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救出
シャーロットを止めた声の主は雪と同じ多国籍医師団の女性だった。
「何やってンの、あんたらは!どういうことよ?」
辺りの光景に唖然としつつ、女医は車から、ひらり――と飛び降りた。
すらりと背が高く、プラチナブロンドの髪と翡翠のような瞳の、医者というよりはモデルのような女だった。
銃をぶっ放す少女に、敵兵と思しき少年。
そのすぐ脇に森雪が端座した格好で何やら気絶している様子である。
よく見れば、腹部から、かなりの出血をしているではないか。
少し離れたところに、満身創痍の兼良が四肢を投げ出すようにして伸びている。
(ここで一戦、交えたってこと?)
女医は大きく溜息をついて顔をしかめる。
少女以外は、どいつもこいつも一刻を争う重傷とみた。
「なんだっつぅのよ、この有様は!!カンベンしてよねえ!!高階さん、あっちにいる兼良さんの手当て頼みます。コウゾー!そこのボクを診て。分かってるとは思うけど、そのコ、異星人だから血液には気をつけて。」
どうやら、この威勢のいい女医がリーダーと見え、他の救護スタッフに指示を出すと、雪に駆け寄った。
覗き込む女医。
「森ゆーき!森、ゆ……き……?うっわ、こりゃやばいわ……。2000ccはイッちゃってるかな?ふむ。一応、生きてるわな。そこのコ!!ボケッとしてないで、ちょいと手、貸す。」
口ぶりから察するに女医は雪とは知り合いのようだった。
レイガンを握り締めたまま呆けていたシャーロットは、ハッ、と我に返ると、言われるままに手を貸す。
女医は軽口を叩きつつも、その表情は必死だった。
難しい顔で応急処置を施しながら雪を車に運ぶ。
シャーロットは、おずおずと女医に歩み寄り、不安げに尋ねた。
「あの。この人……は――」
女医はテキパキと処置をしつつ、シャーロットには目もくれずに言った。
「はっきり言って大丈夫じゃないね。時間無いからアンタも早く乗って。高階さあ~ん、そっちはァ?」
「大丈ー夫っ!兼良はぁーっ、既に応急処置がしてありますーっ!」
「森雪ね。何してんですかあー?早く運んで――」
高階から返事が返るが、雪が一刻を争う状態なので、女医は焦っていた。
「あのーっ!手、貸して下さあ~い!こいつ兼良ですよお~?重くて僕では運べませんよお~!!」
高階は高階で、兼良を運ぶのに難儀していたのである。
「そうだった。華奢な高階さんじゃあ、兼良さんは運べないわな。身体デカすぎだもん……。森雪ひとりで大変だったろうなァ。コウゾー、そのボクを乗せたら、高階さんを手伝ってやって。」
「はいっ!!」
こうもタイミングよく医療スタッフが駆けつけたのは、実は偶然ではなった。
兼良が負傷した時点で、雪が救急本部に連絡を入れていたのだ。
雪が指示した場所へ行ったが、姿がなく、軍からの一報を受けて、アタリをつけてやって来たところが、この有様だったというわけである。
3人は負傷者をすべて収容すると、車を病院に向けて急発進させた。
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車は最新の医療設備をコンパクトに乗せた救急車だった。
そしてその中では、懸命の救命作業が行われていた。
「ショック指数、2.0。思った以上に出血量多いですね。ヘマトクリットは……30%以下、収縮期圧50mmHgです。」
高階の上ずった声。
難しい表情の女医。
「やっばいな。輸液ランクCでやって!」
「反応、マイナスです!」
「くそ! DOA、DOB落として、様子見て!」
緊迫した様子に、シャーロットは、おずおずと尋ねる。
「あの。この人、雪さんは助かりますか?それから、兼良さんは――」
「あんた名前は?」
女医は高階と一緒に何やら大掛かりな機械に森雪の身体を横たえながら、シャーロットの質問には答えず、逆に尋ねた。
「シャーロット。シャーロット・ハサウェイ。私、雪さんと兼良さんに助けてもらったんです。だから――」
「兼良さんは多分、大丈夫かな。森雪の方はナンとも言えない。腹部にでかい穴開いちゃってるし、出血量もべらぼうだからね。病院までもつかどうかもわかんない。正直、キビシイかな。」
シャーロットの言葉を遮るように女医は言った。
「そんな――」
シャーロットは愕然とした。
「私はやれるだけのことをやるだけ。」
淡々と答える女医。
「収縮期圧、戻りつつあります。」
「オッシ!」
喋りながら女医は、機械から伸びているコードやチューブに雪の身体を繋いでゆく。
「できることなら私も助かって欲しいけどね。彼女、友達だし――」
「友達、なんですか?」
えっ?――といった表情のシャーロット。
「いや、過去にも2度ほど助けてるから、命の恩人かな。高階さん、どう?」
「戻ってきてます。数値低いですけどね。」
「よしっ、と!」
「このままなんとかもってよ!!頑張れ、森雪!」
女医は雪の一応の処置を終え、ほっ、と息をつくと、やっとシャーロットの顔を見て微笑んだ。
「私、神倉涼って言うんだ。」
「スタン、申し訳ないんだけど、車、もっとスピード上がる?患者、ヤバイんだよね。」
涼は少々、焦り気味に運転手に声をかけた。
「いいけど、揺れるぞ。」
「それはなんとか大丈夫だと思う。繋いじゃったから。」
「ラジャー。飛ばすぞ!」
「サンクス、スタン!」
車はグンッ――とスピードを上げて搬送を急ぐ。
「コウゾー!連絡つけといてくれた?」
「ハイ。準備万端だって国吉さんが。」
「サンキュ。兼良さんとボクの方、どう?」
高階は小さく微笑んで涼に言った。
「さすがだな、森は。兼良は体力こそ消耗してるけど、これなら大丈夫!男の子の方は詳しい検査をしないと分からないですけど、一応は大丈夫じゃないですかね。」
「ホント?よかった。」
涼は小さく息をつく。
「でも森は――」
涼の横顔を、じっと見つめる高階。
「うん。なんとも――」
答えて、うつむく涼。
「やっぱりキビシイですかね。」
訴えるような瞳の高階。
「うん。キビシイね。」
軽くこめかみを押さえて、吐息のように答える涼に、高階の瞳が悲しげに揺れた。
しかし、あえて微笑んでみせる。
「でも涼ちゃんなら、やれるっしょ。国吉サンもいるし――」
「カンタンに言うなよなあ。私はカミサマじゃないんだから。」
高階は天才外科医と謳われた涼に、あっさり言われて、深くうなだれた。
高階はヤマトの医療スタッフとしてイスカンダルの頃から雪や艦医だった佐渡酒造と共に仕事をしてきたのだ。
高階は生命維持装置に繋がれた雪を見つめながら絞り出すような声で言った。
「森……頑張れよ。僕はもう誰も失いたくないんだ……。キミが死んでしまったら、古代や航くんや澪ちゃんはどうなるんだよ。」
涼は、悲しげな高階の横顔を見つめた。
涼は涼でやりきれない思いだったか、笑顔を作ると高階の肩をぽんっ、と叩いて、胸を反らして言ってみせた。
「そんな顔しないでよ。大丈夫。絶対に死なせないから。アタシを誰だと思ってんの?」