反撃!地球艦隊 ― ミッションコード:スパイダー ―
ビスマルク、フォンロンの連合艦隊の前に、徐々に圧され始めたボラー艦隊。
意気の上がるクルー達だったが、古代は腕を組み、厳しい表情を崩さなかった。
「いいか。相手も必死だぞ。気を抜くな!」
戒めるような古代の声に、土方は深く頷き、毅然と指示を出す。
「ビスマルクの右後方に一旦、回り込んで前に出る。退路を塞げ。」
「了解!」
島が、大きく頷いた。
(いい判断だ。)
にやり――として大きく頷く古代。
「ファルコン2番隊。フォンロンを援護しろ!」
『了解!しっかり守らせてもらいますよ、戦闘班長殿!』
「頼むぞ、勝呂!」
島は土方の指示通り、きっちりと艦を回した。
ファルコンのガードも固く、鉄壁の護りを見せる。
「さすがだな、勝呂!」
水谷が珍しく勝呂を褒める。
「だァ〜れに言ってんスか、隊長!俺はエースだっつってんじゃん!」
「バカ野郎!いい気になるんじゃねえ!!」
得意になる勝呂だったが、やはり怒鳴られた。
「へいへい。隊長もくっちゃべってると当っちゃうぜ?」
「貴様こそ誰にモノを言ってるんだ!行くぞ!」
互いに軽口を叩きながらも確実に敵機を撃墜している水谷と勝呂の機。
ファルコンの戦いぶりに満足そうに頷く土方。
「艦長!アリゾナが木星を出ました。」
相原が明るい声で叫ぶ。
「そうか!」
笑顔で頷く古代。
(早く来いよ、マックス、南部、太田!)
激しい攻防が続く。
圧され気味とはいえ、ボラー艦隊もその底力を見せつけるように執拗に反撃してくる。
(決して楽な戦いとは思ってないが……。かつて戦ったボラーを思うと何か少し違う気がする……。戦い方に無理がある。)
古代はボラーの戦力に疑問を抱いていた。
こちら側も多数の負傷者や死者を出していて不謹慎な言い方だが、ボラーにしては「不甲斐ない」のである。
「艦長!ビスマルク艦長より入電!」
「切り替えろ!」
「古代司令!ぼちぼち『ミッションコード・スパイダー』といかないか!やつら味方が減って小さく固まり始めているからな。やるなら今がチャンスだ。」
「こちらも、そう思っていたところです。既に動きやすい布陣を取っています。」
「さすが元ヤマト――」
「やめて下さい、近藤司令。」
古代は近藤の言葉を遮ると、眉をひそめ、低く呟くように言った。
「ヤマトは数々の戦いに単独で勝利してきたと誰もが思っていますが……実際は、そうじゃない。多くの犠牲を払ってのことですよ。ヤマトだけで戦ってきたわけではありません。」
「そう、だな。そうだったな。すまん。」
近藤は、小さくうつむいて謝った。
ミッションコード・スパイダー。
この作戦は、桑原発案の元、真田の開発チームが作った新型亜空間システムを利用したものである。
装備されている艦は、フォンロン、ビスマルク、アリゾナの3艦のみ。
敵艦隊をできる限り引きつけておき、敵に感知されにくい、このシステムによって送り込まれた改良型・波動カートリッジ弾で退路を絶ちつつ一網打尽にして叩く――というものである。
改良型・波動カートリッジ弾――通称「カメレオン・クラッシャー」。
従来のものとの大きな違いと言うのは、複弾頭であることと追尾システムが組み込まれている点である。
波動砲を使い難い場所において、効力を発揮する――というのが発案者の桑原の売りであるのだが、如何せん、このシステムは二度のテストしか行われてはいないという不安もあった。
「く、桑原さん。大丈夫ですよね?例のカメレオンなんとか。」
土方が上目使いに桑原を見つめ、不安そうに尋ねる。
しかし桑原は、ニッと笑って胸を張った。
「ばかやろ!なんとか――じゃねえ。『カメレオン・クラッシャー』だ。コイツの発案は俺だけどなァ、作ったのは真田さんなんだぜ?バッチリに決まってんじゃねえか!」
「そっ、そうですよね。そうだ。そうだよ。作ったのは真田さんだったんだ。」
「あっ、てめえ!!ロコツに安心しやがって!!俺を信頼してねえな?この艦にも俺が手ェ出してんの忘れてねえか、おい?」
「そ、そうですけど。」
二人のやり取りに、相原と島が肩を震わせ笑いを堪えている。
バツが悪そうな土方に徳川が加勢した。
「大体、あんた、普段が普段だからな。土方の心配も分かるさ、なあ?それに『カメレオン・クラッシャー』ってネーミング、誰がしたんだよ?まさか真田さんじゃないだろ?」
「俺だよ!」
「やっぱな。まんまじゃん!子供のマンガだぜ!『対ブラックホール砲システム・ホールアウト』、コイツもお前が名付け親だろ?ゴルフじゃねえんだからよ〜。」
「るせえぞ、徳川!!」
腹立たしそうに鼻を膨らませている桑原を、ニヤニヤと見ている島と相原。
ほどよく緊張が解けたところで、古代が声を上げた。
「おまえら、その辺にしとけ!そろそろ気を引き締めろ!これからビスマルクと連携でミッションコード・スパイダーを決行する!」
ブリッジ・クルーの顔が瞬時に引き締まる。
「土方!桑原!頼むぞ!!」
真剣な眼差しの古代。
「任せて下さい!!」
二人は同時に頷くと、互いの顔をみやって、にやり――と親指を立てた。
「敵艦隊との距離は問題ないか?」と土方。
「充分です!」答える索敵席のケリー。
「新型亜空間システム作動準備!」
「カメレオン・クラッシャー準備。」
「新型亜空間システム、カメレオン・クラッシャー共に準備完了!」
テキパキとシステムを稼動させる、桑原。
徳川、頼もしそうに彼を見やる。
「出力充填、120パーセント!」
土方、桑原、徳川の3人が緊張した面持ちで古代を振り返る。
古代は、伏せていた目をゆっくりと開いた。
「各艦、特殊体系を取れ。コードはスパイダー!」
凛とした、よく通る太い声が響き渡る。
古代の声に地球艦隊が、それぞれの隊形を取り始める。
「ビスマルク及び各艦、準備完了。」
そう告げて相原が古代を振り返る。
深く頷き、満を持したように古代が立ち上がり声を張り上げた!
「フォンロン、ビスマルク両艦に告ぐ!カメレオン・クラッシャー、発射準備。目標、敵ボラー艦隊。」
古代の声と同時に土方の手元で、座標のついた小型の計器がポップアップする。
「敵艦隊捕捉。データ転送完了。」
緊張する土方の声。
静まり返ったブリッジ。
規則正しい計器音。
レバーを握り、ボタンに指をかけ、土方は祈るように小さく呼吸を整える。
「発射!!」
ピッ!
小さな電子音。
その刹那――。
フォンロンとビスマルク付近の空間の一部が、歪んだように見えた。
息を呑んで見えない兵器の行く末を見守る、地球艦隊。
火星空域は、しばし静寂に包まれた。