奇襲! 燃える地球

深夜――。
およそ時代遅れの3階建ての小さな建物の前に車が止まった。
大柄の中年男を若い小柄な男が担いで、よたよたと車から出て来る。

古ぼけた看板には「佐渡診療所(人間・動物両方可)」。

それを目に留めた若い男は、不安げに尋ねた。
「ホントにいいんですか?こんなところで――」
大柄の中年男は目を閉じたまま、苦しげに答える。
「いいん…だ、ここ……で。」
「局長がそうおっしゃるなら――って大丈夫ですかっ!?局長ーっ!!」
局長――と呼ばれた男は、どうやらそこで意識を失ってしまったらしい。

若い男は、焦りに焦った。

「ス、スイマセン。御連絡致しました科学局の者ですが――」
急患用のインターホンを何度も何度も押し、声をかける。

と――。

つるつるに禿げ上がった頭を撫でながら、小柄の好々爺が窓から顔を出した。
「真夜中だちゅうに、けたたましいのう。そんなにしつこく呼ばんでも聞こえとるわい。あー悪いがの。そのまま中まで運んでくれんかの。わしゃもう、トシじゃからの。あ、そっちじゃなくて。診察室はこっち。こっちじゃ、こっち。スマンの。」

かつてヤマトの艦医だった佐渡酒造である。

そして担がれている大柄の男――彼は科学局局長の真田志郎。
若い方の男は彼の部下だった。

若い局員は出てきた佐渡を不審そうに見つめる。
(昔、ヤマトに乗ってた名医だって聞いてたけど……なんでこんな汚いところで開業してるんだ?しかもかなりのジジイだぞ?それに……なんだか酒臭いじゃないか。こんなヤツに局長を任せて大丈夫なのか?)

局員はハアハア言いながら、真田をベッドに横たえた。
「いやあ、ご苦労、ご苦労。患者は確かに預かった。もう帰っていいぞい。」
「はあ。しかし――」
局員の目は明らかに佐渡を疑っている。

佐渡は、にやり――として胸を反らす。
「うすら汚い小さな診療所の、見ればワシがえらいジジイの医者なんで、おまえさん、心配なんじゃろ?だがの。心配には及ばんぞ。トシこそ取っておるが、わしゃ地球一の名医じゃからのぅ〜。」
そう自慢げに言ってのける佐渡に、局員はかえって怪しんだ。
「確かにそのように伺っておりますが、しかし――」
上目使いに佐渡を見る。
しかし、佐渡は真田の診察を始めていた。

「ワシゃ、信頼されてないようじゃのォ〜。天才外科医なんぞと呼ばれておる神倉涼や生意気盛りの国吉、駆け出しの森雪を育てたのは、何を隠そう、このワシじゃぞい?」

「はあ……。」
ジジイの戯言として聞き流そうとした局員だったが、佐渡が口にした医師達の名前に思い当たり、ハッとなって顔を上げる。
「――って、それ……名医ぞろいじゃないですか!!」
「そうじゃ!」
喋りながら意識のない真田の処置を進める佐渡医師。

掌を返したように態度の変わる局員。
何より、年齢を感じさせない佐渡のテキパキとした働きぶりが、若い局員を充分過ぎるほどに納得、信頼させたのである。

「わかったら帰ってよし。」
「はいっ。局長をよろしくお願いしますっ!」
「うむ!」


「おいこら!!アナライザー。酒が切れとるじゃあないか!!早く持って来んかいっ!!」
真田の診察と処置を終えた佐渡は、診察室から顔だけ出すと大声で叫んだ。
すると、かなり不満そうな声が返ってきた。
「ワカリマシタヨ!!マッタク、ヒトヅカイノアライ、ジジイダ!!アア。ゆきサ〜ン、イマゴロドウシテオイデデスカ〜。アノ、ヤカマシイ、ぎゃんぐノヨウナちびドモノ、セワニオワレテイルノダロウカ……?アア、ネコトヨッパライダケノ、フモウナヒビ。ゆきサ〜ン、アナタニアイタイデス。ホントニアイタイ。アイタクテ、ムネガハリサケソウダァ〜!!」

間もなく、ブツブツ文句を言いながらアナライザーが酒瓶をぶら下げて診察室に戻ってきた。
「ヨッパライ……ジャナカッタ。さどセンセイ、モッテキマシタヨ!!」
「おう!そこ置いとけぃ!」

「久しぶりだなあ。アナライザー。」
意識を取り戻した真田が、懐かしそうにアナライザーに声をかけた。
アナライザーも旧友(?)の声に、嬉しそうに答える。
「さなだキョクチョウ、モウ、オメザメデスカ?ゴキブンハドウデス?」
「ああ。最悪だよ。おまえは元気そうだなあ。」
覇気がなく、掠れて弱々しい真田の声に、心配そうに点滅しているアナライザー。
「イエイエ。コウミエテ、ワタシモカナリ、クタビレテイルンデスヨ。旧式モイイトコデスカラネ。局長トカワリマセン。モウ、トシカナ……ナンテオモイマスヨ。」
「なんだおい、アナライザー。俺とかわらないってなんだよ?そんなトシじゃないぞ!!」
(そういや太田のヤツも老けたとか言いやがったな!!)真田は鼻を膨らませて不服そうだった。
「なあに言うとる。おまえさんも、もうトシじゃ。」
別室から薬を抱えて戻ってきた佐渡にまで言われて、真田は憮然とした表情になった。
「ひどいなあ、先生まで!!」

佐渡は、にこにこしながら聞き分けのない悪ガキにするように、真田の頭にゲンコツを落とした。
「いっ!!」
頭をさする真田。
「気ばかり若くってものぉ〜。身体はそれなりじゃて。まあ、わかっとるだろうが、おまえさんは過労じゃ。しかも、かなり深刻じゃ。」

シミだらけの天井を見つめ、無言で聞いている真田。

穏かだった佐渡の顔が、やや厳しいものに変わって、そんな真田の顔を覗き込む。
「まあ、若いうちは根を詰めても、ちぃ〜っと休めばすぐに体力は戻るがの。トシを取るとこれが抜けずに積もる一方じゃ。おまえサンは疲れが積もり積もって身体が悲鳴を上げとるんじゃ。観念せい!!」
「う。」
真田は言葉に詰まった。
「確かに……おっしゃるとおりです。しかし、この緊急事態に俺が抜けたら――」
起き上がろうとする真田の額をぴちゃり――と叩いて佐渡が声を張り上げた。
「休めといったら休め!!これは命令じゃ!!ま、既にバウムガーデン君には連絡済みじゃ。おまえさんの身体を思ってなあ、ちとばかし大袈裟に報告しておいた。いいか。たっぷり休むんじゃ。わかったな。」
言いながら佐渡はもう茶碗に酒を注いでおり、くいくいくいっ、と飲み干した。

「先生……。あなたこそ大丈夫なんですか?そんなに飲んで。先生こそ、もうお年じゃないですか!」

佐渡は真田を横目でチラリ――と見やった。
「病人のクセに、ぴーぴーとやかましいのぉ。いらん心配じゃ。酒がまずくなるわい。ワシには雪も涼もついておるしの。アナライザーともツーカーの仲じゃ。なあ、ミー君や。」
佐渡は眠ってばかりの老猫の頭を、やさしく撫でると目を細めた。
「わしゃもう、倅や娘を失いとうないんじゃ。かわいい孫達の面倒を見ながら、のんびり余生を送りたいんじゃ。」

小さく呟く年老いた佐渡の背中を見つめ、真田はホロリ――とひとすじ、涙をこぼした。
(先生……。ふ、俺もやっぱり、年を取ったんだな。どうも涙脆くなっていかん。)

薬が効き始めて真田は、虚脱した。
ゆっくりと眠りに落ちていく。
(フォンロン、どうしているだろうか。古代は……桑原は……ちゃん…とやっている…のだろう、か?眠い…なあ。寝てる場合じゃないのに……我…なが…ら情けな……い、な。)


真田志郎が戦線離脱して、5日が経った。


*********


地球防衛軍司令本部管制室――。


けたたましいアラート。
「長官!!最終防衛ラインを越えてボラー艦隊の奇襲です!!」
「何ッ?どういうことだ!!」
「デ、デスラーの瞬間物質輸送のような戦法かと――」
「くそう!!第一級スクランブル!!早急に民間に手を回せ。被害を最小にするんだ!!」


「本星艦隊応戦中。しかし奇襲攻撃に体制整わず苦戦している模様――」
「敵、大型艦より戦闘機多数、出現。一部、大気圏内に侵攻!!」
「なんだとっ!!味方戦闘機はどうした!」
「コスモタイガー・ネオ、既に出ています。敵機と交戦中!」

「敵艦より大型ミサイル!!」
「迎え撃て!!何をしている?」

「続いてファルコン、出撃しました!!」
「迎撃ミサイル、交わされました!!大型ミサイル、ほ、北米A―11、12ブロック直撃!!被害、未確認!!」
「オーストラリア、東ヨーロッパ及び東アジアにミサイル直撃!!」
「くっそおおおおっ!!」

「地上、小型戦闘機による攻撃が開始されました!!」

「こっ、ここにも!!東日本湾岸エリアにも、敵兵多数降下始まりました!!被害、拡大しています。」
「陸戦隊、応戦中!!」

「民間人、避難開始しました。」

「空間騎兵隊も動員だ、すぐにだ!!」
「多国籍医師団を直ちに派遣しろ、急げ!!」
「医師団、既に出ています!!」
「よし。おい、森君と兼良君に連絡が取れるか?」
「は?」
「二人は元は軍の人間だ。戦闘経験もある。急げ!」
「わかりました。やってみます。」

「長官!!森さんの方とコンタクト、取れました!!」
「回せ。」
「はいっ。」

「森君。」
「はい。」
「陸戦隊と連携を取りながら被災者の救出を頼む。キミと兼良君、他数名の戦闘経験者には特別に武器類の所持を許可しておく。すまないがキミには兼良君とコンビを組んでもらい、必要なら指揮を取って欲しいのだ。何しろ戦闘経験者が少なくて私としては心許ないんだよ。頼む。」
「わかりました。」
「フォンロンは――古代の艦は善戦してくれているよ。冥王星の敵を見事に撃破して、こちらに向かってくれているはずだ。」
バウムガーデンは、夫である古代進率いる遊動艦隊の動向も雪の気になるところだろう――と気を効かせたつもりであった。
「はい。」
雪は頷いて恐縮する。

バウムガーデンは、ふと思い当たって表情を曇らせた。
「すまないな。まだ小さな子供さんのいるキミに、こんな危険な――」
しかし雪は小さく首を振って、その言葉を遮った。
「いえ。子供達は既に両親と避難しておりますし、覚悟もできてますから。それに……子供達には……普段から言い聞かせてありますので。」

(覚悟はできている――か。)
雪の言葉にバウムガーデンは沈痛な面持ちで頭を垂れる。
「森君……。本当ににすまんな。」

そんなバウムガーデンを労わるように、雪は穏かな表情を作る。
しかし、その瞳は強く固い決意に満ちており、むしろ雪の方がバウムガーデンを力付ける形になった。
「とにかく頑張りましょう、長官。大丈夫ですよ、地球は。これまで多くの戦いを切り抜けてきたんです。私達は、そうカンタンにはやられませんよ。」
ハッと顔を上げるバウムガーデン。
しばし、雪を見つめると、にやり――と笑った。
「さすがだな。キミは本当に強い。」
バウムガーデンの言葉に雪は、肩をすくめ、小さく微笑んで言った。

「当然ですわ。私、二人の子供の母親ですから。」
(それに――古代クンも宇宙で懸命に戦っているんだもの――)


地上の戦いが激化する中、雪達、多国籍医師団の戦いも始まった――。



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