■ 虎縞のスカーフ ■ 〜 アクセス記念ストーリー 〜 ★ ゲスト:300カウンターゲッター サラン様 |
「はい。お茶。」 食堂の一角の喫茶コーナーに、ぶらぶらとやって来た加藤三郎に、サランは、いつものように日本茶を淹れて差し出した。 「お!サンキュ。」 加藤は嬉しそうに湯気の立つ湯呑みを眺めた。 虎縞模様の変わった湯呑……。 「こうやって加藤君の趣味の悪い湯呑にお茶淹れてあげるのも、今日で終わりね。」 「それを言うなよォ。淋しくなっちゃうぜ。」 そう言うと、加藤はテーブルに大袈裟に突っ伏してみせた。 サランは、ここ宇宙戦士訓練学校の食堂に住み込みで働いている母の手伝いをしていた。 当初、喫茶室などなかった上に、食堂のコーヒーは、お世辞にもウマイとはいえないシロモノだった。 ところが、ある時、彼女がコーヒーや紅茶を淹れて出したところ、たちまち、大評判になった。 あまりの人気ぶりに、急遽、喫茶コーナーが設けられることとなったのである。 「ん〜、んまいっ!サランちゃんの淹れてくれるお茶は最高だな。」 加藤は、しみじみと呟く。 その言葉にサランは嬉しそうに微笑む。 「でもこれ、ものすごく安ぅ〜いお茶っ葉なんだけどね。」 「安いお茶も淹れ方一つで変わるモンだよなあ。オバちゃんはさァ〜、メシはうまいけど、お茶はやっぱ、サランちゃんなんだよな。」 「相変わらず口が巧いわね。でも、そう言ってもらうと嬉しいけど。」 「ねえ。加藤君ってさ、おばあちゃん子だった?」 サランは、ふと思いついたように言った。 「そういうワケでもないんだけどな。どいうわけか俺、昔から近所のオバチャンに可愛がられる性質でさ。よく一緒に日本茶飲みながら、固焼きの煎餅とか季節の和菓子とか食ってたんだよ。そのせいかな。コーヒーも好きだけど、なんだか緑茶が落ち着くんだよな〜。」 加藤は、サランのお茶を味わいながら、やわらかな微笑を浮かべた。 「行くんでしょ、もうじき。」 サランは湯呑に2杯目を注ぎながら、ぽつり……と言った。 「ああ。今までありがとな。」 加藤は、うつむき加減に小さく笑って言った。 「イスカンダルかあ〜。14万8千光年なんて、想像できないなあ。ねえ、加藤君……。絶対に帰って来てよね。」 淋しげなサランに、加藤は元気よく答える。 「あったりまえだろ?絶対に帰ってサランちゃんに、またうまいお茶を淹れてもらわないとな。」 「そう来なくちゃね。」 湿っぽくなりそうな空気を振り払うようにサランも明るく答えてみせた。 「でもサランちゃんがホントに帰ってきて欲しい相手って俺じゃないだろ?」 「えっ!」 加藤の予期せぬ言葉に、サランは思わず声を上げた。 サランの反応に、したり顔の加藤。 「やっぱりなァ。しかもそれって、『王子サマ』だろ?」 サランの顔が見る見る赤くなる。 「やっぱ、図星?」 加藤は実に楽しそうな顔で言う。 やられた――。 サランは真っ赤な顔を更に赤くして、加藤に猛烈に抗議した。 「ちょっとあんた〜っ!!カマかけたでしょ〜っ!!」 加藤は、そんなサランの様子に、ますます楽しそうに天井を向いて笑った。 「うひひひひ。サランちゃん見てりゃあ、誰だってわかるさ。心配すんな。アイツの操縦テクニックなら敵さんのタマになんざ、絶対に当らねえから。安心しろよ。」 サランが好意を寄せている男――というのは、加藤より更に背の高い、山本と1、2を争うルックスの持ち主である。 また学科においては飛行科では常にトップであり、飛行テクニックも、エースの加藤、山本には及ばないが、これまたトップクラスである。 にもかかわらず、戦闘にはおよそ不似合いの、穏やかで、やさしい面立ちの男だった。 蛇足ではあるが、オトコのファンも多数いる――という恐しい噂さえある。 ――故についたアダ名が『王子サマ』。 「アイツ、知ってんのか?サランちゃんの気持ち。ま、俺が見たところ、アイツもまんざらじゃないみたいだけどな。」 「バカ!あんた、何言ってんのよ!!」 サランは唇を尖らせ、恥かしそうにソッポを向いた。 「お、噂をすれば……『王子サマ』の登場だ。ほんじゃ、ま、おじゃま虫は失礼するとすっかな?」 加藤は茹でダコの上をいきそうなほど真っ赤になったサランの肩をポン、と叩くと、軽く片目を瞑った。 加藤は、どこかぎこちない歩き方の『王子サマ』のボディに、すれ違いざま、軽くパンチを入れた。 「うっ!?な、何するンすか?加藤さんっ?」 不意打ちを食らった『王子サマ』は目を白黒させた。 加藤はにやり、と笑って耳元で言った。 「へっ!この色男!!バッチリ決めて来いよ!」 はっ、となって振り返る『王子サマ』。 ニカッ――と笑って親指を立てる加藤。 加藤はカウンターに湯呑を置くと、鼻歌を歌いながら上機嫌で食堂を出ていった。 後々、ここで飲んだ「お茶の味」を死ぬほど懐かしむことになるなど、知る由もなく。 |
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「おまえら逃げんじゃねえぞ〜っ!」 「きっと帰って来いよ!」 「必ず帰るから!」 様々な想いが交錯する、希望の艦――ヤマトへの行進。 (みんな、元気で待っててくれよ!) 決意の加藤、山本、ブラックタイガー隊の面々。 ――と、彼らの頭上を、ひらひらと舞う物体。 誰かの長い手が、すっと伸びて、それを、わしっ――と掴んだ。 「な、なんだ?」 加藤は思わず振り返る。 それは、虎縞のスカーフ。 サランが投げた、あんまり趣味がいいとはいえないスカーフ。 頭の上で「王子サマ」が、大きくそれを振り、力強い声で叫んだ。 「待っててくれよーっ!俺は、俺達は絶対、絶対、帰るからなあーっ!!」 群集の中で、その声に応えるように飛び跳ねながら、大きく大きく手を振り返すサラン。 「ちぇっ!あの野郎、うまいことやりやがって。」 言葉とは裏腹に、加藤の顔は、とても嬉しげに綻んでいたのだった。 |
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MEMORIAL HOME Stories (YAMATO)