7.プレゼント
(1)
涼の生い立ちを知った加藤と山本の二人は、その晩、なかなか寝つかれなかった。
「涼のヤツ……自分のこと、淡々と話してたけどさ。ホントは……ホントはあいつ、いっぱいいっぱいだったんじゃねえのかな……。なんていうか、あいつには――生まれてから12年の間の……その殆どが張り詰めた日々だったんだろうな。」
ベッドの上で、ごろごろしながら加藤が、呟くように言った。
「ああ。」
山本は小さく頷く。
「死んじまったショウタっていう友達が、唯一、あいつの心の拠り所だったのかも知れないな。」
加藤は、自分に似ていた――という少年を思いながら言った。
「ああ。」
山本の、吐息のような返事。
「あいつ、今日、初めて本気で笑ったろ?あいつなら、恐らく大人とだって同等に渡りあえるだけの分別だって持ってんだろうけど、あの笑顔、なんか年相応に見えたんだよな。ああいう顔で笑えるんだな、って思ってよ。」 「ああ。」
加藤はガバッと起き上がると、何だか生返事ばかりの山本の顔面に、思いっきり枕を叩きつけた。
「なんだよ!さっきからおめえはよ!!」
山本は、無言で顔の上の枕を引っ掴むと、むっくり起き上がった。
(やべっ!力入れすぎた……。)
加藤は内心、後悔した。 山本は一見、優男風だし、いつも冷静な男だが、「キレるとヤバい」性質だった。 ケンカには滅法強いのである。
しかし、山本は極めて冷静に、枕を軽く投げてよこした。 それでも加藤は、びくびくしながら山本の顔色を伺う。
山本は無言で加藤の顔を睨んでいる……。
「お前……あの時、寝たふりしてたろ?ちゃんと涼の話、聞いてたんじゃないのか?」 「あ……?」
山本の口から予想外の言葉が飛び出して、加藤は答えに詰まった。
「とぼけやがって。白々しく椅子から落ちたりなんかしてよ!!」
山本の目が凄む。 たじろぐ加藤。
「だってよ。なんだかあいつ、ますます閉じこもっちまいそうな顔だったんだよ。せめて空気を変えようと思って、なんつうか、その――」
加藤は、しどろもどろになった。 すると山本は、声を上げて笑い出した。 きょとん――とする加藤。
「加藤……おまえって――」 「なんだよ。」
笑われて、加藤は拗ねたように口を尖らせた。
「いや。さすが俺の相棒だと思ったんだ。」
山本が珍しくストレートに加藤を褒める。
「よせ、バカ。気持ちわりィじゃねえかよ。」
加藤は照れたように赤面した。
「バカヤロ!赤くなってじゃねえっ!気持ちわりィのは、てめえの方だろ!」
山本は、そんな加藤の顔面に力一杯、枕を叩きつけた。
「ふんがあーっ!!
てめっ!俺はこんなに強くぶつけてねえぞ!」
加藤は山本に布団を被せると、頭を抱え込んで、ガツガツと殴った。
「参ったか、山本!!」 「ま、参ったよ!!」 「よおし!ほんじゃ明日、ちょっと俺につきあえ!わかったな!」 「わかったよ!」
山本は加藤の反撃に布団の中で呻いた。
(2)
連日の見舞いってのも……と、二人は少々、気が引けたが、思い直した。 今日は、いつもの見舞いとちょっと違うのだ。 加藤は病室の前で、何故か軽い準備運動をすると、大きく深呼吸をして背筋を伸ばした。
「早くしろ!」
山本が苛々と加藤の尻を蹴飛ばした。
「イテ!よし!行くぞ!」
言いながらも往生際の悪い加藤。
「早く行け!」
山本は加藤を病室に押し込んだ。
「よっ!また来ちゃったよ。今日はいいもん、持ってきてやったぜ!」 「は?」
よろけながら入ってきた加藤に、きょとん――とする涼。 加藤は、いきなり大きな包みを投げてよこした。 涼は、あまりに突然だったので、キャッチし損ねて大きな包みを、もろに顔で受けた。
「ぶふっ!な、何?何?」
加藤は何やらニヤニヤと妖しい笑みを浮かべている。
「女の子ってのはよ〜。こういうもんが好きだって聞いてよ〜。」
怪訝な眼差しの涼に、加藤は尚も押しつけがましく言った。
「開けてみな。それ人気があるんだってよ。特にソイツは限定販売だったレアもんなんだって話だぜ。こんなご時世だし、手に入れるの大変だったんだぞ!」
加藤は自慢気に胸を反らした。
涼は、恐る恐る包みを開ける。 中から出てきたのは――。
とぼけた顔の犬のぬいぐるみ。
「わ!GOO(ぐう)ちゃんじゃんっ!これ知ってるよ!いいの?これ貰っちゃっても?レアもんって、あんたさ。もしかしてこれに高額つぎ込んだんじゃ――」 「取引したんだよ。問題ねえ。」 「取引って……。その方が怪しいけど?」 「別に怪しかねえよ!俺のプラモデルと交換してやっただけだからよ〜。」
涼は加藤の言葉に、少し困った顔をした。
「で、これは俺から。開けてみて。」
山本も、にっこり微笑んでリボンのついた包みを差し出す。 涼は丁寧に包みを開けると、思わず声を上げた。
「これって――GOOちゃんのハウスウエア!!あ、マスコット付だ!!ひゃあ!!かわいいじゃん!!」
涼の反応に満足そうに山本が微笑んだ。
「でも――」
しかし、すぐに困惑した表情を見せる涼。
「心配するな。ヤツと違って俺はちゃんと真っ当なルートで手に入れたんだ。それに着替えは何枚あったっていいだろ?」
山本は苦笑しながら言った。 涼は返事の代わりに、顔を更に曇らせ、抑揚のない声で二人に尋ねた。
「どうして?」
二人は顔を見合わせる。
「どうしてって……俺達、別に――」 「どうして、見ず知らずの私に、こんなことまでしてくれるの?来てくれるだけだって――今の状況を考えたら、こんなこと、してらんないんじゃないの?」
二人は言葉に詰まった。
「私が…あんな話をしたから?私に……同情して?」
部屋の空気が重く沈んだ。 |