野球しましょ
作:サランさん
1)
ちゅんちゅん!
庭ですずめがたわむれている。そのすずめたちを包んでいるのと同じ、春の柔らかい陽射しが部屋の中にもあふれている。その中で航と澪は青いレールを部屋いっぱいにつなげて列車を走らせ、その輪の中でブロックを散乱させて作っていた城は中途半端、その横でクレヨンをばらまきながらおえかきをしている。
「レールとブロックは片付けちゃおうよ」
「え〜っ!みおやだ!お兄ちゃんやってよ!」
「なんで兄ちゃん一人でやるんだよ!」
航が膨れっ面でにらむと、澪は何も言わずに小さいクッションを航に投げた。戦闘開始か?
「あら?さっき片付けるって、言ってなかったっけ?お片付けできないと、外でランチできないわよ!」
「やだよ〜!ほら澪、片付けよ!」
「うん!」
雪の一声で、さっきぶつぶつ言っていた澪も航と仲良く片付けだした。そして台所では、進が雪と2人で作ったサンドイッチを切り、タッパーに入れるはずが、一切れ、また一切れ・・・
「パパ!つまみ食いはダメよ!」
「んぐ!・・・作った特権ってことでさ」
「もうダメ!」
パシン!
さらにもう一切れつまもうとする進の手は雪に叩かれ、あえなく撃沈した。
「じゃ、パパはこれとこれをよろしくね」
サンドイッチと飲み物とお菓子の入ったバスケット、そして遊び道具のつまったリュックを渡された。
「これ、重すぎないか?」
「だって誰かさんが、すっごく遊んで、すっごく食べるんだもん!航、澪!行くわよ〜!」
「「は〜い!」」
軽快な足取りの3人のあとを進がときどきずり落ちそうな荷を直しつつ、ついていく。
やわらかな草の間から土筆が顔を出し、モンシロチョウがふわりふわりと飛んでいる。土手はもう、春の香りでいっぱいだ。その一角に雪は宇宙を飛ぶヤマトが描かれた、ビニールシートを広げた。
「パパ、お疲れ様!さ、ここにバスケットおいて!もう、航ったらそんなにあわてないの!こら澪!お菓子はあとよ!」
これくらい怒られるのはものともせず、航はサンドイッチをぱくつき、澪は進のあぐらの上にちょこんと座り、進からジュースを受け取った。
「もう!パパは甘いんだから」
「まあ、いいじゃないか。そんなに怒るとかわいいタレ目が台無しだぞ!」
「あーひどい!気にしてるのに」
「なんでだよ?僕は雪のその目好きなのになあ」
「・・・ヤダ!古代クンてば」
すっかり子どもの存在を忘れ、恋人モードな2人に澪は
「ママずるい〜!パパひとりじめはだめ〜」
とかわいい嫉妬をした。
「アハハ!ごめん、ごめん!ほら、一緒に食べよ!」
澪はまた進の足の上にのり、サンドイッチをほおばった。そして進はそっと雪に耳打ちした。
「夜はパパにママを独り占めさせてね」
「…バカ」
急に顔を赤くした雪を、航が不思議そうに見ていた。
「やっぱり青空の下でみんなで食べるとおいしいなあ!ふわあぁ〜なんだか眠くなってきた・・・」
ランチを終えた進は草の上にゴロンと横になった。少し傾きだした太陽を見ていると、まるで吸い込まれるように眠くなる。
「パパ!寝ちゃダメ〜!いっしょに遊ぶって約束したのにぃ!」
「でもホント気持ちいいんだって!お前たちもねころがってみなよ!」
口を尖らせながら、航と澪は進をはさんでねころがった。ほんとだ!・・・草の上って気持ちいい。そして目の前にはこれでもかというほどに青く澄み切った空がどこまでも広がり、雲がゆっくりと流れていく。やさしい陽射しと、草が風に揺れるサワサワという音の中で、3人、いや雪を含めた4人が今にも眠りに落ちようとしていた。
「あっ!澪の帽子が!」
澪のお気に入りの赤い帽子が風に飛ばされた。航がすぐに追いかけたが、あともうちょっとのところでさらに風に飛ばされる。
「アハハハハハハ!あいつ、風に遊ばれてるな!って笑ってる場合じゃないか。パパも行ってきま〜す!」
進も航を追いかけ、やがて2人の姿は土手の向こうに消えていった。
「大丈夫よ。澪の帽子はお兄ちゃんが取ってきてくれるから」
しかし、どうも胸騒ぎがする。雪は荷物をまとめると、澪と2人の後を追った。
帽子は航を誘うかのようにフワリフワリと風に乗り、やっとキャッチボールをしている男の足元で止まった。男はその帽子を拾い上げ、肩で息をする航に差し出した。
「これは君のかい?」
「ううん!妹のなんだ。ありがとう、お兄ちゃ・・・あっ!アキラ・・・アキラだよね?」
進が航の近くまで来ると、帽子を手にしつつ男にまとわりついている。
「何やってんだ?あいつ・・・」
そして目の前に来た進は驚愕し、かみつかんばかりの勢いで叫んだ。
「山本〜!!!お前、生きていたのか!」
「えっ!ち、違うんです」
「じゃあ、兄弟か?加藤も兄弟そっくりだからなあ」
「いや、あの、兄弟でもなくて・・・」
そこにやっと雪が澪をつれて現れた。
「キャ〜♪アキラ・・・さんじゃない?!航、澪!満塁サヨナラホームランよ!あのぉ、この子たちと握手してもらえますか?それから私も・・・」
「ええ!いいですよ!」
長い前髪からのぞく瞳は春の陽射しにも似て、やさしい光に満ちている。この男はそう、今やプロ野球界を代表する超速球投手、アキラなのだ!マウンドを降りるととてつもなくやさしい笑みを見せるのだが、いざ勝負となるとその眼光は鋭く、ベテランバッターでも息を飲む。そしてさらに鋭い球が、キャッチャーミットに寸分の狂いもなく決まるのだ!“北の狼”と異名を持つこの男は、お荷物球団と言われるほど負け続きの球団にテストで入団した。それ以前の経歴は不明。しかし彼の活躍が起爆剤となり、この球団は常に優勝争いをする人気チームへと変貌したのだった。そのアキラを囲んではしゃいでいた雪がいくぶん落ち着きを取り戻すと、一人ぽつんとしていた進に説明した。
「古代クン。彼はね、すっごく速い球を投げるプロのピッチャーなのよ!私もテレビで始めて見たときは山本クンとそっくりだったからびっくりしたけどね」
「ふ〜ん」
なんだか進としては面白くない。
「森さん、古代さん!僕のほうこそお会いできて嬉しいです。あなた方のおかげで、何の心配もなく大好きな野球に打ち込めるのだから。本当にありがとうございました!」
アキラは2人の前に来て深々と頭を下げた。聞きなれてる言葉だが、あの山本とそっくりな男に言われると、どうにも妙に面映い。
「今度、試合観に行きますから、アキラさんもがんばってね!」
「はい!ぜひ、観に来てください!それじゃあ、もう球場に向わないといけないので、これで失礼します。航くん、澪ちゃん!またネ!」
軽くウィンクをして、アキラは仲間とともに颯爽と土手を駆け上がって、去っていった。
「「「かっこい〜!」」」
雪、航、澪はアキラが見えなくなるまで後姿を見つめていた。
「みおね、こんどあったらアキラのコイビトになる!」
進はやっぱり面白くなかった。そこに野球のボールが転がってきた。
2)
「すいませ〜ん!ボール投げてくれますかあ?」
進はボールを手にし、叫んだ男を見た。
「太田じゃないか!何やってるんだ?」
「あっ!古代だったのかぁ!何って、野球だってば!」
「へえ!じゃあ、応援してやろうか?航、澪!どうする?」
「「行く、行く!」」
そんなわけで古代一家は河川敷のグラウンドへと向かった。
「古代!お前がびっくりするやつがいるぞ!」
「え?・・・あっ、太助だろ?」
「いや、太助じゃないけど、なんで?」
「だってあいつ、地球でなら”消える魔球“を投げられるのにってよく言ってたからさあ」
「それ真にうけてたのかあ?古代らしいな」
「い、いや!そんなことはないけど・・・そうか、やっぱりうそだったのかあ」
2人は知らない。太助が本当に”消える魔球“を投げることを!
「太田さん、ボールどこまで捕りに行ってたんすか?陽が暮れちゃいますよ!わっ!古代さん!森さんたちまで・・・」
「よっ!四郎じゃないか!お前がピッチャーか?」
「ええ!コントロールには自信がありますよ!そうだ、こいつ紹介しますよ!」
「始めまして!土門竜太郎です!」
ちゃかちゃかとレガーズをならしながらマウンドにやってきた、ずんぐりむっくりとしている男はキャッチャーマスクをはずすと、どことなくあいつに似ている。
「土門ってまさか・・・」
「そう!こいつ竜介の弟なんですよ!これでもリードやキャッチングがうまくて、プロから誘いが来てるんですよ!」
「へえ!それは楽しみだな!」
「ほお、古代か」
低くてなぜかエコーがかった聞き覚えのある声。
「まさかあいつじゃないよな・・・」
進の期待通り(?)デスラーが現れた。
「フッフッフ!久しぶりだな古代!」
「って、先月、外遊だとかで会ったばかりだろうが!仕事しろよ!」
「これも仕事でね。私も忙しい身だがこうして時間を割いて、異文化の理解を深めに来たのだよ。つらいがこれも総統の務めなのだよ」
その後ろで顔を引きつらせてタランが雪にこぼした。
「総統はたいそう野球がお気に召したようで、地球のプロ野球選手によるガミラスでの野球教室も開く事になっているのですよ。それは良いのですが、総統にはもう少し執務に励んでいただきたいと・・・」
「タラン将軍も心配の種がつきないのね。異文化交流はいいことだけど」
ピッチャーマウンドがすっかり井戸端会議場となってしまい、審判がとうとう怒鳴った。
「いつ試合を再開するんだ!それとも中止にするのかね?」
進がこれまた聴き覚えのある声に振り返ると、マスクを取った審判の顔は藤堂長官だった。
「古代!話は試合の後にしてくれ。そうしないと陽が沈んでしまうからなあ」
「長官!わ、わかりました!おい、航!澪!土手から試合を見よう!」
「「うん!」」
3)
さあ試合再開だ!試合は終盤にさしかかり、太田や四郎のいる“ヤマト町3丁目チーム”とデスラー率いる“ガミラスチーム”はここまで3対3の同点。現在7回の裏ガミラスチームの攻撃!2アウト、ランナー3塁という得点のチャンス!侍従Aの打席は1ストライク、3ボール。
『ここでボールを待って次につなげるか?それともタイムリーヒットが出るか?』
たかが草野球、されど異星の総統の出場という事で、実況アナウンスに相原が借り出されていた。
『ピッチャー加藤!左膝を高く上げそこから海底に潜るサブマリンのように上半身を沈ませた!優雅に大海を泳ぎ、そのさきから鎌のように鋭くきらりと光る腕が一気に水上へと浮かび上がった!内角をえぐる速球だ!侍従A、打てるか?』
アンダースローの四郎の手から投げられた球はわずかに内角のボール球だった。しかし手柄をあせった侍従Aは
「カキン!」
『あ〜、つまった!ピッチャーゴロだ!加藤、軽くさばいてホームに投げる!』
「アウト〜!3アウト、チェンジ!」
見送っていればフォアボールで出塁できたものを・・・。デスラーの右手の人差し指がぴくぴく動いている。ここは地球。ぴっ!のできるボタンは無い。侍従A、命拾いをしたようだ。しかしデスラーは審判に叫んだ。
「選手交代!侍従Aに代わり、3塁古代!」
「おい、デスラー!いきなり何を言うんだ!」
進はデスラーに怒鳴ったが、航と澪、そして雪の視線が冷たい。
「パパ。自信ないのぉ?」
「んなわけないだろ!分かったよ!今行くから待ってろよ、デスラー!」
リュックからグローブを出し、3塁ベースのすぐ後ろに進はかまえた。
『さあ、代わった選手のところに球は集まると言いますがどうでしょうか?ピッチャーデスラーは悠然と振りかぶり、れいによってまたもキャッチボール投法だ!ふわっと打ちごろな球だ!』
「カキーン!」
『フラフラ打球が上がった!センター、バック!えっ?すでに後方にかまえていた!侍従B、ファインプレーです!』
これはファインプレーではない。デスラーはわざと打ちごろの球を投げ、その速度と打者のかまえ、パワーからどこに飛ぶかを計算しているのだ。しかし進は
「おい、デスラー!ずいぶんとなめたピッチングだな!」
「フフフ!これも作戦のうちなのだよ!そうだ古代!君もちょっと投げてみないか?」
『おおっと!ここでピッチャー交代!なんと古代だ!ピッチング練習はデスラーと同じキャッチボール投法だ!これで大丈夫なのか?』
『2番!セカンド八百屋の辰さん!背番号808!』
辰さんはあの古代進が相手だというだけで極度の緊張状態だ。バットを持つ手が震える。しかし進の投げた球は
「ボール!」
辰さんの背中すれすれで通っていく。その次はタランが思いっきりジャンプしてようやく捕れた。そして
「ボール!ボール!フォアボール!!ランナー1塁!」
まだ肩が温まっていないかなと、進は腕をグルングルン回している。
(総統の女房役も大変だが、古代進の女房役も大変だな)
と、ちらりとタランは雪のほうを見てしまった。相原の隣に座っている、晶子の声が響いた。
『3番!レフト太田!背番号07!』
まさにうぐいすのような声だ。晶子が一言発するたびに、見詰め合う相原と晶子。マスクの下で長官はどんな顔をしているのか・・・。なんてことにはかまわず、太田は数回素振りをしてバッターボックスに入った。
『古代vs太田!どちらに軍配が上がるのか?ピッチャー第一球振りかぶったぁ!これは速いぞ!しかしど真ん中だ!』
カキーン!
ふら〜っと上がった打球はレフトへ。しかしわずかに切れた。
「ファール!1ストライク!」
長官の声が響く。デスラーが腕組みをして、進をにらみつける。そして、第2球!
カキーン!
今度はライトに行った。しかしこれもファールだ。2ストライク。
「っつ!惜しかったなあ!古代!次こそは・・・」
と、太田はバットでセンター奥を指した。ホームラン宣言だ!
「「パパ〜!がんばれ〜!」」
ホームラン宣言とかわいい声援に古代の体の血が騒いだ!ふつふつと!ブツブツと!ブクブクとっ!
『さあピッチャー第3球!・・・ん?振りかぶる前に古代はボールを前につき出し・・・つ、つぶしてるぅ!そして足を高々と、なんとバレリーナのように天に向かって突き上げたっ!そこでさらに、片足でハイジャンプ!どんな球が来るんだ?!』
ブウォウォウォウォウォウォォォォォォォォ!!!
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!
竜巻のような球がタランのかまえるミットに入りはしたが、球のあまりの勢いにタランはそのまま後ろへ数メートル押されてしまった。審判である長官は、予測していたのか横にそれて、難を逃れた!
「「ウワァ〜ン!パパがコワイよ〜!」」
「そ、そんなことないわよ・・・」
進のあまりの変貌振りに、航と澪は泣き出し、雪はそれをなだめたが、雪も実は怖かった・・・。
誰もが呆然とする中、声をあげたのは長官だった。
「ボーク!ランナーは1つ進塁!」
ボールをつぶすと言う行為がボークとなった。バッターはノーカウントとなり、2ストライクのままだ。
(ボールを傷つける、つばなどをつけるのはボーク(ピッチャーのルール違反)なので、つぶすのもたぶんそうじゃないかなあと・・・by筆者)
「えっ?今、俺・・・」
ものすごい形相だった古代が、長官の声で我に返った。
「古代。野球にはルールというものがあるのだよ。交代だ。3塁に戻りたまえ」
「ルールって」
デスラーにだけは言われたくない!という言葉を飲み込んで、進は3塁に戻った。太田はデスラーの打ちごろの球に力が入りすぎ、ピッチャーフライに終わった。
『4番!ピッチャー加藤!背番号01!』
剣道の上段の構えのように高々とバットを構え、デスラーをにらむ。デスラーも先ほどまでのキャッチボール投法の時と違い、気迫がマウンドからみなぎっている。
『今度のデスラーは何か違うようだ!さあ、ピッチャー第1球!』
ガウウウウウウウウウウウウウ!
ズバンッ!
『まるで闘犬がうなりをあげているかのような球の音だ!デスラーが牙を剥いて加藤に襲い掛かる!加藤もフルスウィングで応戦だ!しかしバットは空を切ったァ!メットも飛んだァ!』
「「「おおおっ!」」」
いつのまにか集まっている観衆から感嘆の声があがる。デスラーの渦潮のように空気をも巻き込む剛速球も四郎の腰がねじ切れんばかりの空振りも、草野球とは思えない迫力だ!
「「「デスラー、いいぞお!」」」
「「「かっせ、かっせ!加藤〜!」」」
『大声援の飛び交う中、ピッチャー第2球!打ったあ!これは3塁線を抜け・・・抜けないっ!古代飛びついたあ!そのまま空中スローイング!1塁アウト〜!』
蝶のように舞い、蜂のように刺す!まさにそんな形容がぴったりの超ファインプレーだ!
「古代!少しはやるな!」
「ふっ!デスラーも少しはいい球投げるじゃないか!」
こんな言葉を交わして、デスラーは進の帽子を拾い上げて渡した。
「ねえママ!パパってすごいね!」
「そりゃそうよ!ママのパパだもん!」
続く竜太郎はキャッチャーフライにしとめられた。そして8回裏、9回表、ともに無得点。3対3のまま9回の裏を迎え、現在2アウト、ランナー無し。延長か?サヨナラか?
『5番サード古代!背番号29!』
「古代〜!お前が決めろ〜!」
「加藤〜!先輩だからって遠慮すんな〜!」
観衆の野次に四郎は心の中で答えた!
(あたりまえだろ!古代さん、悪いけど三振してもらうぜ!)
四郎はグローブの中で、ゆっくりとボールの握りを確かめる。投げるのは彼の決め球、スカイフォーク!アンダースローの地を這うような球筋から、ホームベース前でふわりとホップし、まるで空から落ちてくるかのような激しい落差でホームベース上を通過する。まさに魔球だ!一方進は波動砲を撃つときのように相手をしっかり見据え、2、3度素振りをして打席に入った。その立ち姿がにくいほど、一つ一つ決まっている。
『さあ、ピッチャー第1球!出たっ!空の申し子、スカイフォークだ!古代見送った!1ストライク!』
竜太郎は進を見上げる。全く微動だにしない。手が出なかったのか?球筋を見ていたのか?
『加藤、サインに大きくうなづき第2球!同じくスカイフォークだ!また見送った!古代、手が出ないか?』
にやりと四郎は口角を上げる。自慢の変化球だ!いくら古代といえども、そう簡単に打たせはしない!しかし竜太郎はじっと進を見上げる。全く動きはないが、2球目がミットに入ったとき、進の瞳の奥がキラリと光ったのを竜太郎は感じていた。同じ球を3球続けるのは危ない!タイムを取り、マウンドに駆け寄った。
「シロ兄!3球目ははずしたほうがいいよ!」
「ん?俺のスカイフォークが打たれるって言うのか?」
「かもしれない。古代さんは何かつかんだみたいだ」
「そうか。お前が言うならそうなんだろうな。でも、それならなおさら逃げるわけにはいかないな!」
「・・・わかったよ。ったく、シロ兄は強情だからな!」
「アハハハハハ!お前のアニキもかなり強情だったぜ!竜太郎はどっかとミットを構えていてくれ!」
「OK!」
幼き日に両親と兄を失い、親戚に預けられた土門竜太郎はその近所の加藤家によく遊びに行っていた。とりわけ兄、竜介を知る四郎を本当の兄のように慕っていた。竜太郎の読みとしては、進は間違いなくスカイフォークを狙ってくる。しかし、だからこそ投げるというのが四郎だと、少し笑みをこぼしつつ、竜太郎はホームベース前の定位置についた。
『長いタイムが終わり、プレー再開だ!さあ、ピッチャー第3球!おっ!またもスカイフォークだ!古代打った〜!しかしライトフライだ。万事休す・・・あっ!ライトがボールをそらした〜!古代、1塁をけって2塁へ!』
ライトを守っている、和菓子屋のよしさんがボールを追いかける。これが普通の球場だったらせいぜい2塁どまりだ。だがここは河川敷。ライトの後ろは塀ではなく、航の背ほどもあろうかという草むらだ。そこに入ったらランニングホームランになる可能性が大きい。まして進の足ならなおさらだ。だが、よしさんが草むらに入る前にボールに追いつくのはムリそうだ。
ダダダダダダダダダダダダ〜〜〜〜!
「そこを開けろ〜!俺がとるっ!」
『四郎がすごい勢いで、ボールに向かっていく!よしさんが道をあけて、なんとマウンドからボールに追いついた〜!』
「竜太郎〜〜〜!!!」
『コスモレーザー並の球を四郎が投げた〜!竜太郎のミットめがけて一直線だ!デスラーが3塁横で腕を大きく回している!古代、3塁をけってホームに向った!ヘッドスライディングだ!しかしいい球が返ってきた!これは面白いぞ!セーフか?アウトか?』
・・・・・
砂ぼこりが舞い、わきあがった歓声は静まり返った。
パシャン!
川面を跳ねる魚の水音がやけに響く。
「セーフ!セーフ!!!ゲームセット!!!」
長官が叫んだ!4対3でガミラスチームのサヨナラ勝ちだ!
「やった〜!勝ったぞ〜!」
デスラーがホームに走りより、立ち上がった進の肩を叩いた。まるで子どものようなはしゃぎようだ。進も
「勝った!勝った〜!」
と叫びながらデスラーの肩を叩いた。この2人がともに勝利の喜びを分かち合うなんて・・・。この光景を見た人々は、勝利以上の感動を味わっていた。しかし、雪とタランの目には、喜びの表現以上に、この2人が力を入れて叩きあっているのを感じ、小さなため息をついてしまったのだった。
一方外野では
「シロ坊、ごめんな!俺がエラーさえしなけりゃ・・・」
「やだな、よしさん!それも野球のうちだって!むしろ感謝してるよ。デスラーや古代さんたちとこんなに楽しい戦いができたんだから。それに竜太郎とも久しぶりにバッテリーを組めて、嬉しかったよ!」
そう言って四郎は満面の笑みを浮かべた。よしさんの目頭が熱くなった。
「いつもビービー泣きながらサブのあとをひっついていたお前が、そんなことを言うようになるたあ、俺はホント、嬉しいよ!」
「ビービーって、それは大げさじゃないの?」
子どものときのような膨れっ面で四郎はよしさんとホームベースに戻ってきた。それを待って、長官がみんなに声をかけた。
「よしっ!ではこれから第2ラウンドだ!私のいきつけの店で打ち上げだ!デスラー総統も」
「ご招待を受けては、行かぬわけにはいくまい」
「総統!そろそろお仕事に戻っていただかないと・・・」
さらに顔を青くしたタラン。そこに雪が入ってきた。
「タラン将軍。そう堅いこと言わないで」
「う〜。ですが、1回や2回ならまだしも、10回、20回となると・・・」
いつ何時でも、悩みの尽きないタランだった。
「ねぇ、ねぇ!おじいちゃん!みおたちも行ってもいい?」
「や、やだ!澪ったら!長官におじいちゃんだなんて!」
雪はあわてて澪を抱えあげるが、長官は豪快に笑った。
「アッハハハハハハ!澪や航は私には孫同然!私は2人にきてほしいが、ママにきいてごらん」
「ママ!いいでしょ?」
兄妹2人が声をそろえて雪のスカートを引っ張りながら聞いた。
「ハイハイ!でも、あんまり騒ぎすぎちゃダメよ!」
「雪!子どもは元気が一番だよ!澪、おいで!」
デスラーはそう言って想い人の幼き日の面影と重なる澪を抱え、肩車をした。
「あら。澪よかったわね!」
「ウン!」
その足元で、航はむくれていた。
「澪ばっかりずるい〜!」
「よ〜し!じゃあ航は俺が肩車してやるよ!ヨイショッと!ずいぶん重くなったなあ!」
「わあ!ありがとう、シロ坊!」
「オイオイ!せめてシロ兄にしてくれよぉ!」
「「あっははははははは!」」
四郎の情けなさそうな声にみんな笑ってしまった。デスラーの肩には澪、四郎の肩には航。そしてその後姿を見ながら進と雪は並んで歩いていた。
「なんだかいいな」
「そうね。・・・ってこの手はダメ!」
パシンッ!
雪の肩を抱こうとした進の手はまたしても、叩き落とされてしまった。
「何でダメなんだよぉ?」
「みんなもいるんだから、恥ずかしいでしょ!」
「へえ!雪もそういうこと言うんだあ!」
「ヤダ!太田くんてば!」
そんな雪の抗議の声よりさらに高い澪の声が響いた。少し暗くなった東の空を指しながら。
「一番ぼ〜し〜♪見ぃつけたっ♪」
END
素材:野球素材屋
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■ちょほいとヒトコト
と〜っても楽しくて、心がほんわかあったかくなる、古代ファミリーと仲間達(笑)のサランさんワールド!
今回は草野球のお話なのですが、野球好きの方だったら思わず 「にやり!」としちゃうと思います。
何故なら!!
ヤマトキャラに隠れて、いろんな野球小僧キャラ達が、こっそり出演してるんです♪
是非、これは 「あのキャラかな?」 なんて想像しながら読んでみて下さい!
ひと粒で2度も3度も楽しめちゃいますぞ〜〜〜!!
サランさん、ステキなお話、どうも有り難うございました♪