1.ピクニック


その日――。
神倉涼は馴染みの定食屋のおばちゃんに『特製おにぎり弁当』を作らせ、英雄の丘で「ひとりピクニック」を楽しんでいた。

パクッ、モクモクモク。はむはむはむ。ごきゅっ。
はぐっ、もそもそもそ。ごきゅっ。
くびくびくび。けぷっ。

「ふひ〜。」

満腹感と共に瞼が下がってきた。
極楽極楽と思う涼だった。

「ふああああ〜。ふぇ。」

ごろりと仰向けになると早速、寝息を立てて眠る。
と――。
突如、頭頂部に衝撃。間もなく女の悲鳴と共に妙な弾力性をもった何かが涼の顔面に落下した、と思った。

「んぐっ。んぐっ。んがんが。があーっ!!」
「ごっ、ごめんなさい。」
「だあ〜っ!!」

慌てて飛び起きた涼に誰かが謝った。

「うううう。いってえー。何?何?」

状況を把握できずに頭をさすりながら辺りを見まわすと、女性が自分にひたすらアタマを下げている。

「ごっ、ごめんなさい。私、寝ているあなたに気付かずに蹴躓いちゃったんです。その上、バランスを崩して、あなたの顔に尻餅ついてしまって。」
「……。脳天蹴ってケツで踏んづけたってことですね?……納得。あ、れ?あんた…、森、さん?」
「え?私をご存知なんですか?」
「ご存知も何も。ヤマトの皆さんは有名人ですんでね。それに私、あんたに一度会ってるし。連邦大付属病院のインターンで神倉涼っていいますが、憶えてます?」
「ああ!?佐渡先生が仰ってた天才女医?」
「天才の『才』の字が『災』になってないことを毎日、祈ってんですけどね。」

涼は大あくびを一つすると、雪の顔をじっとみつめ、ニヤリとした。

「あ、そうそう。あんたの古代進だけど。健康診断の時にからかったらさ。マジんなって怒り出しちゃってさあ。シャレがきかんで困るわぁ〜。わははは。ホント、あんたにベタボレなんだね〜。そこらへんもついでにからかってみたら顔真っ赤にしてムキになっちゃって。しょうもない。」
「誰がムキになったって?誰がしょうもないって?」
「あ。真打登場。デートだったのね、ご両人。はあい!古代・弟。こないだはど〜も。からかい甲斐のあるヤツだなあと思ったもんで。いや失礼。」

涼は古代に向かってヒラヒラと手を振った。
古代は神経を逆撫でされて鼻の穴を膨らました。
雪はというと、涼の言うことは、とりあえず当たっているので、けらけら笑っている。

「そうそう。そうなのよ。もうちょっとアタマ柔軟にして欲しいと思う時もあるわね。」

雪にまでからかわれて古代は明らかに機嫌を損ねていた。

「やれやれ。せっかくのシエスタを……。じゃ、熱々カップルのデートを邪魔しちゃいけないんで私は退散するとしますわ。へいへいと。」

涼は服についた枯草を払いながら丘を駆け下りて行った。

「なんだったんだ、あいつ。」
「気を効かせたつもりなんでしょう、きっと。」
「ったく。いいヤツなんだか悪いヤツなんだか。」
「あら、いいコだと思うけど?そう言えば彼女、まだ16だか17だか――って聞いてるわ。」
「ええっ?しかしどっちにしても無礼なヤツだ。」

古代は、まだむくれていた。
穏やかに晴れ渡った空と海を見つめながら、雪は(やれやれ)というように肩をすくめた。


加藤三郎と山本明の墓標に花が手向けられている。

「これ、さっきのコかしら?」
「そうみたいだな。加藤と山本の知り合いだったのかな?あいつらから天才女医の話なんて聞いたことないぞ。」


涼は佐渡酒造から貰った年代モノの自転車 「ままちゃり号」 のペダルをギコギコ漕ぎながら二人のやさしい飛行機乗りを思い出していた。
加藤三郎と山本明……。
二人は涼の孤独でささくれだった心を癒してくれた。

「まったく。揃いも揃ってバカみたいに人が好い男達だったよな。」

■ 1.ピクニック 終了 ■