多国籍医師団 − 雪と兼良(かねよし) −
森雪は、大規模な被害を受けた東京湾岸東地区第6エリアの救護スタッフとして忙しく働いていた。
雪とコンビを組んでいるのは陸戦隊出身という変わり種の看護師・兼良剛志という男だった。
暗黒星団帝国侵略の時、雪はパルチザンとして陸戦隊と共に戦ううちに兵士達と親しくなった。
兼良も、その中の一人であった。
あの戦いの後、彼は看護師の資格を取り、軍を辞めた。
雪と同じく数年間、病院勤めをした後、多国籍医師団のスタッフとして登録したのである。
ナリはデカいが、涙もろくて人の好い男だった。
「おい、森。佐渡先生から、おまえに伝言だぞ。科学局の真田さんが復帰したそうだ。」
病院と連絡を取っていた兼良は、戻るなり、雪にそう声をかけた。
薬の整理をしていた雪が、嬉しそうに振り返る。
「ほんと?良かった!!でも早いわね。本当はもっと休まなきゃいけないんだろうけど。真田さん、自分が不在中に、こんなことになってしまって、きっと、じっと寝ていられなかったのね……。」
真田の体調を案じて顔をしかめる雪に、兼良も苦笑しながら言った。
「そうでなくても、なんだか細々やってるヒトらしいからな。」
「ええ。おかげでヤマトに乗ってる時も、何度も助けられたけどね。『こんなこともあろうかと――』なあんて言っちゃって、いつの間にか、すごいアイテム発明してたりして。」
雪は、手を休めて懐かしそうに言った。
「ふうん。なんというか、地球にとって貴重な財産みたいなヒトだよなあ。」
「そうよね。天才って彼のためにある言葉じゃないかしら――って思ったものよ。真田さん、無理しなければいいんだけど……。」
「そりゃ、森にも言えることじゃないのか?」
やや疲れの色が見え隠れする雪を、兼良は気遣った。
「え?」
「おまえも、あんまり無理するなって言ったんだ。」
「ありがとう。でも大丈夫よ。こう見えてね、私、結構、タフなのよ。」
そう言って雪は微笑んでみせた。
しかし、兼良の目には、どこからどう見ても、雪の身体は華奢で、そんな風には見えず、いささか呆れたように肩をすくめた。
テキパキと働く彼女の姿を、しばし眺めていた兼良だったが、ふと真顔になって尋ねた。
「なあ。気にならないのか?フォンロン……いや、古代のこと……。」
「え?」
思いもよらない話の展開に、雪は少々、驚き、再び手を止めた。
「おまえ達は、その……いつも一緒に戦っていたろ?」
兼良の言葉に、何かイヤなことを思い出したように、雪の瞳が翳った。
それから――。
少しうつむいて、わずかに声のトーンを落として言った。
「そうね……。気にならない――って言ったら嘘になるけど……。でも――」
「でも?」
雪が、ゆっくりと顔を上げる。
「信じてるから。」
「……。」
「絶対に帰って来るって信じてるから。私も子供達も。」
愚問だった――と兼良は後悔した。
そのはっきりとした強い口調と、自分をキッ、と見据えて揺るがない瞳に、彼女の芯の強さ、そして二人の深い絆を改めて見せつけられたような気がした。
フッ、と苦笑いする兼良。
「そうか。そうだな。何を聞いてんだ、俺は。ハハ。なんか、当てられちまったってカンジだな。さて、と。もうひと頑張りするか。」
「そうね!」
雪は、薬品の入ったケースを、よいしょ、と担ぐと、兼良の背中をパシンッ、と景気づけるように叩いて、いつもどおりの穏かな笑顔を見せた。
(大した女だよ。、おまえは――)
兼良は、雪の背中を見送って、また苦笑した。
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重傷者の処置を一通り終えて、ほっと一息ついた時、雪は、後ろから、ぎゅっと腕を掴れた。
驚いて振り向くと、先刻、治療を終えたばかりの老人が懇願するような瞳で自分を見つめている。
「どうかしましたか?」
不安げなその表情に雪は穏やかに尋ねる。
「あなたは……、あなたは確かヤマトの人でしたよね?」
「え?」
ヤマトの人――と言われて雪は怪訝な面持ちで老人を見つめ返し、ああ、またか――と思う。
ヤマトの元乗組員――殊に初航海からのスタッフだった者達は、英雄伝説化されており、困ったことに、どうも救世主のように思われている節があって、妙な期待をされることが往々にしてあった。
何しろ防衛軍司令長官のバウムガーデンでさえ――なのだ。
雪は、一抹の不安を抱きつつ、老人の話を聞く。
「私は……10ブロックから避難して来ました。あの時は無我夢中で逃げて……。娘と孫を置いて来てしまった。娘たちのいる12ブロックを捜そうとしたんだが、爆発に巻き込まれて、この有様です。もしかしたら、ここのキャンプに避難しているかも知れないと探したんだが……。見つからなかった。あの……助けてやっては貰えませんか?孫は、まだ13なんです。私は、あの娘達を置いて自分だけ助かってしまった。どうか、どうか助けて下さい!!」
やっぱり――。
雪は返答に困って兼良に救いを求めるように視線を流す。
兼良は小さく頷いた。
「お気持ちはお察します……。しかし、あの辺りは被害が大きい。いくら森でも――戻るのは困難です。」
兼良は辛そうに答えた。
「分かってます。分かってるが……。お願いします。娘と孫を助けて下さい。」
雪は老人に両手を握られ、額を擦りつけるように懇願されてしまった。
(参ったなあ……。私は神様じゃないのに。でも――)
困惑しつつも、このまま見捨てることもできないし――などと、ついつい思ってしまう。
生きているかどうかさえ分からない母子の捜索と救出――どうしたものか、と雪は唇を噛み締める。
雪は悩んだあげく、ついに兼良に声をかけた。
「兼良クン。もう一度、あの辺りの生存者の捜索はできないものかな。」
「……。森ならそう言うと思ってたんだよな。隊長サンに連絡を取ってみっか?」
兼良は肩をすくめつつ人懐こい笑顔を浮かべた。
なんだか雪の言葉を待っていたようにも見える。
そうか。
兼良クンは暗黒星団帝国の侵略で、妻子を失っている。
だからきっと、放ってはおけないのね。
許可をもらうため、テントに駆け戻る兼良。
穏かな微笑の下に、兼良の今も癒えない悲しみを見たような気がして、雪の胸はキリリ、と痛んだ。