4.二人の訓練生


(1)

宇宙戦士訓練学校の食堂で、加藤と山本は少し早めの夕食をとっていた。
二人は先刻、救出した少女のことを気にかけていた。

「あの女の子、あそこで訓練してたのが俺達だって、どうしてわかったのかなあ?」

山本が加藤に尋ねた。

「さあなァ〜。勘がいいんだろ?それになんとなく言ってみたら、たまたま当たっただけかも知れねえだろが?つまんねえことに、こだわってねえで、早く食っちまおうぜ!だああーっ!この肉、固すぎるぞ。」

加藤は夕食にステーキを選んだことを後悔していた。固くてなかなか噛み切れないステーキを、つい丸呑みしてしまい、喉に詰めて目を白黒させた。

「うっ、うっ!ぐえええっ!ぐほっ!うおおおっ!死ぬかと思った、はあはあはあ。山本、水!水!」

山本は加藤に水を渡してやりながら溜息をついた。

「おまえって、ほんと緊張感のないヤツなのなあ。」
「馬っ鹿野郎!俺、今、死ぬところだったんだぞ!めちゃくちゃ緊迫した状態だったろうが!」

「……。」
山本は黙殺した。

「俺、なんだかあの子のこと、気になってさ。」
「なんだ。おまえも?ガキだけど、パツキンだし、結構かわいかったよな。何年かすりゃ、おまえ…。」
「そういうことじゃねえ!」

山本はどっと疲れが増すのを感じた。うまくないコーヒーを飲み干すと、タンッと席を立った。

「加藤。ちょっと付き合わないか?」
「あの子の様子、見に行くのか?」
「うん、まあ、な。」
「よし乗った!久しぶりの脱走だな。うひゃひゃひゃひゃ。」
「楽しそうだなあ、加藤。おまえといると、肩の力が抜けて不思議と元気出るんだよな。でも、今回はキチンと許可を取るぞ。」

山本は苦笑した。


(2)

「あのう。今日、僕らが運んだ女の子なんですが。様子、どうですか?」

山本は、おずおずと受付の女性に尋ねた。

「ああ。あの子ね!驚いたことに地球連邦大医学部の特別奨学生だったのよ。12歳で入った天才少女なんだって!」
「はあ?その天才少女は今、どうしてます?」

加藤は彼女の言葉を理解しかねた。

「あ、そうだったわね。ちょっと待って下さい。担当看護師を呼んでみますから。」


涼は放射線病の集中治療を受けていた。肋骨は3本折れていたが、こちらの方は幸い肺を傷つけていなかったので、それほど問題はなかった。

「どうなんですか?あの子。」

加藤は、いてもたってもいられないといった様子で担当の看護師に尋ねた。

「貴方達のおかげで、なんとか一命は取りとめましたよ。でも、まだしばらくは治療が必要なの。面会はできないですよ。」
「死んだりなんか……しませんよね?」

心配そうに山本が尋ねる。

「『大事な医者の卵だ。絶対に死なせない』とか言っちゃって、担当の先生、張り切ってますから大丈夫よ。」
看護婦は微笑んで言った。二人は顔を見合わせると安心したようにニッコリと微笑んだ。


宿舎に戻ってシャワーを浴びると、同室の二人は、先程の少女のことを話題にする。

「よかったなあ、あの子。しかし12歳で医大生だぜ?すっげえよなあ。」加藤が感心して言うと
「案外、小生意気なガキだったりすんじゃねえの?。」と、山本はぞんざいに言った。
「そうかなあ。俺はかわいきゃ構わんぜ?」加藤は、そう言うと目を閉じて鼻の頭をポリポリと掻いた。

ふと、山本が呟く。

「児童保護施設にいたってことは、あの子の家族、いないのかもな。」

その言葉に加藤は顔を曇らせた。

「身体が治ったらどうすんだろ。行くところ、あんのかな。」
加藤は、ぼそり――と呟くと、そのまま黙り込んでしまった。あまりに静かなので、山本は顔を覗き込んだ。加藤は遠い目をしていた。
「おい、おい。おまえが落ち込んだってしょうがないだろ!」山本は思わず言った。
「薄情だな〜、おまえ。家族はいない。施設はなくなっちまう。踏んだり蹴ったりじゃねえか!どうにかならんのか?」口を尖らす加藤。
「どうにかって……。病院の方で最善策をとってくれるさ。なんせ有望株だしな。」
「……。」

山本は更に何か言おうとしたが、加藤は既に高イビキをかいていた。

「やろォ……。」山本は毒づいた。


(3)

加藤と山本が少女を救出してから1週間が過ぎた。
少女が集中治療室から一般病室に移されたと聞き、二人は揃って見舞いに訪れた。

「よお!」加藤がドアから顔だけ出して挨拶をした。
「?」涼は怪訝な顔つきで、やけに明るい角刈りの訪問者を見つめた。
「命の恩人、参上!」角刈りが答えた。
「ああ。宇宙戦士訓練学校の?」
「そーそー。俺、加藤三郎。んでもって、こいつが。」

後から長髪の美形が顔を覗かせた。

「俺は山本。山本明。俺達、飛行科の同期なんだ。」
「あ、どうぞ。入って下さい。加藤さんと山本さん、でしたね。助けてくれてどうもありがとう。私、涼って言います。神倉涼。」
「かみくらすずって……名前、コテコテの日本人じゃん。」加藤は目をパチクリさせた。
「ああ。それ、説明すると長くなるのよね。そんなことより、ねえ。私が引っくり返ってたとこの近くに男の子がいたでしょう?死んでしまったけど……。」
「ああ……。君の友達だったの?」山本は顔を曇らせて言った。
「ショウタ。モトミヤショウタっていうんです。アイツ、中学を卒業したら宇宙戦士訓練学校に入るんだって、パイロットになるんだって言ってたの。明るくてやさしくて、ちょっとバカだけど……いいヤツだった……。私の、たった一人の友達だったのに……。」
「そうか。明るくてやさしくて、ちょっとバカで、いいヤツだったんじゃあ、そいつ、俺みたいだった?」加藤は、にかっ、と笑って言った。

(ヤダ、ホント。なんか似てるかも――。)涼は加藤とショウタを重ねた。

「そう言えば君、爆弾が落ちる数日前に、あの付近で飛行訓練してたのが俺達だってどうしてわかったの?」ふと山本が尋ねた。
「え?私、何か言ったの?」涼が目を丸くして言う。
「うん。死んだフリして飛んでたのは、俺達だろう――って。」
「ああ。あの時の飛行機野郎は、二人だったの?」
「そうなんだけど、倒れてた君を抱き起こして声をかけたら目を開けてそう言ったんだよ。」
「……そう?ごめん、覚えてない。」

と、いきなり加藤が笑い出した。

「わははは。だから言ったろ?偶然、なんとなく言ってみたらビンゴだったんだ!」

つられて涼も笑った。

「私もそう思うんだけど。」
「……。」

山本はポツン、と取り残され、頭を掻いた。
加藤も山本も、少女が笑ってくれたのが何より嬉しかった。
加藤の屈託のない笑顔を見ながら山本は、いまさらのように感心した。

(こいつ、時々バカかと思うこともあるけど……。ヒトを心から笑わせることができるヤツなんだよな。俺には真似できねえよ。無意識なのかも知れないけど、おまえってすげえよ、ホント。)

コンコン、とノックの音がして、ものすごく体格のいい強面の看護師が入ってきた。

「お二人さあん、面会時間、過ぎたわよ〜。」声まで野太かった。
「うい〜っす!加藤、山本、これより宿舎へ帰還しま〜す!元気んなってよかったよ。んじゃ、な。」加藤は額に手をかざして敬礼のポーズをとった。
「また、来るよ、涼ちゃん。」山本も、にこり、と微笑む。
「ありがとう。元気出た。おやすみ!」涼は二人に笑顔を返す。
「またな!」しつこく手を振る加藤。
「おやすみ。」ウインクしてみせる山本。

しかし、これは涼には届かず、代わりに間にいた看護師が受けて、投げキスを返した。

「うふ。かわいいわねえ、ボウヤ達。おやすみなさい。」
「げ!」加藤と山本は慌ててドアを閉めると、全速力で廊下を駆けて行き、別の看護師に、たしなめられる声が聞こえた。
「んもう!失礼な子達ねっ!!」看護師は鼻の穴を膨らませた。

涼は毛布を被って笑いをこらえた。

■ 4.ふたりの訓練生 終了 ■