哀愁の屋台より愛をこめて
「いいんじゃないのォ、べつにィ。」
すらりと背の高いプラチナブロンドの少女が、小太りの青年に向かって面倒臭そうに言った。
「けどさぁ。」
少女の反応が青年には不服とみえ、口が尖る。
「そういう男だってさぁ。充分、承知の上で惚れたんでしょぉ?だったら、いいんじゃないのぉ〜?」
少女はそう言って、皿の上のじゃがいもを箸でつついた。
「でもよぉ。」
憮然とする青年。
「あんたが納得いかなくったってさぁ。当の本人はそれでいいってんだから、あんたがとやかく言うことじゃないと思うけど、どうよ?」
そんな青年に対して、少女はうんざりとした面持ちで言った。
「そりゃそうなんだけどな。」
青年は深い溜め息をつき、コップの酒をちびりと舐めた。
「ま、愛情のかけ方にもいろんなカタチやらケースやらあるんじゃない?どれが正しいってわけでもないしさ。いいじゃない、ヒトそれぞれで。」
他人事のように言い放つ少女に、青年は子供のようにふてくされた。
「俺だってさ、わかってるよ。そんなことくらい。」
「ま、あの男を宗旨がえさせるには、とっ捕まえてグリグリ洗脳でもしない限り、無理だと思うけどね。」
少女はそう言うと、青年の横顔を“やれやれ”といった面持ちで見やり、大根をふたつに割った。
「おじさぁ〜ん。はんぺんと昆布ね。あ、そっちじゃないやつ。違ぁーう。そっちの味の染みてるやつ。そうそう、それ。」
20世紀風レトロな「おでんの屋台」で、二人は見た目にですら、まるで釣り合わない上に、話も全く噛み合っていなかった。
なのに何故か肩を並べている、風変わりなコンビ。
互いに噛み合っていなくても、何故か食べることには共に満足しているようである。
「なんとなく、雪がかわいそうでさ。大体、古代のヤツが鈍すぎるんだよ。」
溜め息のように言いながら青年は卵をふたつに割ると、その半分をぱくり、と食べて、目を細めた。
「うめぇ!」
「まったくね。ああいうところは、限りなくバカだと思うね、ワタシも。
ま、そうは言っても、あの男のそういうところがまた彼女には魅力だったりするんじゃないの?
但し、私はあのテのオトコ、御免蒙るけどねぇ。」
少女も青年に倣い、卵を半分に割って、ひとつを口に運ぶと、これまた同じように目を細めた。
「くぅーーーっ!うまい!」
「だからアンタもねえ、放っときゃいいんだよ、放っときゃあ!
気にかけたところで、あのふたりのことだ。後でこっちがバカバカしくなるに違いなんだから!
大体ねぇ〜、私から見たらさ。彼が彼なら彼女も彼女だと思うけどね?
似たもの同士っての?
なんだかんだあのご両人ってさ。よっぽどのことにでもなってない限りは、うっちゃらかしといて平気なんじゃない?
あんたも付き合い長いならさァ、そんなことはもう1から10まで学習済みなんじゃない?」
「ちっ!おまえ、ほんと容赦ないよなァ……。」
青年の非難めいた言い方に、少女はむっとして言った。
「そんなに言うならワタシにグチってないで、己で一肌脱ぐとかさ。してみれば?」
「そ、そりゃそうだけど……。」
口籠る青年。
「もう面倒臭いやつだなあ!ほいじゃぁ〜、彼と仲良しのライバル君、ええと、なんてったっけ?ほらあの、濃い系の男前の……。
ううんと、あれだよ、航海長のモミアゲ君。」
「島、だよ、島!
っつうかさぁ〜、おまえ。濃い系のモミアゲ君って、なんて呼び方しやがるんだよ!
――って俺、今ちょっと笑いそうになった?」
名前の出て来ない少女に答えながら、青年は吹き出した。
「笑ってるよ、しっかり!むしろ、笑いすぎ?」
「だってよぉ!ぐふっ!ぐふぐふぐふっ!確かにあいつ、濃いからなァ!ぶふふふっ!」
じわじわとツボに入って、青年はテーブルを叩きながら涙を流して笑っている。
それを横目で見て、少女は呆れながら溜め息をついた。
「ああ〜あ……。ケンちゃん、あんたが笑うなよ……。
その島ってモミアゲ君に相談してなんとかしてもらったら?面倒見がいいって話だけど?」
「どうせ、おまえと同じこと言うと思うよ。放っとけ!ってさ。」
青年は涙を手の甲でごしごし拭いながら言った。
「だろうね。
どうでもいいけどさ。あんた、ヒトの心配する前に自分はどうなわけ?」
青年の唇が尖る。
「……。放っとけ!」
「……不毛だな。」
あくまで冷淡な少女。
「くうううううっ。」
項垂れる青年。
「オジサン、もち巾着、ケンちゃんに入れたって。
泣くな、ほれ。私からのおごり。」
「ううううう。」
青年の肩が揺れる。
しかし、しっかり遠慮なく、少女からのもち巾着を頬張る青年。
「私も何やってんだか……。はぁ……。」
少女も深い溜め息。
「どうでもいいけど、ケンちゃん、なんでアンタ、そんなにあのふたりに肩入れするわけ?」
改めて訊ねてみる。
「……あいつら揉めるとさァ、何かと俺らがメイワクすんだよ。
俺、今回は古代のヤツと仕事いっしょなのよォ。わかるでしょォ〜?」
今度は泣きまで入って、がくりと項垂れる青年。
「ああ。それはよくわかるなぁ〜。確かにつまらんトバッチリだよなぁ〜。お気の毒様、ご愁傷様。」
本当に気の毒そうな少女。
「そうなんだよ〜。古代の八つ当たりがくるんだよ。俺、どうも標的になりやすいみたいでさァ〜。
南部によると俺ってさぁ、お気楽そうなキャラに見えるらしいんだよなァ〜。」
遠い目の青年……。
「はぁ、まぁ、わからんでもないけどね。おじさん、ウーロン茶、おかわり!」
「頼むから円満にやってほしいわけよ、俺としては。おじさん、俺にはナンコツ。」
「ま、ご両人はずっとあんなんだと思うけどね〜。
頑張れよ〜、ってことでおじさん、ケンちゃんにお酒1杯、私から。
あと、私にそのつみれをひとつ。いや、それじゃなくて。そうそう、そっちの大きいやつ。」
「はぁ。」
深い溜め息の青年。
「まったく傍迷惑なカップルだ。」
肩をすくめる少女。
「ホントだよなあ……。」
青年、やっぱり深い溜め息。
少女は、ぱくっとつみれを頬張り、青年はがっくりと項垂れつつ、ぐびり、と酒を飲み、揃って振り返って夜空を仰ぐと、大きな大きな溜め息をこれまた揃ってつくのであった。
哀愁のおでん屋台より、愛をこめて。
「はあ〜っ。なんだかねぇ〜。」
「はぁ〜っ。なんだかなぁ〜。」
「でも、おでんサイコーッ!」
「おでん、最高ーーーっ!!
///// END /////
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■ヒトコト
すいません、すいません、すいませんっ!!なんかもうホントに意味のないハナシで!!
いや、あの。
涼と太田が屋台のおでんを食べてるとこ、何故だかどうしても書きたかったもんで〜〜。
ホントにすいませんでしたーーーーっ!!
ブラウザの×で閉じて〜な♪