■ 大いなる愛 ■ 〜 アクセス記念ストーリー 〜 ★ ゲスト:2000カウンターゲッター しげこ様 |
未開発エリアの一部が新たに居住地域として開発されるにあたり、しげこはプロジェクトチームの福祉部門責任者の一人として抜擢されていた。 今回、メガロポリス周辺地域を、お偉方と共に視察することとなり、英雄の丘は、その視察場所のひとつだった。 しかし、しげこにとって英雄の丘は、訪れることを敢えて避けていた場所だった。 大勢の仲間、特に「初恋の幼なじみ」が眠るこの丘は、彼女にとって、とても辛い場所になっていたのである。 この日の視察は、予定よりも早く終わったが、無意味に会議は長引いた。 それから茶番のような挨拶回りを幾つか消化して、しげこは漸く仕事から解放された。 「送りましょうか?」 そう声をかけられたが、疲れていたしげこは、ちょっと気分転換をしたいと思い、その辺を少し歩いてから帰りますから――と、丁重に断った。 そして――。 気がつくと予約していたホテルではなく、何故か避けていたはずの英雄の丘に、再び足が向いていた。 英雄の丘か――。 ここに来たのは何年ぶりだろう……。 しげこは、穏かに凪いだ海を眺めながら、ぼんやり思った。 ふと、懐かしい「彼」の顔が思い浮かんで、胸が苦しくなる。 ――どうして、来てしまったんだろう。 しげこは瞳を暗く翳らせた。 「やあ、しげこちゃんじゃないか!」 「!」 背後から声がして、しげこは飛び上がった。 振り返ると――。 声の主は島大介だった。 「久しぶりだなあ……。」 島は、にこやかに言った。 「島君!!びっくりしたあ!!ほ、ほんと久しぶりね。元気だった?」 「ああ、この通りさ。キミに会うのは――あの時以来だな……。」 島は、そう言うと、少し俯いた。 しげこは島から視線を外すと、再び海に目をやって、そうね――と答えた。 それから――。 二人とも黙って、海を見つめていた。 「少し……歩かないか?」 島が、ぽつりと尋ねる。 しげこは、小さく微笑んで、コクリ――と頷いた。 「一昨日、イスカンダルから帰って来たんだ。明後日まで休みでね。あと1週間は、こっちにいるんだ。山のようなデスクワークのプレゼント付だけど。」 参ったよ……というように、島は小さく溜め息をついた。 しげこはクスリ――と笑った。 「お疲れ様。なんだか大変そうね。それにしても……イスカンダルかあ。懐かしいわねえ。イスカンダルへは……これで3度目だっけ。」 「ああ。あの時は、あんなに苦労して行ったのにな。連続ワープが可能になって、今じゃあの苦労がウソみたいだよ。」 「ふふふ。名航海長殿、それだって遠いわよ、イスカンダルは。スターシアさんと守さん、元気にしてた?そうそう、サーシャちゃんも、大きくなったでしょうね。」 「うん。二人とも元気そうだったよ。相変わらず、仲良くてさ。俺なんか当てられっぱなしさ。それにサーシャなんて、すっかりオマセになっちゃってて……。相手してて疲れちゃったよ。――イスカンダル人って早熟なのかなあ。」 島は呆れ顔で肩をすくめ、よっぽど手を焼いたのか、更に首まで横に振った。 「やだ、島君たら。別にイスカンダル人だからじゃないと思うけど?女の子って、そんなものよ。サーシャちゃんだって、もうじき10歳…でしょ?。」 「そうだけど。そんなものなのかなあ。次郎が同じ年頃の時は、もっとガキだったけどなあ。」 溜め息混じりに頭をかく島を、しげこは愉快そうに見つめた。 「そうそう。そのサーシャなんだけど、そのうちに一度、守さんが地球に連れてくるって言うんだ。予定としては彼女が15くらいになったあたりで――っていうんだけどね。問題なければ、しばらく地球で暮らすらしい。こっちでいろいろなことを学ばせるためにね。」 「ホント?」 目を丸くして身を乗り出すしげこに、島は大きく頷く。 「ああ。御両人はオトナだし、まあ、ある意味…一生アダムとイヴだってかまわんだろうけどさ。他に誰もいないあの星に、あの娘を置いておく――ってのはどうかって、思ったらしいんだ。俺も、あの娘のためには、いいこととは思えない。」 「そうよね。人が成長していくには、大勢の人に出会っていく必要がある。知識だけ深めていくなら、ずっとイスカンダルだっていいけど。それに……何より恋もできない!」 しげこが「恋」というところに力を込めて言ったので、一瞬、島は固まったが、あはは――と声を上げて笑って大きく頷いた。 「そう!そうなんだ!まさにそういうことなんだよな!こっちへ来るのは、もっと早くてもいいらしいんだが。ただ――彼女、半分はイスカンダル人の血が流れてるだろ?」 「ああ、そうか。」 頷いて、しげこは口元に手を当てた。 「こういうケースって地球じゃあ、まだ彼女だけだからなァ。彼女が来ることは大歓迎なんだが地球の環境とか本人の体質とか――受け入れに、まだいろいろ問題があるらしいんだ。」 「なるほどね。万全を期して――ってことなのね。」 「ああ。」 「サーシャのヤツ、古代と雪に会ってみたかった――ってしきりに言うんだよ。参ったよ。古代なんて俺よりオッサンになってたかも知れないぜ?――って言ってやったけどな。」 そう言って島は、淋しげに空を見上げた。 しげこも黙って海を見つめている。 白色彗星との戦いから10年余――。 地球の、いや、宇宙の平和を願いながら、多くの仲間達がヤマトと共に散っていった。 古代進、森雪……加藤、山本らコスモタイガーの面々……真田さん、斎藤、艦医の佐渡に徳川機関長、そして艦長だった土方――大勢の同志との永遠の別れ。 島も、しげこも、彼らのことは1日たりとも忘れたことはなかった。 特に、あの戦いでの生還者であった島は――。 何年経とうとも、彼らのことを思い出す度に、胸が締めつけられる思いだった。 「時が経つのはホントに早いな。」 島は立ち止まると、近くのベンチに腰掛けた。 「あの頃は……自分はもう、ダメになるんじゃないかって思った。」 しげこは答えず、黙って隣りに座った。 「今でも夢をみて魘されるんだ。南部も相原も太田も――そうらしい。」 「私も……ここへは、慰霊祭の後、2、3回しか。なんだか辛くて……。私、ずっとここに来れなかったの。」 「そう……か。ごめん。なんだか湿っぽくなっちまったな。」 「ううん。島君に会えてよかった。」 「私ね。」 「ウン?」 「古代クンのこと、好きだったの。」 「えっ、ええっ?!そう、だったのか!!だから――」 「ウン。小学校の時からずっと、ね。」 「そうかあ。なんだかそういうの、せつないな……。」 島は溜め息をついた。 「俺は……雪のこと、ずっと好きだったんだ。」 「知ってたわよ。」 「なんだ。ちぇっ!大体……雪に目をつけたのは俺の方が先だったんだぜ?」 「それも知ってた。」 「ちぇっ!!なんだよ!!……古代のヤツ、ああ見えてさ。案外、いいとこ取りなんだぜ?仕事も女も。腹立つよな、実際。」 「ホント。あの二人ったらさ、ヒトの気も知らないで、のろけてばっかりだったんだから!!」 意外にも同調するしげこに驚きながらも、まだ続ける島。 「そうなんだよ!その割には古代のヤツ、野暮天でさ。雪の気持ちなんか、てんでわかってない。」 「わかるわかる!!まったく世話の焼けるカップルだったわよね!!」 「そーそー。俺らの立場になってみろってんだ!!」 「そーそー。まったく!」 二人は妙に意見が合って、思わず吹き出した。 「平和だな。」 「平和ね。それに……私達が託されたものって、ホントに大きいんだな――って改めて思うわ。」 「ああ。」 「俺は……命ある限り、アイツらが望んだ、この平和な世界を守ってくつもりだ。」 しげこは、悲壮なまでの島の決意に、少し胸が痛んだが彼女の気持ちもまた、同じだった。 「ねえ、島君。私も生きている限り、彼らのこと、ううん。私達が積み上げてきた歴史のひとつひとつを忘れないでいようと思うの。それから、ずっと信じていこうと思うの。これから私達に訪れる未来……ううん、私達のいない、ずっとずっと先の未来までも――。」 島は思わず、しげこを見つめた。 しげこは、にっこり笑って言った。 「――ってこれ、あの初航海の時にね、ちょっとくじけてた私に雪さんが言った言葉の受け売りなんだけどね。」 島は、眩しそうに空を見上げる。 そして、にっこり微笑むと力強く頷いた。 日が傾き始めて、二人の影が長く伸び始めた。 海からの風がわずかに強くなる。 島は、ふと傍らのしげこを見やった。 やさしく、穏かな眼差しだった。 「なあ。しげこちゃん、なんか用事ある?なければ、一緒にメシでも食わないか?」 「ホント?何ごちそうしてくれるの?」 「そうだなあ。俺、久しぶりにこっち(地球)だし、和食じゃダメ?」 「いいわよ。」 「よし。お店は俺に任せて!いいとこ、知ってるんだ。」 「ふふふ。それは楽しみ。それじゃあヨロシクね。」 二人は、にっこりと微笑み合うと、丘を振り返った。 そしてそこに眠る仲間たちに向かって元気良く手を振った。 「さ、行くぞ!」 島は、しげこの手をつかんで駆け出した。 一瞬、風向きが変わって、二人の背中を押し出すように風が吹きぬけていった 島は、顔を上げると、にやり――と笑った。 (バカヤロ!つまらん気を遣いやがって!) 島は心の底で、そう呟くと、もう一度そっと振り返り、微笑んだ。 懐かしい親友と、その恋人のために。 (俺も彼女も命をかけて生きていく。それが生き残った俺達みんなが出した答えなんだ。心配するな。俺は今だって、おまえらの最高の理解者なんだぜ。) はしゃぐように走る島に、しげこは苦笑した。 そして彼女も走る。 彼の大きな背中を頼もしく思いながら。 ――古代クン。私、きっと、このプロジェクトを成功させてステキな町を作るわ。 そしたらまた、ここに来る。 古代クン達に、きっとまた会いに来る。 やがて、メガロポリスに灯が、ひとつ、またひとつ――と点り、瞬き始める。 そしてそれを、まるで導くかのように満天の星々が煌く。 過去を忘れない限り――。 まだ見ぬ未来を信じ続ける限り――。 大いなる愛の輝きは決して消えたりはしないのだ――と島もしげこも思っていた。 |
■ END ■
MEMORIAL HOME Stories (YAMATO)