■ LITTLE・TYPHOON ■

 
〜 アクセス記念ストーリー 〜

ゲスト:777カウンターゲッター えりえりえりママ様


「おおい!鶴見ぃ〜。面会だぞ〜!」

加藤の声に、当人よりも先に別室の野郎共が、わらわらと集まってきた。
皆、一様にニヤついており、鼻の下が伸びきっている。

「てめえら、部屋に引っ込んでろ!!まったく、どいつもこいつも――」
部屋から出てきた鶴見二郎は、大きな溜め息をついた。

月面司令部航空隊の宿舎に、鶴見二郎の姉が訪ねてきたのである。
用もないのに部屋から出てきたむさ苦しい野郎共は、皆、彼女が目当てだった。

「てめえらなあ。ウチの姉ちゃんは夫も子供もある身なんだぞ。物欲しげに見るんじゃね〜!!」
二郎が、ぎろり――と睨んだ。

「ばぁ〜か、おまえ、人妻ってとこがまたいいんじゃねえかよ!!なあ?」
一人が言うと、一同、何やら嬉しそうに揃って頷く。

「ったく。このハイエナ共が〜!!いいか。姉ちゃんに馴れ馴れしくすんな!!指一本だって触れるなよ!?」
二郎は鼻を膨らませながら釘を刺した。



「二郎!!元気にしてた?」
談話室のソファに座っていた小柄な女性が、やおら立ち上がり、大きく手を振った。
鶴見二郎の姉である。
彼女は、ショートカットが良く似合う、日焼けした褐色の肌の健康的な女性だった。

「姉ちゃん!!」
嬉しそうに顔を綻ばせて、鶴見二郎が駆け込んで来る。
「見ての通り、元気にやってるよ。姉ちゃんも元気だったか?」
「うん。私も丈夫なのが取り柄だからね。」
やんちゃ坊主のような二郎の頭をポンと叩いて、姉は、にっこりと微笑んだ。
「お義兄さんも変わりな――」
二郎は、ふと、言葉を切った。

「お!?エリも来てたのかあ。いい子にしてたか?」

姉の後ろから、恥ずかし気に小さな女の子が顔を出した。
それから「ウン。」と大きく頷いて、にっ、と笑う。

今年3歳になる姪の「エリ」だった。

エリは、母の元からパッと飛び出すと、叔父である二郎にしがみついた。
その頭を、やさしく撫でる二郎。

「じろう。あたらしいパンツ、かってきてやったぞ!」
エリは胸を反らして言った。
「お。そりゃあ、ありがとな。カッコいいヤツにしてくれたか?」
二郎は、そう言ってエリを抱き上げた。
「エリがえらんだんだもん。だいじょぶだよ。」
「そ……そりゃあ、嬉しいなあ……。どういうヤツ?」
二郎は苦笑いしつつ、尋ねる。
「うんとねえ。くまちゃんのとねえ。うさちゃんのだよ。」
得意そうなエリ。ひきつる二郎。
「く、くまちゃんとうさちゃんかあ……。そ、そりゃあかわいいなあ……。」
二郎の声が震えた。

その背中で、野郎共が笑いを必死で堪えている。
(くっそう!!あいつらぁ〜!!)
今度は、二郎の肩と拳が震えた。

「ねえ。じろう!かとちゃんはいる?」
エリは二郎の顔を見上げて尋ねた。
「え?」
きょとん――とする二郎の頭をぺちぺちと叩いて、じれったそうにエリが言った。
「はんちょうさんのォ、かとちゃんだよ。」
「か、加藤?」
「エリ、きょうは、かとちゃんにあいにきたんだよ。」
二郎は呻いた。
「う……。エリ、おまえね――」

二郎が、がっくり項垂れていると、ヘラヘラと、その「かとちゃん」が現れた。
「お姉さあ〜ん。お久しぶりっスぅ〜。お元気そうで何よりっスぅ〜。相変わらずキレイっスよねえ。ホントに似てない姉弟で良かった。お!エリ、おまえも来たのかぁ〜。おまえもオジサンに似なくて良かったなあ。将来、有望だぞ。ほれ、こっち来い。遊ぼうぜ!おい、鶴見、久しぶりなんだから、お姉さんとゆっくり話してこいよ!」
「か、加藤。すまないな。」
姉への軟弱な態度や言動に不満を抱きつつも、気を利かせたくれた加藤に、二郎は一応、感謝した。

一方、エリは、加藤の声に、二郎からパッと離れると、一直線に駆け寄る。
「かとちゃあ〜ん。エリねえ。かとちゃんにあいにきたんだよ。じろうはついでだよ。」
「おまえ、辛辣なこと言うね……。二郎が泣くぞ?」
加藤の言葉に澄ました顔でエリが言う。
「いいの。ほんとのことだもん。」
震える二郎の双肩……。
「ま、いっか。エリ、来いよ。」

加藤は、二郎の淋しい背中に同情しつつ、小さなエリに手を差し出した。
加藤の大きな手を、ぎゅっと握りしめるエリの小さな手。
長身の加藤を、そっと見上げるエリの瞳がキラキラと輝いた。

加藤は、鼻歌まじりに、エリを食堂に引っ張ってきた。
「サランちゃあ〜ん、あのさあ、アイスクリームかなんか、ないかな?」
「あるわよ。あら?また、かわいい彼女連れてるわねえ。」
「ウン。鶴見の姪っ子なんだよ。かわいいだろ?」
「ホント。将来すごい美人さんになるわね。」
サランが微笑んだ。

間もなく、サランが加藤にアイスコーヒー、エリには、チョコレートソースのかかったアイスクリームを運んできた。
「はい。どうぞ。」

エリは、サランの背中を見つめながら加藤に耳打ちする。
「ねえ。かとちゃん。」
「はん?」
「あのひと、かとちゃんのかのじょ?」
「あ?バ〜カ。違うっつうの。サランちゃんには、カッコイイ彼氏がいるの。」
「じゃ、かとちゃんは、かたおもい?」
加藤は呆れながら肩をすくめた。
「おまえ……いくつだよ。別に片思いなんかじゃねえよ。俺の恋人はコスモタイガーなの。」
「ふうん。よかった!」
エリの顔が、ぱぁ〜っと明るくなる。
「なんだよ。ヘンなヤツだなあ。」
加藤は再び肩をすくめた。

「ハッハッハッハッハ!」
誰かが大声で笑う。
振り返ると――いつの間にか山本明がいた。

「あ!なんだ、てめえ――」
笑われて膨れっ面の加藤。山本が苦笑した。
「ワリイ、ワリイ。なかなか面白いカップリングなんで、つい見入っちゃったよ。それにしてもニブいなあ、加藤。なあ、エリちゃん。エリちゃんは、かとちゃんが大好きなんだろ?」
エリの顔を覗きこむようにして尋ねる山本。
「……ウン。」
エリは顔を真っ赤にして、小さく頷く。

「ナリは小さくても女だなあ。」
山本は加藤の耳元で、そう言うと苦笑した。
「おいおい、山本……。コワイこと言うなよ。」
今度は加藤が赤くなる。
「そんじゃ俺、用事あるから。じゃな、エリちゃん。おい、色男!うまくやれよ。サランちゃん、ご馳走さま〜!!」
山本は凸凹カップルに向かってウインクをすると、楽しそうに口笛を吹きながら出ていってしまった。

「ちっ!ったく!なんなんだよ、アイツはよ!」
舌打ちする加藤。

山本が行ってしまって、妙な雰囲気になってしまった。
(ま、まいったなァ。山本がヘンなこと言うからよォ〜……。)
加藤は頬を掻いた。
ちらり――。
横目でエリを伺う。
やはり、こちらの様子を伺うエリと、バチッと目が合ってしまった。
慌てて、天井に視線を泳がせる加藤。
(うわ!マジで意識してどうするよ?相手は3歳児じゃねえかよ!!)

加藤は、そわそわと落ちつきなく、アイスコーヒーを、ずびっ…と一口啜った。
「え、エリ。アイス…早く食わねえと、溶けるぞ!」
加藤の言葉にエリはアイスクリームをパクッと一口食べる。
それから、口元をレースペーパーで拭いてから、おずおずと加藤に向き直った。

上目づかいに加藤の瞳を捉えるエリ。
「う……。」
逸らすに逸らせない。
まだ青い白目の、無垢な瞳……。
全身から、どっ、と汗が噴出す加藤。

「かとちゃん、あのさ。」
「な、なんだ?」
加藤は顔がカアーッと熱くなるのを感じた。
そんな加藤に、エリはもじもじしながら、小さな声で言った。
「かとちゃんはァ……エリのことすき?」
「え?ええ〜っ!?」
加藤は目を白黒させた。

「きらい?エリ、こどもだから?」
加藤の目を、じっと見つめるエリ。
「いや……なんていうか……その……。」
視線を逸らせて、しどろもどろの加藤に、エリは悲しげに目を伏せた。
「いいよ。べつに。かとちゃん、やさしいしカッコいいから、エリ、すきな子いるとおもってたんだ。」
そう言って顔を上げたエリの目に、今にも零れ落ちそうなくらいに涙がいっぱい溜まっていた。

――と、突然、エリは椅子から転がるように飛び降りると、パッと駆け出した。
「お、おい!!」
慌てて追いかける加藤。
しかし、エリは、一足早く食堂のドアをすり抜けて出ていってしまった。
「エリ、待てよ!おいっ!!」

以外に、すばしこいエリを、加藤は、とうとう見失った。
「まいったなあ。」

『ナリは小さくても女だなあ。』
山本の言葉が、ふと過る。
泣きたいのは俺の方だよ――。
加藤は頭を垂れて大きな溜め息をついた。

加藤は仕方なく談話室に向かって駆け出した。
「おい!鶴見!!エリ、来なかったか?」
「え?来ないけど。一緒だったんじゃないのか?」
驚いた顔の二郎。
「そうなんだけど、食堂から飛び出してっちゃったんだ。」
「なんだって?どうして――」
目を丸くしている鶴見姉弟に、バツが悪そうに頬を掻く加藤。
「それが、そのう……。」
口篭る加藤。
二郎の姉に視線を移すと、観念したように、エリとのいきさつを話す。

事情を説明されて、鶴見姉弟は大きな溜め息をついた。
「ごめんね。加藤クン、迷惑かけちゃって。あの子、おませだから。」
加藤は項垂れた。
「いえ。俺が悪いんス。なんていうか……俺、女の子の扱い、慣れてないっつうか、そのう――」

しかし、意外にも二郎は微笑んで加藤の肩を叩いた。
「いいんだ、加藤。おまえがいいヤツだってことは、俺も姉ちゃんも分かってんだ。姉ちゃん、ちょっとここで待っててくれ。立入禁止の場所もあるから、俺が探しに行くよ。」
「俺も探す。」
「ああ。頼むよ。」



加藤と二郎は、エリを探して、あちこち駈け回った。

さっきまでいた食堂。
厨房。
娯楽室。
物置。
宿舎内をくまなく探したが、いない。

「まさか……な。」
二人は、ふと思い当たって顔を見合わせた。

まさか格納庫には――。
二人は格納庫へ続く長い廊下を駆け出した。


コスモタイガーの並ぶ格納庫。
二人は懸命にエリの姿を探した。
しかし、ここにもエリの姿はなかった。

次第に二人の顔にも焦りの色が見え始める。
危険な場所に入り込んでいたりしたら――。

「どこ行っちゃったんだ!?」

二人が肩を落として格納庫を後にしようした時、仲間の1人が二人に駈け寄って声を掛けた。
「さっき連絡が入ったんだが、格納庫に侵入者があったらしいぞ。鶴見んとこのチビじゃないのか?」

二人は慌てて駆け戻る。



――エリは、格納庫の隅の、小さな物置の影にいた。
どうやら、そこは死角になっていたらしい。

「こんなところに――。」
加藤と二郎は、ほっと、安堵の溜め息をつくと、エリの傍らに揃ってしゃがみ込む。

そして――。
二人は顔を見合わせ苦笑した。
丸くなって膝を抱え、エリは小さな寝息をたてていた。
まだ、涙の乾ききっていない長い睫毛と頬。

「エリのやつ……。おまえのコスモタイガー、探してたのかな。」
「さあ、どうかな。」
「まったく、エリのヤツ、こんな危ねえとこに……。」

「鶴見。先にお姉さんの所へ戻っててくれ。」
二郎は加藤の考えを察して、頷いた。
「ああ。後、頼んだぜ。」
ニヤっと笑って、親指を立てる加藤。

二郎の背中を見送ってから、加藤はエリを抱き上げた。
なんだか、ふわり…と、やわらかなエリ。

加藤は、そのまま愛機に向かって歩いた。
「……!」
エリが、ゆっくりと目を覚ます。

「かとちゃん……?」
「あ、ごめん。起こしちゃったな。」
エリは、加藤の首にしがみついた。
「おへやがね。どこかわかんなくなっちゃったの。」
加藤はエリの頭を、そっと撫でると「もう大丈夫だよ。」とやさしく言った。
小さく頷くエリ。


「ほら。これが俺の恋人だぞ。」
加藤はコスモタイガーを愛おしそうに撫でながら言った。
「これが俺の大事なコスモタイガーだ。どう?美人だろ?」
加藤の腕の中で、目を瞬かせるエリ。

加藤はエリを抱いたまま、キャノピーを開いてコクピットに座る。
「今日は特別に中を見せてやるからな。」
エリは、こくり――と頷いて嬉しそうに笑った。
「かとちゃんやじろうは、いつもこれにのってるんだね。」
エリは操縦桿を握って楽しそうに言った。
「ああ。」
やさしく頷く加藤。

「ごめんな。俺、女の子から『好き』だなんて言われたことないからさ。びっくりしちゃったんだよ。」
いつになく、静かで穏かな加藤の声。
仲間内でも、こんな声で話す加藤を見た者は、恐らくいないだろう。

「ううん。かとちゃんはわるくくないよ。エリがわるいんだよ。ごめんなさい。」
エリは小さく首を横に振ると、素直に謝った。

加藤は、エリの小さな手を上から包み込むように、そっと重ねて操縦桿を握った。
「あのな。俺の頭の中は、いつも、こいつのことでいっぱいなんだ。なんていうか今の俺は女の子のことより先に、こいつのことを考えちゃうんだ。こいつに乗ってると、女の子のことなんか、すっかり忘れちゃうんだな。それに……ここにいたら、遊園地や動物園で遊んだり、オシャレなお店で食事したり……買い物したり、フツウの恋人同士がするようなデート、できないだろ?エリは俺とそういうこと、したかったんじゃないのか?」
加藤の言葉に、エリは振り返り、その顔を見上げる。
「ちがうよ。えりはねえ。かとちゃんのそばに、ずっといたいの。」
加藤は穏かに笑った。
「そうか。そういう女の子がいてくれるっていうのは、嬉しいなあ。」
「ホント?」
エリの潤んだ瞳が、ぱあっと輝く。
加藤の大きな手がエリの頭を、そっと撫でた。
「ホントさ……。なあ。エリが大きくなって……世の男共が、み〜んなクラクラしちゃうくらいに、いい女になって……。エリが俺のことを、まだ好きでいてくれて……相変わらず俺に彼女がいなかったら――そん時は、お婿サンにしてくれる?」
「う〜ん。どうしようかな。」
エリは、鼻の下を人差し指でこすりながら、考え込む。
「おいおい……。そこで悩むなよ。」
肩をすくめて苦笑する加藤。
「そうじゃないよ。エリが、お嫁さんになるんだよ。」
エリは照れ臭そうにそう言うと、加藤に抱きつき、その頬にキスをした。
加藤は、そんなエリを、やさしく抱きしめる。
「ようし。じゃあ、かとちゃんも、男を磨かなくちゃだな。それからなあ。二郎にもやさしくしてやれよ。あいつ、ホントにおまえを大事に思ってるんだぞ。さっき、おまえがあんなこと言うから、だいぶ、しょげてたぞ。」
エリは、ペロリと舌を出した。
「だいじょうぶ。だってエリ、じろうのことも大好きだもん。」
「よし。じゃあ、お母さんのとこへ行こう。心配してるぞ。二郎なんか、泣いてるかも知れないぞ!!」
「ウン!」
エリは元気良く返事をした。

加藤はコクピットから出ると、エリを肩車する。
「よおし!お母さんと鶴見の待ってる談話室に向けて、コスモタイガー緊急発進だ!行くぞ!!キイーン!!」
二人は、油臭い格納庫を抜けて、駆け出した。
小さなパイロット・エリは、コスモタイガー加藤を駆って、長い廊下を、はしゃぎながら滑空した。
二人の顔は、どちらが大人で、どちらが子供のなのか分からないくらいに無邪気だった。



(行っちゃったな……。)
月基地を飛び立って地球に帰って行く民間宇宙船。
再び静かになる月面司令部航空隊宿舎。


窓の外の宇宙船を静かに見送りながら、加藤は、少し寂しげに微笑んで呟いた。


「また来いよ。まめ台風……。」


■END■


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