The COMPANY 〜 A day without the record 〜
■喧嘩友達
ウィーン、とドアの開く音と同時に。
「ったく!無茶するなァ!」と、誰かの声。
(えっ?)
病床に臥せていた森雪が、驚いて首を巡らせ見てみると、辺りを伺う様な素振りを見せながら、ふらり、と加藤三郎が入って来た。
「加藤君?どうしたの?」
目を丸くして訊ねる雪に、ドアに寄りかかった加藤がニッと笑って答えた。
「ちょっくしヒマこいてます――ってのは冗談で、室岡の見舞いついでに寄ってみたんだ。」
「室岡君のついでに、ね…。それはどうもありがとうございます。」
刺々しく表面的な礼を述べる雪を無視して加藤が言った。
「聞いたぜ?ここ脱け出して白色彗星の解析してたんだと?」
「ウン…。まあ、ね。」
バツが悪そうに答える雪。
「しょうがねえヤツ。」
加藤は笑いながらベッド脇までやって来た。
「なんだ、ひでえ面だな。隈できてんぞ?パンダのぬいぐるみ置いたらどっちだかわかんねえな、おい。」
「!!」
顔を覗き込むなり、そう言われて。
雪はぷぅーっと頬を膨らませてむくれた。
「…悪かったわね!」
「じゃじゃ馬もほどほどにしねえからだよ、バーカ!おまえ、なんぼ頑丈にできてるからってなァ、一応は重傷の身なんだろが。ちゃんと寝てねえと助かるもんも助からねえっつの。」
「んもう!加藤君たら相変わらず口が減らないんだから!心配してくれてんのか、悪化させたいのかわかんないじゃない!」
加藤の軽口に、雪は口を尖らせた。
「バーカ!心配してやってんじゃねーか!」
「はいはい。どうもありがとう。」
「ちっ!それ、ちっとも感謝してねえだろ!おまえだって素直なお嬢さんってガラじゃねえクセしてよぅ。」
「憎たらしいわね、相変わらず。でも、さすがにね…。ちょっと無理しすぎたかな、って私も思ってるわよ。あのまま死んじゃうかと思ったって高階さんに叱られたしね。」
「なんでまた、そんな無茶したんだ?」
呆れ顔で訊ねる加藤に、雪はちょっと間を置いてから答えた。
「信じてもらえるかどうかわかんないけど…。こんなになったせいでかな、何故かテレサの思念と波長があったみたいで――」
「はあ?なんだァ?おまえ、かなりヤバくねえか?脳ミソにきちゃってね?」
ワケを話し始めた雪に加藤はそう言って、自分のアタマをつんつんと突きながら半ばからかうような素振りで顔を突き出した。
雪は面倒臭そうに溜め息をついた。
「だから…信じてもらえるかどうかわかんないけど、って言ったでしょ?」
「あ、ああ…まあ、続けろよ…。」
苦笑いしながらアタマを掻く加藤。
しかし、雪は急に真顔になった。
「夢枕に立たれちゃった、って感じだったの。あれ、間違いなくテレサの気配だった。」
「おいおい!テレサが反物質とかなんとか、なんぼ小難しい存在のヒトか知らねえけどよォ。それ、怖ぇだろうがよ。」
それまで茶化すような態度の加藤だったが、雪の何やら怪しげな話に思わず後ろを振り返る。
そして誰も何もいないことを確認すると、ほっと息をついた。
そんな加藤に、今度は雪の方が半ば呆れて肩をすくめてみせた。
「だから、私にもよくわかんないのよ。で、そのテレサのテレパシーみたいなのがね。白色彗星攻略のヒントになりそうな、すごくリアルな映像を私に見せたのよ。それで、彗星のビデオの解析したらわかるかな、って思って――」
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その日――。
高熱のために朦朧とした意識の中にあって雪は、妙にはっきりとした、夢とも現ともつかないようなヴィジョンを見た。
あたりが神々しい光に覆われた気がした。
やっぱりもう、だめなのかな――雪はぼんやり思った。
この光に包まれて死んでゆくのか……。
違う――。
誰かの気配。
誰?誰かいるの?
知っている。
誰だかわかる。
姿かたちこそ見えないが。
この光、このやわらかな光は――テレサ?
そう思った時、光が弾かれるように消えて、脳裏に映し出されたのは、忌まわしい白色彗星の姿だった。
驀進する彗星を見ながら、雪は、ハッとなった。
伸縮を繰り返す白色彗星の先端から何かが吐き出されたように見えたのだ。
(これは!?)
デスラーの残した彗星のウイークポイントがわかるかもしれない。
でもこれは――。
私が見たのは――。
熱のせいで見ている夢?あの光も、あの白色彗星の姿も、私が見た夢?
それにしては、あまりにハッキリしすぎている。
そうだ!確かめればいい。
どうしてなのかはわからないけれど、テレサの思念と波長が合ったのかも知れない。
これが何らかのメッセージだとしたら……。
雪はいてもたってもいられなくなった。
こんな私でも少しは役に立てるかも知れない。
雪はゆっくりと起き上がった。
――何とか大丈夫だ。
次第に強くなっていく鎮痛剤の効果で、今は痛みがおさまっている。
――動けるだろうか。
雪は気力でベッドから降りると、上着を羽織り、病室を抜け出した。
クラクラと激しい眩暈がし、足元は覚束ず、途中、何度も倒れかけたが何とか自室に辿りついた。
雪は全身を激しく上下させて息をし、気力だけで意識を保っている。
部屋に入るや否や、持ち込んでいたパーソナル・アナライザー*を引っ張り出した。
ヤマトのメインコンピュータから白色彗星に関する画像とデータを引き出し、早速、解析を始める。
しかし。
ゆっくりと痛みが戻ってくる。熱も更に上がってきているようだ。
でも、やらなければ――。
雪の決意は悲壮なまでに固く、まるで命と引きかえでもするように分析に没頭した。
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次回のワープに備え、古代進はメンテナンスのチェック表を片手に各部署と連絡を取り合っていた。
機関部の徳川からの報告を受けている最中、通信パネルの、別のランプが点滅した。
居住区からである。
手の塞がっている進の様子を見て取って、すかさず相原が応答する。
と、相原が、やや慌てたように進に声をかけた。
「あ、あの。」
「すいません、機関長、ちょっとお待ち願いますか?」
話を中断し、進が首を巡らせた。
「なんだ?相原。」
「雪さんから通信が。古代さんに代わって欲しいそうです。」
「雪から?」
どきり、として。
進の動きが止まる。
「はい。それが病室からじゃないみたいで――」
「わかった。代わる。
すみません、機関長。他からの連絡が入ったもので。この先かなりの強行軍になります。無茶を覚悟で先程お話したとおり、よろしく頼みます。」
心臓が早鐘のように鳴っている。
彼女の身に何かあったのかと、一瞬にして血の気が引いていた。
しかし、本人が出ているのならとりあえず無事なのだろうと、まず一呼吸おいて自分を落ち着かせると、進は相原と通信を代わった。
「雪か!?どうした?何かあったのか?」
「古代君、忙しいところごめんなさい。どうしても伝えなきゃいけないことがあって……。できれば真田さんと一緒に、私の部屋に来て欲しいんだけど――」
「君の部屋?なんで病室じゃないんだ?」
怪訝な面持ちで訊ねる進。
「細かいことは部屋で話すわ。とにかく…急いでるの。急いでここに来て欲しいの。」
ますますわからない、と言った表情で、進は眉間に皺を寄せた。
「わかった!今行く!」
「どうしたって言うんだ?古代!」
島が声をかけてきた。
「俺にもわからん。」
肩をすくめる進。
「……それに、大丈夫なのか、雪は。」
「それも…わからん。」
彼女の身に何かあったのだろうかと、島もまた落ち着かない様子だった。
平静を装ってはいるものの、進の表情は不安を隠しきれておらず、島と相原は互いに顔を見合わた。
「真田さん。ちょっとお時間いいでしょうか?雪が俺と真田さんに伝えたいことあるって言うんです。」
「おまえじゃなくて、俺もか?」
真田もまた怪訝な面持ちで進を見つめた。
「はい。」
「わかった。行ってみよう。」
「ちょっと行ってくる。後を頼む。」
第一艦橋を出て行く進と真田の背中を、皆、不安な面持ちで見送った。
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ドアを開けると――。
驚いたことに雪はデスクの前に座っており、何やら作業をしていた。
そして、ふたりの姿をみとめると、まず忙しい中、呼び出したことを詫びた上で、早く入るよう促した。
傍らまで歩み寄ってみれば、肩で荒い息をしている蒼白な顔の雪に、進は眉をひそめる。
真田もまた同様だった。
「そんな状態で、なんでこんなところにいるんだ?寝てなきゃダメじゃないか!!」
進は半ば呆れながら雪の肩を抱くと、ベッドに横になるよう促す。
しかし、雪は進の手をそっと押し戻すと、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい。古代君、真田さん……。でも病室じゃ…できないことだったから…。」
「どういうことだ?」
進の問いに雪は、わずかに微笑んだだけで、中断していた作業を再び始めた。
何をしているのかとよくよく手元を見れば、彼女が操作していたのはパーソナル・アナライザーだった。
雪は小型モニターに白色彗星の映像を再生すると、ふたりの顔をかわるがわる見ながら言った。
「彗星のことで、少し…だけど、わかったこと…があるの。」
「何!?」
進を押し退け、思わず身を乗り出す真田。
雪は苦痛を堪えながら説明を始めた。
「彗星…の動きをよく見…て。白色彗星は膨張…と収縮を繰り返しながら進んでいる…わよね。このサイクルにヒントがない…かと思って分析してみたの。まだ途中なんだけど。」
雪は分析し終えたポイントまで画像を進め、静止させて拡大した。それから彗星の一部を指し示す。
「これはガス体が収縮したところ…なん…だけど…。これ。ここ。先端の部分…をよく見て。」
「なんだ、この黒い点は?」
「ちょっと画像が荒れる…けど、もうちょっと…大きくしてみるわね。」
雪は画像を更に拡大した。
進は思わず声を上げた。
「これは!?戦艦!?」
「そう。彗星のスピードが落ちて…縮んだ時に、戦艦…が出入りしてる…みたいなの。全てのデータを調べたけど…これ…と同じような黒い点…が写っていた映像は全部で9コマ、そのうち、戦艦あるいは戦艦らしきものが映っていたのが3コマあったわ。
正面、から見たわけじゃない、けど…ここ…がデスラーの言っ…てた渦の中心核、じゃないかと思っ…たの。いずれにしても……彗…星の先端部から…戦艦が送り出されている…ってことは、そこが弱点…になり得るんじゃないかと思って。」
「その通りだ!」
「とに…かく、あれを…あのガス体を破るのだとした…ら、彗星が収縮し…て…スピードが落ちた時……或いは…運よく停止してくれた時しかない、と思うの。もしそんな…絶好の機会があったら…だけど…。タイミングを計って、ヤマトが彗星の前…に出て、先端…部の弱点を攻撃すれば――って思って、真田さん…と、古代君に…はな…そ…うっ…んっ――」
「だっ、大丈夫か?雪!?」
雪は苦痛に耐えかねて身体を二つに折る。
呼吸がだんだんと乱れてきていた。大きく肩を上下させ、相当に辛いようだ。
「雪!もういい!無茶だ!!」
思わず声を上げた進を、雪は目で制して、今度は真剣な眼差しで真田を見つめた。
「彗星の…伸縮の…サイクルを…もう少し、詳…しく計算しようと…思ったんだけど……私…限…界…みたい。さ…なださん、あと…をお願いしたいんです。私、こん…なことくらい…しか…でき…な…くて…ホントに、ごめんなさ…い――」
そこまで途切れ途切れにやっと伝えると、雪の意識は、ふっ…と遠のき、その場に崩れるように倒れてしまった。
「雪っ!!」
「ユキっ!!」
進は慌てて雪を抱きかかえる。
真田は急いで佐渡を呼んだ。
真田は、血色を失い、紙のように白い雪の顔をいたわるように見つめ、頭に手を置いてそっと撫でた。
「……ユキ、さすがだな。俺は、おまえがデータ分析も得意としていたのをすっかり忘れていたよ。ありがとう、ユキ。後は俺が絶対にウイークポイントを割り出してやる。
それからは古代、おまえの仕事だ。俺達は必ず勝たなきゃならん。勝って地球に帰る!お前は特にだぞ。ユキにウエディングドレスを着せる使命が残ってるんだからな。」
「真田さん……。」
進は押し込めていた雪への思いが溢れそうになるのを、ぐっと堪えた。
今しも涙が零れそうだった。
と。
佐渡がストレッチャーを押しながら、あたふたとやってきた。
「こりゃあいったい…どういうことじゃ!!」
進は雪をストレッチャーに横たえながら答えた。
「雪がここで彗星の分析をしていたんです。かなり無理をしたようで、意識が――」
苦痛に顔を歪め、荒く早い呼吸をしている雪を見下ろし、厳しい顔をして佐渡が頭を振った。
「こりゃ、あかんぞ。まったく無茶なことを……。そんなことやれる身体じゃないっちゅうんじゃ!!古代!ぼさっとしとらんで手伝わんかい!」
「は、はい!真田さん、後、頼みます!」
「任せておけ!」
運ばれてゆく雪を沈痛な思いで見送りながら、真田は深く頷いた。
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「で、その結果がこの有様なのな。」
加藤は、雪の無茶ぶりに呆れて深い溜め息をついた。
「そう、なの。佐渡先生と高階さんに叱られちゃった、すっごく。」
そう言って、雪は悪戯を見つけられた子供のように首を引っ込めると、バツが悪そうに鼻の頭を掻いた。
「そりゃそうだろうぜ。ホント、無茶苦茶だなァ、おまえも。」
つられて笑う加藤に、雪はふと瞳を翳らせて、どこか遠くを見つめた。
「そうだけど…。このまま何もしないで終わりたくなかったのよ。」
「終わるって…おまえ…。」
思わず笑顔の引ける加藤。
「わかってるわよ。私だって…そうカンタンに終わるつもりはないんだから。」
先程とは打って変わって強い眼差しを向ける雪だったが、その言葉は暗に死を覚悟するものであり、加藤を無性に苛立たせた。
「なんだ、おまえ…。結局、終わるとか言ってんじゃねえかよ。」
つい、突っかかるようなもの言いになってしまった。
「後悔したくないから。やれることはやっておきたいのよ。」
負けん気の雪。
「だからよ、そういう言い方がアレなんだって。」
――何言ってんだ、俺。
あえて茶化していたのに……。
現実を突きつけられ、加藤はムキになった。
雪は、そんな加藤を真っ直ぐに見据えて言った。
「じゃあ、言い方を変えるわ。これは私にとって『生きるための戦い』でもあるのよ。だから――」
「おまえ…。」
互いに喧嘩腰になりかけて、加藤は不意に笑った。
ちっ、叶わねえな――。
「ったく、おまえは大した女だよ。呆れたぜ。でもまあ、それくらいじゃないとおまえらしくないしな。
じゃあ、アレだ。もし古代のバカがゼロで出撃するようなことがあったらだけどよ。そん時ゃ、あのバカを俺達がきっちりガードしてやるぜ?
で、おまえのところにバッチリ返してやらァ。
ま、おまえがムチャクチャ頑張りまくった褒美ってことでさ。
とにかくだ。俺らが生きるために、とっととあのクソ忌々しい彗星野郎を蹴散らしてやろうぜ。
でもって、帰ったら仕切り直しておまえらの結婚式だ。
やつらのせいで、俺の計画、台無しになってんだからなー。このまんまじゃすませねえ!」
「計画?なに、それ?」
「ふふん。そいつについてはシークレット。教えてやんねえよ。」
「けち!バカ!いじわる!」
再び、軽口の叩き合いに戻ったところで。
佐渡が戻って来た。
「こら!加藤!!この忙しい最中に、こんなところで何油売っとるんじゃ!」
「うわ、出た!」
やべえ!とばかりに首を引っ込める悪ガキのような加藤。
「わしゃバケモンか!それに加藤!ヒマにまかせて何を大騒ぎしとるんじゃ!怪我人を疲れさすヤツがあるか、ばかもんが!
雪、おまえさんもおまえさんじゃ!ようやく落ち着いてきたところだちゅうに、このばかたれに乗せられおって!」
「ご、ごめんなさい…。」
雪は申し訳なさそうに下を向き、そのままこっそり加藤に視線を流して、ニッと笑った。
――にゃろう!あいつ、反省してねえじゃねえか!
加藤もニヤリとし、直立不動になった。
「申し訳アリマセン、軍医殿っ!加藤三郎、浅慮な行動を深く、深―く反省し、これにて退散致しますっ!」
そして。
ドアの前で一旦、立ち止まり、雪を振り返る。
「なあ、森。おまえの気持ち、俺だってわかるさ。でもまあ、やっぱり無理はよくねえぜ?
喧嘩相手にいなくなられちまったら、俺のストレスの捌け口がなくなっちまうからな。
しっかり寝とけよ!じゃねえと、いつまで経ってもパンダ面のまんまで、愛しの古代君に逃げられちゃうからねっ♪」
「う…!?何よ、もうっ!バカサブロー!」
「へいへい。バカさ加減じゃ、おまえに負けるけどな。じゃな、森!!」
「こら!さっさと行かんか!まったく、騒がしいヤツめ!」
「お邪魔しましたーっ!」
加藤は、佐渡に追い立てられるようにバタバタと部屋を出て行った。
加藤が行ってしまって。
病室が、急に静かになってしまった。
なんだか淋しくなって。
しばし、ドアを見つめていたが。
加藤は戻って来なかった。
雪には加藤がわざと明るく振舞っていたことくらい、わかっていた。
“室岡の見舞いついで”というのもウソで、自分の様子をこっそり伺いにやって来たのだろうことも、だ。
あんな風に言ったけれど。
本当は、自分はもうだめなのだと決めつけていた。
やりきれない思いでいっぱいだった。
でも、加藤と話していると、弱気になどなっていられなくなるから不思議だ。
これまで交わしてきた加藤との口喧嘩の数々を、雪はふと思い出して。
なんだかちょっと可笑しくなった。
可笑しくて可笑しくて、なんだか泣けてきた。
「まったく、バカなんだから!それに…」
――ありがとう、って。言いそびれちゃった……。
***********************************************
加藤は雪の病室から出た途端、深くて長い溜め息をついた。
それから。
眉間に皺を寄せ、唇を尖らし、ポケットに手を突っ込み前屈みになって、大股で、つんのめるように廊下を歩く、歩く、歩く……。
どうにも、抑えきれない苛立ちを、どこにぶつければいいんだ――と。
ちっ…。
なんだよ、あいつ。
いつもどおりじゃねえか。
顔を合わせりゃ、お互い軽口を叩いて口喧嘩になっちまう。
さっきだって、いつもどおりだったじゃねえか!
なんだよ!!
あいつのこと、もう駄目なんだって言ったの、どこのどいつだよ?
時間がないみたいには見えねえじゃんかよ、くそったれ!
負けらんねえ…。
負けらんねえよな…、俺ら。
そうだろ?森。
俺もおまえと一緒さ。
命がけで生きてやるぜ。
戦って。戦って。戦い抜いて生きてやる。
そして森。
おまえを古代とセットで、きっちり地球へ返す!
そうさ、決めたんだ。
帰るんだよ!
帰るんだ、森!
俺らみんな。
みんな。
一緒に帰るんだ!!
加藤はふと立ち止まった。
窓の外に目をやる。
そこには、知らぬ素振りで漆黒の宇宙が暗く深く佇み、煌く星々を湛えて傍観者を決め込んでいる。
奥歯をぎりぎりと噛みしめたまま加藤はそれを、いつになく勝気な瞳で見据えた。
■END■
注)※パーソナル・アナライザー : 個人用解析マシン…本編でこんなもんは出てきませんが、PCより専門的な分析が可能なモノと思って下さい。
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<ちょほいとヒトコト>
ホントはあんな風に励ますのは、カトちゃんじゃなくて古代のダンナ殿なのかな〜、とも思ったんですどねー。
でもなんだか、そういうイメージがわかなくて……。
そういうの、さらっとやっちゃうのは、加藤の方が合いそうかな〜、となんとなくね。