「ゴールデンウィークだー!」
サランさん作
1)
明日からゴールデンウィークに突入だ!旅行に行く人もいれば、ゲームづけになるぞという人もいる。仕事の人もいる。そして古代家では・・・
「古代クンがゴールデンウィークに休めるなんて珍しいわね」
「うん。なぜか急に休んでもいいって言われてさ。ちょっと拍子抜けだけどね」
「ジェインが聞いたらうらやましがるわよ!ダーリンはずっと仕事だって、すっごくぼやいてたから」
進が休めるようになったのは真田が手を回したからだということを、進も雪も知らない。
「わ〜!じゃ、パパ、あしたもその次もその次もずっとみおと一緒?」
2歳の澪が進の膝に乗っかってきた。
「そうだよ。けど急だから旅行は無理だしなあ・・・」
「じゃあさ、明日は○△スーパーに行こうよ!」
絵を描いていた航が顔を上げて言った。
「買い物かい?荷物持ちもたまにはいいかな」
「違うよ!仮面タイガーが来るの!」
「仮面タイガー?」
「あらやだ、パパ知らないの?20世紀から続いている、ヒーローもの仮面ラ○ダーの仲間よ」
「あれ、まだ続いてたの?俺も子どもの頃よく見てたんだよ。でも、それじゃ澪には」
「みおも大好きだもん!へんし〜ん!タイガーキック!」
澪が進に攻撃を開始した。変身して航も加わった。
「やったなあ!悪い子は食っちまうぞ〜!ガオ〜〜〜〜!」
「「キャッハハハハハハハハ!」」
ソファの上でどたんばたんと大騒ぎだ。
「こらっ!暴れるなら、あっちの広いとこでやりなさい!」
「は〜い!・・・一番怖いのはママだな」
「パパ!何か言った?」
「あ、いや、その、ママはいつもきれいだなって。ほら、航、澪!こっちで続きやるぞォ!ガオ〜〜〜〜!」
「もう、古代クンったら!」
そう言いつつも優しい笑みを浮かべている雪だった。
2)
翌日の○△スーパーの駐車場
まさにイベント日和の晴天で、午後には暑くなりそうだ。まだ午前中なので客は少ない。しかし、駐車場に作られた特設ステージの裏でジャージ姿の5人の男が、飛んだり、組みあったりと激しく飛び回っている。それをじっと見ていた男が拍手をした。
「いやあ、さすがですね。瀬田先輩も加藤先輩もすごいっすよ!少ししか練習できなかったのに、僕たちより迫力ある演技しちゃうんだもんなぁ!」
「お前がどうしてもって言うから仕方なくやってるんだろ!ったく!」
四郎はそうは言うが、結構楽しそうだ。あれはちょうど、1ヶ月ほど前のことだった。
格納庫で四郎がコスモタイガーの整備をしていると、携帯電話が鳴った。
『せんぱ〜い!助けてくださいよぉ〜!僕、僕、ど〜しよ〜!』
「久々に電話をかけてきたと思ったら、何なんだよ!情けない声出しやがって!急ぎじゃないなら後で話し聞いてやるから、夕飯おごれよ!」
訓練学校・飛行科の後輩、木場からだ。操縦技術はなかなかのものだったが、敵であっても撃つことができず、地球防衛軍には入らなかった。彼は子どもが好きで、体の身軽さをいかして、ヒーローもののプロダクション会社に入っていた。そしてその夜、陸戦部隊の瀬田も呼び出されていた。
「お前どうしたんだよ、その腕!」
「だから、これなんですよぉ!僕、今イベントでの仮面タイガーの中身やってるんですけどね、その練習中にこの左腕折っちゃって、さらに相方も足の骨にヒビが入っちゃったんですよぉ」
「「それで?!」」
察しがついたのか、瀬田と四郎の少しどすのきいた声がはもった。
「お願いです!お2人で仮面タイガーと悪役、やってください!」
「はあ?他にも人はいるだろ?」
「普段の土日は穴埋めできるからいいんですけど、ゴールデンウィークは日本中子ども向けのイベントだらけで、人が足りないんです。そのゴールデンウィーク中だけでいいですから。せんぱ〜い!助けて下さいよぉ!じゃないと、僕、仕事なくなっちゃうんですよぉ!!!」
「でも、俺たちは公務員なんだぞ!バイトはまずいだろ?」
「それは大丈夫!2人とも顔見えないから、わかりっこないって」
「ところで、どっちが悪役なんだ?」
「そりゃあ、もちろん瀬田せん・・・」
けが人のため多少加減はしたようだが、木場の顔がぼこぼこにされたのは言うまでもない。
というわけで後輩に泣きつかれると弱い瀬田と四郎は、渋々了解したのだった。仮面やヘルメットなどをかぶると急に元気になる木場が演技指導をしたのだが、練習をはじめたころは2人ともぎこちなくて仕方なかった。ケンカなら任せておけってなもんだが、演技として決められた通りに動かなければならない、実際には殴られていないのに、殴られたように倒れなきゃいけないってのは思ったより大変だ。いっそ本当に殴ったり蹴ったりしてくれたほうが2人にはよっぽど楽だったが、そういうわけにもいかないので、仕事を終えた後、練習に練習を重ね、何とかゴールデンウィークに間に合ったところだ。
「これなら子どもたちは大喜びですヨ!さ、リハーサルはこのくらいにして、本番前の腹ごしらえをしましょう」
そう言って、みな控え室の白いテントの中に入っていった。
一方古代家では、早朝から2人の子どもがおおはしゃぎだ!パパとずっと一緒にいられる。ママもずっと一緒にいられる。それがとにかくうれしくて仕方がないのだ。進はまだ寝ていたのに、航と澪にドンっと乗っかられて無理やり起こされたのだが、2人の愛くるしい顔を見ると、かわいくてかわいくて怒ることなどできない。
「パパ!キャッチボールしようよ!」
「兄たん、だめ!パパはみおとおままごとなの!」
「ハハハ!いっぺんには無理だな。あっ!」
雪が洗い物をしている音がする。
「まずはママのお手伝いからだ!」
進はさっと部屋着に着替え、ヤダ!と口を尖らせる子どもたちと雪のところへ行った。
「ありがとう!けどいいわよ。子どもたちと遊んでて」
「でもいつも君ばかりにさせてしまってるから手伝いたいんだよ。何でもいいつけてください。生活班長殿!」
「フフフ!そうね、じゃ洗濯物とお布団を干してもらおうかしら。航と澪もパパのお手伝い、がんばってね!その間にホットケーキ作ってあげるから」
「やった!やった〜!お手伝い、やる、やる〜!」
手伝いというか、邪魔してるとも見えなくないが、ともかく洗濯物と布団はしっかり干され、その間に古代家はホットケーキの甘い香りで包まれ、遅い朝ご飯だか、早いお昼ご飯?となった。そしておなかがいっぱいになると
「さ、じゃあお出かけしましょ」
「ん?スーパーに行く前にどこかに寄るのかい?」
「パパ、スーパーに行くに決まってるじゃない!」
「「スーパー!スーパー!」」
澪と航ははやしたてるように繰り返す。
「だって、仮面タイガーショーの時間までには、まだだいぶあるんだろ?」
「ほんとに知らないのね。タイガーはすっごい人気なのよ!場所取りには遅いくらいよ!」
「へえ〜!じゃ、車を出すか」
「だからあ、たくさん人が来るから、今日は車もダメなの!」
「へ?じゃあどうするんだよ、あそこ歩いていくにはちょっと遠いだろ?」
「自転車があるでしょ。パパのはスポーツサイクルだから、私のに乗って航をよろしくね。私はパパので、澪をおぶっていくから」
そんなわけで、進はママチャリの後ろに航をそして雪は澪をおぶってスポーツサイクル車でのサイクリングとなった。
「パパ〜、ママに負けてるよ!もっと早くこいでよ!」
「おい!航暴れるなよ!よけい遅くなるだろ!雪〜待ってくれよ〜」
だいぶ前を雪は走っていたが、止まりもせずにちょっと振り返って叫んだ。
「何言ってるのよ。いつもはそこに澪も乗せて私は走ってるのよ!」
「う・・・・」
道端のよもぎが手を振っているかのように楽しげにゆれている。
3)
スーパーに近づくと同じように子供を乗せて自転車を走らせているお父さん、お母さんが増えてきた。行き先はみな同じだ。進と雪もその流れにのってようやく○△スーパーにつき、自転車を止め会場に行った。しかしステージ周辺は幾重にも人だかりができている。
「うおっ!なんでこんなにいるんだよ!」
「だから言ったでしょ、すごい人気だって!まだ1時間くらいあるわね。私が場所取りしてるから、パパは2人を連れてちょっと遊んできて」
「わかった。じゃあ、あそこのすべり台のところに行こうか?」
「みお、ヤマトに乗りたい!」
「僕はブラックタイガーがいい!」
「???」
子どもたちに引っ張られて行った先は、スーパーの2Fのちょっとした遊技場でユーフォーキャッチャーやガチャガチャ、そして幼児向けの全長1メートルほどのかわいい乗り物、消防車やパトカーそしてやけに丸っこいヤマトがあった。
「へえ〜!ずいぶんとかわいらしいヤマトだなあ」
かわいいヤマトを進が見ているとき、航はなんとかちっこい妹を乗せようと澪を抱えて持ち上げるが、足を浮かせるのがやっとで、とてもじゃないが乗せられない。
「兄たん、いたいよぉ!」
「もうちょっと・・・」
「いたいってばあ!」
兄の好意なんてわからない。澪は無理やり抱えられて苦しくて、頭を振り回して抵抗した。
「あっ!パパが乗せてやるから・・・」
しかし、ちょっと遅かった。
ゴチ〜〜〜ン!
澪の頭が航のあごに見事にヒットした。
「「うわ〜〜〜〜〜〜〜ん!」」
2人の泣き声が同時に響いた。航も澪のためにがんばったんだ。怒るに怒れない。
「今のは痛かったなあ。航もがんばったけどもうちょっと力をつけてからだな。澪もお兄ちゃんは澪のためにがんばったんだから・・・」
「だってえ、だってえ、みおいたかったのに、兄たんが!」
「なんだよ澪!兄ちゃんだってさあ・・・」
ふくれっ面の2人はにらみ合い、そして澪が手を振り上げた。
「こんなとこでケンカするな!パパがヤマトに乗せてやるから、もうケンカも泣くのもおしまい!ほら、航もブラックタイガーに乗るんだろ?」
澪をヤマトにまたがせ第一艦橋の横に突き出た棒をつかませて、進はコインを入れた。
タンタッタタ〜ン♪タッタ タッタタ〜〜〜♪
あのメロディとともに水に浮いているかのように、ゆったりとヤマトがゆれだした。
「キャハハハハハハハ!ヤマト!ヤマト!」
ついさっき大泣きしていたというのに、もう澪は無邪気に笑っている。
「パパ!こっちも早くコイン入れてよ!」
航もほほに涙の後があるのにもうニコニコ顔だ。
「おっ!すまんすまん。って、これがブラックタイガーなのか?」
こちらもやけに丸っこい。しかし初期のデザインどうり、サメのような目と歯が描かれている。
(あいつら、よく磨いてたっけなあ)
コインを入れるとブラックタイガーのテーマが流れた。こちらは縦に横にと結構揺れが激しい。そして航が操縦桿の上のボタンを押すと
ズキューーーン! ドッカ〜〜〜ン!
にぎやか過ぎる音の中、航と澪のはしゃぐ声が響く。生死をかけて戦ったヤマトが、今やおもちゃ・・・。平和、そう平和になったんだ!と、進はひとりしみじみとしていた。すると主婦らしい2人の女性のひそひそ声が聞こえてきた。
「ねえ、ねえ!あれ、ヤマトの古代くんじゃない?」
「うっそお!私の古代くんが親父になるわけないじゃない!だって古代くんなんだから!」
「そうよねぇ!あっ!タイムサービス始まっちゃう」
(・・・私のってねえ)
『本日もご来店ありがとうございます。まもなく特設ステージにて仮面タイガーショーが始まります・・・』
子どもたちが待ちに待った店内放送が響く。
「パパ!おろちて!」
「よし!じゃ、行くか!」
さっきよりさらにすごい人だかりのステージへと3人は向かったが、その途中にある白いテントに航が気づいてしまった。
「あそこにタイガーがいるかも!」
そのテントに走っていく。そう、確かにタイガーとなるべき人はそこにいる。が、見ちゃだめなんだ!進は航を追いかけるが、澪を抱えている上にこの人ごみ。とても追いつけない。やっとの事でテントの前に来たが、航はテントの隙間から見てしまった。
「あっ!タイガーと怪人が仲良くしてる!」
「こらっ!見ちゃダメだ!行くぞ!」
「ねえ、パパ、へんだよ!」
「いいから来い!」
進は航の手を引き、雪のところへ向かった。
4)
すっかりタイガーと怪人になった四郎と瀬田は、顔を見合わせた。
「なんか、聞き覚えのある声がしたような・・・」
「・・・き、気のせいですよ、きっと」
「そうだよな、そうでなきゃ困るんだ。ジェインにも内緒なんだから、ばれたらせっかくのバイト料持ってかれちまうよ」
2人は無理やり頭に浮かんだ顔を打ち消した。そして、ステージに仮面タイガーのテーマ曲が流れた。
『せまる〜ジョッカ〜♪地獄のぐ〜ん〜だ〜〜〜ん♪』
テーマ曲とともに長い髪を頭の上のほうで2つにかわいく束ね、ちょっと時代錯誤の派手なショートパンツのお姉さんが元気に出てきた。
「良い子のみんな〜!こんにちわ〜!あれ〜?声が小さいぞ。もう一回!こんにちわ!」
「「「こ・ん・に・ち・わ〜!!!」」」
子どもたちの地面も割りそうなほどの大きくて高い叫ぶような声が固まりになって響いた。いつも通りの始まりだ。裏では子どもたちの呼ぶ声を合図に飛び出そうと仮面タイガーの四郎が身構えていた。心臓が高鳴る。前にもこんな・・・、そうだ!コスモタイガーの初陣のときだ。状況はまったく違うがこうした緊張感は嫌いじゃない。
頭の中で、舞台の展開をなぞっていると、後ろから木場に声をかけられた。
「先輩!このマイクを急いでつけてください!」
かなり慌てふためいている。
「は?マイクって何だよ!俺は動くだけでいいんだろ?」
木場の後ろでベテランの音響さんが小さくなっている。
「それが音響さんがタイガーの声の入ったディスクを忘れちゃったんですよぉ!僕の声は弱々しいし、音響さんは逆に渋すぎ。あとは舞台に出る人だけだから加藤先輩にやってもらうしかないんですよぉ!」
「四郎!やれよ!俺よりずっとらくじゃねえか!」
「瀬田さんまでそんなこと言うんすか?そりゃ、せりふは少ないから覚えてるけど・・・」
「じゃ、問題ないじゃないですかぁ!加藤先輩の声はヒーロー向きだから決まりますよ!」
「そうおだてられてもなあ」
「ほらっ、ステージ前に集まった子どもたちを見てくださいよ!あの子たちをがっか
りさせたいんですか?」
「・・・わかったよ。早くつけろよ」
乱暴に脱いだタイガーの仮面に高性能の小型マイクが取り付けられた。四郎の緊張はさらに増し、マイクに心臓の音が入るのではと思うほどだ。
(兄貴なら、こうゆうの得意なんだけどなあ・・・)
小さい頃、よく兄弟でヒーローごっこをやったが、変身してかっこいいせりふを言うのはいつも兄、三郎だった。たま〜に逆の時もあったが。
「「「仮面タイガー!!!」」」
子どもたちが呼んでいる。え〜い!当たって砕けろだ!ステージに颯爽と仮面タイガーが現れた。
5)
はじめこそぎこちなったものの、子どもたちの声援に押され四郎はすっかりその気になっていた。怪人の瀬田やジョッカーの戦闘員との戦いも無難にこなし、一度ステージ裏に引っ込んだ。ステージは悪役のみ。その悪役はお決まりの、子どもたちの中から仮面タイガーを倒すための戦闘員を募集した。みんな仮面タイガーのファンなのに、子どもには関係ない。とにかく手を挙げる。その中にひときわ甲高い声をあげる女の子がいた。その子を肩車している父親の顔を見て口以外は隠れている瀬田の顔は、蒼白となった。キィキィと言いながら、戦闘員3人は各1人づつ元気のいい子をつれてくる。
(あの子だけはやめてくれ〜!)
瀬田の悲痛な心の叫びは戦闘員には届かず、その女の子は父親の肩から飛び降り、戦闘員に受け止められてステージにきてしまった。
「そ、そ、それでは、これからタイガーを倒すための特別訓練を行う!まずは自己紹介からだ!(急に優しい声で)お嬢ちゃん、お名前は?」
「こだいみお!2しゃいだよ!」
マイクにかじりつきそうな勢いだ。澪はじっと瀬田の顔を見た。その純粋そのものの目は、何もかも見通すのではと思うほど強い光をはなっている。
(い、いかん!何か言わなくては)
「み、澪ちゃんかわいいねえ!大きくなったらすっごい美人になるだろうね。そしたらお兄さんのお嫁さんになってくれないかなあ?」
「ヤダ!みおはパパのお嫁しゃんになるんだもん!」
「男の魅力がわかってないなあ。あいつより俺のほうが・・・ととと、次行こう!ハイ、君の名前は?」
ステージでは子どもたちとのやり取りが続く。その時四郎はステージ裏で仮面だけはずし、珈琲を飲んでいたが、女の子の名前を聞いて危うく吹き出しそうになった。
「ってことは・・・」
そっとステージをのぞいてみた。あの女の子は確かに澪だ。そしてその先の客席には照れている進、その肩にはうらやましそうにステージを見ている航、そしてカメラを構えている雪がいた。
「おい!木場!古代さんたちが来てるじゃないか!どうすんだよ!」
四郎は木場の襟をつかみ、首が取れんばかりに激しく揺らした。
「せ、先輩、落ち着いてくださいよぉ!顔が隠れてるんだから大丈夫っすよぉ!それに今さらどうにもならないし・・・」
「う・・・」
ステージから子どもたちが去り、何故か怪人たちにお姉さんが捕まっている。そして子どもたちの大合唱が始まった。
「「「タイガー!タイガー!タイガー!」」」
しのごの言ってなどいられない。仮面タイガーはバックテンでステージに登場し、その勢いのままお姉さんの両側にいた戦闘員を蹴り飛ばし、その隙にお姉さんが逃げた。
「フフフ!待っていたぞタイガー!今日こそ決着をつけてやる!」
「みんな〜!お姉さんと一緒に応援して〜!タイガー!タイガー!」
子どもたちの歓声がさらに響き、空気がゆれる。瀬田の手にも力が入り、寸止めにするはずが思いっきり四郎を殴ってしまった。
「「「タイガー!タイガー!」」」
(大丈夫さ。俺は正義の味方だ!負けはしない!)
仮面タイガー・四郎は立ち上がり、怪人・瀬田にタイガーキックを炸裂させた。
(このヤロー、調子に乗りやがって!こちとら陸戦部隊だぜ!ひこうき野郎に負けるかよ!)
「「「タイガー!タイガー!」」」
「パパ痛いよ!」
「あっ!ごめんごめん!」
肩車をしている航の足を抑える手に、つい進も力が入る。進は知らない。自分の体にかつてタイガーと呼ばれて四角いマットの上で戦った男の血が流れていることを。ステージでは息もつかせぬ戦いが続く。
「キィ キィ!」
「キキキキ、キッキキィ?」
・・・
戦闘員たちがステージ脇で2人を見守りつつ会話をしている。訳すと
『おい!この2人マジで戦ってるぞ!』
『元々戦いのプロなんだから、俺たちじゃ止めようがないな』
『迫力あって断然面白いし、いいんじゃないの?このままで』
『でも、タイガーが負けたらどうすんだよ!』
『そ、それはまずいな』
その様子をさらに青い顔をして木場は見ていた。
「あぁ〜〜〜!一番恐れていたことが起きちゃったよぉ!これでタイガーが負けたらどうなるんだよぉ!悪役が勝っちゃダメなんだってばぁ!」
そんな心配をよそに2人の戦いは続いている。
仮面タイガー・四郎の構えがちょっと変わり、甲高い声が響いた。
「アチョ〜〜〜〜!アタタタタタタタタタタタタ!・・・お前はもう、すでに死んでいる!」
「な、何を!お、俺はまだ・・・」
今だ!息も絶え絶えになった怪人・瀬田を戦闘員3人が抱えるようにステージ裏にひきづっていった。そして効果音!
ボッカ〜〜〜〜〜ン!
ロボットじゃないのに爆発音。それはともかく、かくして怪人は消え、平和は訪れた。客席は静まり返っていた。
「これってタイガー?」
お姉さんさえきょとんとしていた。しかし何とかしなくては!小声で四郎にささやい
た。
「ほら、決めのポーズは?」
まだ肩で息をする仮面タイガー・四郎は子どもたちのよく知っているポーズを決めた。
ワ〜〜〜〜〜ッ!
大歓声と、割れんばかりの拍手!
「あれってまだテレビでもやってない新技だよ!」
「すっご〜い!」
仮面越しに四郎の目にも大勢の子どもたちの姿が見えた。これだけで武器になるんじゃないかと思うほどのパワフルな子どもたちの歓声。自分に向かって最大限のエールを送ってくれている。今、自分はまさに子どもたちの憧れの的、スーパーヒーロー仮面タイガー・四郎なんだ!
「みんな!応援ありがとう!また何かあったら呼んでくれ!」
軽快な足取りでステージを去っていった。
6)
控え室ではトレーニングエアに着替えた瀬田が、シップの臭いをぷんぷんさせながらむっとした顔でスポーツドリンクをがぶ飲みしていた。その怒りのオーラに木場は部屋の隅で震えている。そこに四郎が帰ってきた。
「おい、四郎!俺がこんなモコモコしたのを着てなきゃ、お前に負けたりなんかしないんだからな!」
「子どもたちの笑顔っていいもんっすねえ!こりゃ何が何でも地球を守らなきゃ!ってファイトが湧いてきますね!」
「・・・そ、そうだな」
怒りのオーラを発していた瀬田だったが、四郎の言葉に急速にクールダウンし、木場は逆に勢いづいた。
「そうでしょ!瀬田先輩も加藤先輩も僕がこの仕事が好きなわけ、わかるでしょ?シナリオから外れて二人がマジになった時はどうなるかと思ってましたけど、最高っすよ!明日は△△町の子どもたちが待ってますからね。あ、加藤先輩!最後にもう一仕事、子どもたちと握手と写真をお願いしますね」
「了解!」
仮面タイガー・四郎はまたステージに飛び出した。
握手を待つ長蛇の列。その1人1人と握手をし、記念写真を次から次へと撮っていく。そして終わりのほうに古代一家が並んでいた。澪はステージに上がったうえに記念品までもらっていたので、上機嫌だった。しかし航は悔しいのかちょっとむくれている。そして進はそんな2人の手を引きながら、つい夢中になってしまった自分に照れつつも楽しそうだ。だが雪が一番いつまでもニコニコしていた。
「面白かったけど、そこまで笑えたか?」
「え?だってあのタイガーと怪人・・・ううん、面白かったわよ、とても!」
(やだな!古代くんったらあれが瀬田さんと四郎くんだってこと気づいてないんだ。
ほんと鈍感なんだから)
「あのタイガーと怪人、いい動きしてたな!地球防衛軍にスカウトしたいくらいだ!」
「それは・・・ほんと、そうね!」
そしてタイガーと握手する番となった。
(げげっ!古代さんたちのこと忘れてた!)
調子付いていた仮面タイガー・四郎の動きが一瞬止まった。しかしもう、覚悟を決めるしかない。今までの子どもと同じく、航、澪と握手をした。その様子を進が他者の目などまったく気にせずに写真を撮りまくっている。やはり進は気づいてないようだ。
(よかった〜!それにしても古代さんて、いいパパだな)
なんてほっとしたのもつかの間、耳元でそっとささやかれた。
「かっこよかったわよ、四郎くん!瀬田さんもステキだったわ!伝えといてね!」
ザーーーーーッ!仮面で隠れた四郎の顔に滝のように汗が流れた。
「おい雪!早く来いよ〜!」
「は〜い!今日はご馳走にしようね!」
汗だくの四郎を残し、幸せそうな古代一家はスーパーへと消えていった。
がんばれ四郎!がんばれ瀬田!明日は△△町の子どもたちが待っている!
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<ちょほいと楽天のヒトコト>
私の現在連載中の長編の登場人物・瀬田クンを出演させてくださいました。
ごくごくフツーの、お隣りの古代さんち物語みたいで、とっても親近感のある楽しいお話でしたでしょ♪
是非是非、シリーズ化して欲しいと思った楽天であります。
それから、もうひとつ、お楽しみが。
このお話、同じ世代の方だったらニヤリ、としちゃうようなハナシがちょこちょこっと出てきます。
いつかどこかで見たような聞いたような、ヒーロー達です。はい。
お気づきになられたでしょうか?ふっふっふ。