The COMPANY  〜 A day without the record 〜

 ■Dont Cry My Angel




デスラーの奇襲攻撃に、全砲塔が沈黙し、波動砲も撃てないヤマトには、白兵戦を仕掛けるしか策がなかった。
小ワープでデスラー艦に接舷し、斎藤率いる空間騎兵隊が先陣を切って突入するも、こちらの攻撃をある程度、予測していたデスラーが態勢を整え、迎え撃ちに来る。
予想を超えて、大胆不敵、粘っこい攻撃を仕掛けてくる敵兵に、味方がバタバタと倒れ始めた。

「相原君、太田君。申し訳ないんだけど、あとよろしくね。」
苦境に陥り、続出する負傷者に、森雪はたまらず席を立つと、ブリッジを飛び出した。
相原義一と太田健二郎は、その俊敏さに呆気にとられ、ぽかん、と見送るしかなく。
島大介が、慌てて席を立って振り返った時には、ドアはもう、閉じていた。

島は、眉間に皺を寄せて呟く。
「あいつ……。」


**********

アナライザーを護衛役に従えて、デスラー艦に乗り移ろうとした雪の腕を、誰かが、ぐい、と引いた。

「やめるんじゃ、雪!女の行くところじゃないぞぃ!」
佐渡酒造だった。

しかし雪は。
私は看護師です!――と、振り返り様、たったひと言、そう言って佐渡の目を真っ直ぐに見据えた。
毅然とした態度の雪に、佐渡は返す言葉を失い、その細い腕から手を離した。
それでも彼女の身を案じ、どうしたものか困惑した顔でいる佐渡に、雪は表情を和らげると、負傷者を手当てするのが私の役目ですから――と言って微笑んでみせた。

佐渡は苦笑すると、ウム、と頷いて、それならワシも医者じゃ!おまえさんなんぞに負けちゃおらんぞ――と、そう言って力こぶを作ってみせた。

佐渡と雪のふたりは、アナライザーを従え、デスラー艦に乗り込んだ。


**********

雪は甲板の死角で、次々と運ばれてくる負傷者の応急手当に追われていた。

「ざまあ……ねえな。俺、としたことが。」
背中で掠れた声がした。
「坂下さん!」
振り返ると空間騎兵隊の坂下が血塗れで横たえられていた。

坂下は眼球だけを巡らせて声の主を探す。
駆け寄って来る雪の姿を認め、一瞬、目を丸くして、呆れたように顔をしかめた。
「なん……で、こんなとこ……ろにいンだ、あんた?」

坂下の問いに、雪は微笑んで答える。
「私も医療スタッフのひとりだもの。当たり前でしょ!」

「へッ。勇ましい……こっ、た。うっ……。」
「坂下さん!」
苦痛に顔を歪ませる坂下。
(この出血量……たぶん腹部大動脈を――)
雪は懸命の処置をする。
しかし、胸と腹、数箇所を撃ち貫かれた坂下は、もはや絶望的だった。
雪はギュッと唇を噛む。

「あん時ゃ……手荒、なマネしちまっ……て、すま……なかったな……。」
ふと、声にならない声で、坂下が詫びた。
「いいわ。気にしてない。気にしてないから喋らないで!」
あきらめきれずに雪は処置を続ける。

「へへへ。見れば、見る……ほど、ベッピン、だな、あんた。」
「こんな時に何言ってるのよ!」
雪は呆れた。

「やっぱよ。古代……にあんた……は、もったいねえ……。」
「喋らないでって言ったでしょ!それにね、あなたがどう思おうと、とにかく私が彼を好きなのよ!」
瀕死の状態なのに口の減らない坂下を、雪は元気づけるように叱りつけ、あえて惚気てみせて、精一杯の微笑みを送る。

「チッ!野郎、幸せ……なこった!腹立つ、ぜ……。」
坂下は、おどけたように言って口を尖らしてみせる。

「まあ、なんだ。ベッ……ピンの、白衣の天使……に、看取られて逝くっ……てのも……悪……くねえなあ……。」
坂下は、ぼそり、とそう言って、雪の横顔をその眼に焼き付けるように見つめ、にやり、と笑った。
「坂下さん?坂下さん!坂……し、たさん……。」
笑った顔のまま、絶命している坂下。
雪はうなだれて苦しげに大きく息を吐くと、肩を震わせて込み上げてくる悲しみを堪えた。

「ベッピンに看取られて笑って逝けたんだ。きっと本望だったと思うぜ?坂下に悔いはねえよ。」
誰かが励ますかのように声を掛けた。

雪は、ハッと顔を上げる。
「木崎さん……。」
空間騎兵隊の木崎だった。

重傷を負って雪の手当てを受け、横になっていた筈の木崎。
あろうことか身体を起こし、立ち上がろうとまでしている。

「起きたらダメです、木崎さん!あなただって重傷なのよ!」
雪は思わず声を上げた。

しかし木崎は笑って答える。
「ありがとよ。おかげでなんとか動けそうだぜ。」

「何言ってるの!」

「結婚式、ドタキャンだったんだってなあ。あいつら、とっととやっつけて帰んねえとだろ?」
「え……?」
思いも寄らない木崎の言葉に雪は目を丸くする。

そんな彼女に笑いかけ、木崎はレーザーライフルを杖にして立ち上がった。
「よし!なんとかいけそうだ。」

雪は慌てて木崎の腕を掴んだ。
「だめよ!ここにいて!すぐに担架が来るわ!だから動かないで!お願いだから横になっていて!高階さんが来るまでここで――」

「どけ!」
木崎は雪の手をやや乱暴に振り払うと、ガチャリ、とレーザーライフルを構えた。
「女だてらに勇ましいのはいいがな。やられんなよ?古代のヤツと幸せになれ!いいな!」
右手をかざし、にやりと笑って、そう言い残すと、木崎はパッと飛び出していく。

「木崎さんっ!!」
雪は、その背中に向かって叫んだ。

木崎のライフルが、死角の佐渡と雪に気づいた敵兵を捉えて撃ち落とした。
しかし、すぐさま、木崎への報復が始まる。
交錯する閃光。
傷ついていてもさすがは手練の木崎。
彼の手によって次々と崩折れる敵兵。
しかし、木崎を狙って更に増える光の束。
雪の眼に――。
幾重もの閃光を身体に受けて弾かれる木崎の姿が映った。
同時に。
大きな爆発が起こり、雪がようやく顔を上げた時には、木崎がいた辺りは猛火に包まれ、滅茶苦茶に破壊されていた。
十数名の敵兵を道連れに自爆したのだ。

『古代のヤツと幸せになれ!』
耳に残る木崎の言葉。
雪は両手で顔を覆った。

しかし。
木崎や坂下の死を悼む間もなく、アナライザーが負傷者を運んで来る。
雪は嗚咽を堪えようとしたが、涙はとめどなく溢れ、止まらない。

――だめじゃない。泣いてちゃだめじゃない。
雪は大きく深呼吸をする。
震えている吐息。

医療スタッフのひとり、高階が雪の肩をそっと叩く。
「大丈夫か?」
「問題ないわ。」
雪は慌てて涙を拭うと、そう言って、にこり、と微笑んでみせた。
高階は、にやり、と答えて、さすがだな――と肩をすくめた。

「僕はこれからヤマトに戻る。メディカルルームが負傷者で溢れかえってるだろうからな。できる限りの処置をしながら佐渡先生が戻るまで待機するよ。」
「わかったわ。」
「後、頼んだぞ。でも、あんまり無理、するなよ。」
高階は手をかざすと、大急ぎでヤマトに戻っていく。

――本当は、かなり疲れている筈だ。
高階は思う。

自分達医療スタッフは、あまりに無防備だ。
自分達が手にしているのは医療器具であって身を守る武器ではなく。
いつ巻き込まれるかわからない緊迫した状況下で、今にも消え入りそうな尊い命を繋ぎとめるために、そのことだけに神経を集中させて黙々と手当てを続けているのだから。
きっと、雪の精神も擦り減っている筈だ。

それに――。

本当は、最前線の古代の安否が何より気がかりなんだろうと思う。
そしてその思いを、必死で押し込めているのだろう。

どうして、こんなすれすれの場所に、彼女がいなくちゃならないんだ?
硝煙と埃と血の臭いの立ち込める戦場に、幸せになる筈の君がなぜ?

高階は唇を噛み締め、思わず振り返る。



「森、サン。俺、もう死んじまうのかな?まだナンもやってねえのに!口惜しい、よ。」
雪は、傷ついた戦士達に精一杯の微笑を浮かべながら、励まし、語りかける。
「大丈夫、助かるわ。あなたが帰るのを待ってるヒトがたくさんいるのよ?
帰りましょう。この戦いに勝って、みんなで帰りましょう。」

――泣くな!しっかりしろ、森雪!
――大丈夫!私は大丈夫!
そう自分に言い聞かせて。
雪はギリッと奥歯を噛みしめると、真っ直ぐに戦火の甲板を見据え、それから涙を止めるかのように天を仰いだ。
そして呼吸を整えると、運ばれてきた次の負傷者の手当てに取り掛かる。



高階は、懸命に働く雪を見つめ、両の拳を、ぎゅっ、と握りしめて呟いた。
――そうだ。泣くんじゃないぞ、雪。
――頑張れ、雪。
妹のように、大事に大事に見守ってきた後輩の背中が、涙で滲む。

高階は踵を返すと、振り切るようにヤマトに向かって駆け出した。

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<ちょほいとヒトコト>
ええとですね。
「さらば〜」にしても「2」にしても、雪がどうも古代の後を追っかけてるだけにしか見えなくて、ただ彩として添えてあるだけみたいな気がしなくもなかったんですよねえ。
頑張って働いてる(であろう)彼女に、それほどスポット当たってるようにも見えなかったですし……。
なので私としては、それもナンだかなあ、と。
まあ、最初は古代の後を追いかけて乗り込んだにしても、彼女だって他のクルーと変わらない決意と志をもって戦場に出て行ったんじゃないか、と思いましてですね。
ちゃんと頑張ってる彼女の姿ってのを、ちょいと書いてみた次第です。

実は、もう少し長かったんですよ。
愛する古代君のことが心配で、職場放棄してデスラー艦内に探しに行っちゃったようにしか見えない雪――っていうのもナンだかな〜と思いまして。
なんとか擁護すべく、その辺のところも、ずらずらと書いたんですけどもね。なんだか、くどいので切りました。(笑)

それにしても、オリキャラ続出なので不快に思われた方、ホントにごめんなさいです。
まあ、なんといいますか、便宜上、必要だったってことで。(汗)










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