バレンタイン・投げキッス
その日――。
居酒屋で、真田志郎と太田健二郎の3人で、久しぶりに飲んでいた神倉涼は、酔いが回って箍の外れたように絡みだす真田を置いて、店を抜け出した。
「ま〜ったく。しろうちゃんてば、ストレスたまってんなあ、もう。ケンちゃんは逃げちゃうし〜。」
でも――。
ホントウは、彼女には他に目的があった。
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タクシーを拾い、郊外の公園を訪ねる。
人気のない双丘の公園。
ライトアップされてはいるが、なんともうら寂しい丘だった。
涼は、車を待たせ、ためらうことなく片方の丘に登り――。
とある一角で、足を止めた。
「よっ!」
声をかける。
ちんまりと目立たず佇んでいる慰霊碑。
そこに。
涼はしゃがみ込んだ。
「今日は酒臭いけど許せ。」
懐から何やら包みを取り出し、笑いながらそう言ってリボンを解く。
中にはチョコレート。
それをひとつ、つまんで掌に乗せ、慰霊碑に向かって差し出した。
「ほらこれ。戦闘機型のチョコ。見っけちゃった。あんまり売れてなかったんだけどね。」
涼は小さく笑った。
「病院ってのも、いろいろ確執があって疲れるわ。そうでなくてもワタシ好かれてないから、参るよ。」
そう言って、涼はポンポンと自分の肩を叩く。
「ショウタが生きてたら……ワタシ、あんたの嫁になってたかも知んない。」
「……なあんてね。ワタシ、何言ってんだろ。やっぱ、ちょっと酔ってるかな?」
涼は、苦笑いした。
「星がきれい。」
芝生に腰を下ろして、酔いを醒ますように、しばし夜空を見上げる。
それから――。
再び丁寧にチョコレートを包装し、元通りにリボンを結んで供えた。
「じゃ、また来るね。ショウタ。」
涼は丘を駆け下りた。
涼は待たせてあったタクシーに乗り込むと、英雄の丘へと車を走らせる。
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英雄の丘。
こちらは有名どころだが、さすがに人気はない。
涼は、とあるレリーフの前で立ち止まる。
「久しぶり。」
涼は、先ほどのと同じ包みを2つ、そして小洒落た瓶の日本酒を取り出した。
「あんたら、ケンカしそうだから、やっぱ同じのにしたよ。これ、戦闘機型のチョコでさ。なんかついつい買っちゃった。ショウタのもおんなじなんだけど。でもねえ、これ、人気ないみたい。すっごく沢山、余ってた。」
「ごめんね。ホントはさ。たあサンにもらったヤツ持って来ようと思ったんだけど……。ほら、前に話した『楽天女』。森雪が床に飲ませてくれちゃってさ。ま〜ったく、あの女ときたら……。」
涼は、酒をバシャバシャと振りかけながら、楽しそうに話しかける。
酒臭いレリーフ。
そこに刻まれた名前は。
加藤三郎。
山本明。
「ヤマトの連中、みんなそれぞれ、『らしく』元気にやってるよ。特に古代進と森雪には参るよ。手がかかって。」
愉快そうにグチをこぼす涼。
「このまま、何事もなく平和だといいね。」
涼は、そう呟くと、大きく伸びをした。
「さて、と。行くかな。夜の墓場で女がひとりっつうのもアヤシイもんだからね。じゃ、またね。」
「せっかくのバレンタインデーだしな……。」
涼は、ふと思い立ち、丘を振り返った。
そして、にっこり微笑むと、二人に向かって投げキッスを贈った。
「やれやれ。ワタシってば何やってんだか。がらじゃないじゃん。やっぱ、酔ってるかなあ。」
己の行動に、ひとり赤面して苦笑する涼の頭上を、降り注ぐような星々が見守るように瞬いていた。
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