそこだっていうのに・・・」

加藤は悔しくて仕方がない。

「動かないなら押そうぜ!このまま終わりたくない!」

「そうだよな。よしっ、押すか!」

2人は車を押した。もう、ゴールのアーチは見えている。直線だがジャリ道なので、
容易ではない。

「・・・ごめんな。無理させちまって。ゴールしたら、俺がちゃんと整備してやるか
らな。もう少し我慢してくれよ」

加藤はささやくように車に言ったのだが、太田はそれを聞き、黙って車を押す手にさ
らに力をこめた。

「くそ〜っ!もうちょい・・・ん?あれは」

ふと振り返ると、後ろから山本の車が迫ってくる。

「抜かれてたまるか!うりゃあ!ほいさあ!どりゃあ〜〜〜!」

山本の車はどんどん迫ってくる。ゴールはすぐそこだ!あと10メートル。後ろの車の
爆音がさらに大きくなる。あと5メートル、あと・・・。

「やった〜!山本より先にゴールしたぜ!」

2人は力つき、その直後に山本がゴールをした。



4)

結果は山本たちが優勝。加藤たちは4位だった。各車のスタート時間が違うことを加
藤も太田も忘れていたのだ。

表彰式が終わり、そしてお決まりのシャンパンかけ。しかし山本もナビの女の子も
ちょっと恥ずかしいらしく、なかなかやらない。

「ったく、世話のかかるやつらだな!貸せっ!こーすんだよ!」

加藤はシャンパンを1つとり、思いっきり振って山本の顔に直撃弾を食らわせた。

「ぷは〜っ!やりやがったな!」

山本も加藤にやり返した。誰が優勝したんだかなんだか・・・。その様子を笑って見
ていたナビの女の子にシャンパンだらけの加藤が言った。

「よかったね!らっちゃん、おめでと!」

「うん。ありがと!」

ほほをほんのり赤く染めて、女の子は答えた。笑顔がかわいい。・・・かわいいじゃ
ねえか!

「山本〜!やっぱ許せねえ!」

加藤はもっと強烈にシャンパンを振った。そして、太田やほかのラリー参加者も山本
にシャンパンの集中射撃を浴びせた。



後日、加藤と太田に地球防衛軍・総務課から通達があった。太田は地球防衛軍本部
の、加藤は月面基地の格納庫の掃除を1週間行うこと。そして、出張扱いは取り消す
と・・・。(笑)



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