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想い ~戦いのあと・1~
ボラー艦隊の、ほんのわずか手前でカメレオンは浮上した。
新手の兵器出現に、慌てる敵艦隊。
しかし――。
時既に遅く、ボラー艦隊は目映いばかりの閃光に包まれた。
地球艦隊からは、一瞬、その光が張り巡らされた蜘蛛の巣のように見え、その刹那、巨大な爆発が次々に起こった。
「やった!成功だ!!」
小さく呟く桑原。
間髪をいれず古代が指令を出す。
「各艦隊、一斉に敵艦隊を砲撃せよ!」
畳み掛けるような地球艦隊の猛攻。
成す術もなく、破壊されていく敵艦隊。
やがて消滅……。
ミッションの成功に、大きく湧き上がり、ガッツポーズの若い乗組員達。
しかし。
苦い表情の古代と相原。
二人の脳裏には、末期のガミラス本星が浮かんでいた。
古代と相原は、互いを見やると、やりきれないように小さくかぶりを振った。
顔を綻ばせて桑原の元に駆け寄る土方。
「やりましたね、桑原さん!すごいじゃないですか!!」
しかし、桑原は頭を掻いて言った。
「ああ。いやあ、実は俺な。ああは言ってみたものの、かなり心配だったんだよ。」
「ええっ!?」
惚けたような桑原の口調に土方と徳川は揃って声を上げた。
「ちょっとちょっとォ。頼みますよお!」
興奮気味の土方を、ちらり――と見やると、島は苦笑して、やや呆れたように肩をすくめた。
「おまえら少し緩みすぎだぞ!まだ、仕事は終わっちゃいないんだ!土方、ファルコンを収容、桑原、艦を急ピッチで修復するぞ。我々は一分でも一秒でも早く地球に戻らねばならないんだぞ!分かったな!」
「はいっ!」
土方、桑原、徳川の3人は、真顔に戻ると、共に気持ちを切り替え、即、指示を出した。
格納庫――。
「おい!勝呂!勝呂、ちょっと来いよ!!」
整備士の平井が勝呂の姿を見つけるなり大声で呼びつけた。
「なんだあ?」
首をコキコキ鳴らしながら、惚けた声で返事をする勝呂。
平井は駆け寄って勝呂の両肩を掴むと、普段に似合わない、馬鹿に真面目な顔で言った。
「おまえ、落ち着いて聞け!あのな。吉岡がな――」
「なっ!?ばっ!?」
吉岡――という言葉に顔を赤らめ、過剰に反応する勝呂。
傍らで声を殺して笑う、ファルコン隊の面々。
勝呂は仲間の反応に憮然として、平井の眼前に、ぐいっ、と顔を突き出した。
「平井、てめ~。俺をからかうとタダじゃおかねえぞ?」
「馬鹿野郎!!マジメなハナシだ!!」
平井が、あまりに真剣な顔で怒鳴るので、勝呂は逆にたじろいだ。
「吉岡のヤツ、危篤らしいぜ?」
「はいぃ~?」
勝呂は平井の言葉が理解できず、素っ頓狂な声を上げる。
その勝呂を、ドンッ、と押しのけて水谷が割って入った。
「おい、平井!今、何て言った?」
「み、水谷さん……。いや、あの。よ、吉岡が第一砲塔で負傷したらしいんです。で、救護班のヤツらから聞いた話によると、彼女、危篤だって――」
「んだとぉっ!!」
今度は勝呂が水谷を押しのけて、平井の胸倉を掴んだ。
「お、おい!!何するんだよ!離せよ!くっ、苦しいっ!!」
勝呂は目を白黒させて暴れる平井を壁に、ガッと叩きつけると格納庫を飛び出そうとした。
その肩を誰かが、ぐいと掴んで引き止める。
「なっ!?隊長!!」
「何処へ行く?」
止めたのは水谷だった。
青褪め、戦闘中でも見ないような険しい表情。
しかし、勝呂は水谷の手を激しく振り払った。
「何処って……。決まってんだろ!吉岡のところへ――」
「行ってどうするんだ!?」
「どうするって……。」
問われて答えに詰まり、肩を落とす勝呂。
「まあ……落ち着け、勝呂。ちょっと待ってろ。確認を取ってみる。もし平井の言うとおり、アイツがヤバイ状態だってんなら……俺も行く。俺にとっちゃアイツは…・・・妹みたいなモンだからな。」
「隊長……。」
ブリッジ――。
館内通信のランプが点滅する。
「艦長。医務室からです。」
ハッとなって、相原を見守る一同。
中でも土方は、身を乗り出し、祈るような面持ちである。
「繋げ!」
「はい。」
『川原だ。現在、負傷者12名、内、入院治療を要する者が5名だ。重傷なのは坂巻君と吉岡君の2名。坂巻君の方は何とか一命を取りとめた。意識が戻ればもう問題はないだろう。それから、吉岡君だが……手術は乗り切ってくれたよ。しかしまだ、何とも言い難い厳しい状態が続いている。』
「そうですか……。」
川原の言葉に、沈痛な面持ちの一同。
土方に至っては、顔面蒼白である。
「坂巻のヤツは責任感の強い男ですから、目覚めたらイの一番にフォンロンの様子をを訊いてくると思います。戦いに勝利したことはもちろんですが、若手もしっかりやっているから大丈夫だと伝えてやってくれませんか。特に土方、ヤツもそろそろ板につき始めたとね。」
『ほう?そいつは頼もしいな。』
「はい。とにかくヤツを安心させてやって下さい。それから吉岡……ですが、どうかよろしくお願いします。」
『ああ。任せておけ。なあに。吉岡君のことだ。大丈夫さ。』
明るく答える川原だったが、気休めではないだろうか――と誰もが疑った。
「土方!ちょっと来い。」
古代が土方を呼んだ。
「医務室に行って来い。行って様子を見て来い。気になるんだろう?吉岡のこと。」
「え?あっ……はい。」
また叱られると思っていた土方は、古代の思わぬ言葉に、嬉しそうに、くわぁっと顔を綻ばせた。
土方の素直な反応に古代は思わず口元を緩める。
「まあ、おまえが行ってどうなるわけでもないが……励ましてやって来い!」
「はいっ!あっ、有り難うございます!!」
言うが早いか、脱兎のごとく駆け出していく土方。
唖然と見送る一同。
「若いっていいねえ。」
しみじみと呟く桑原。
誰もが土方の背中を微笑ましく見送った。
しかし――。
島だけが浮かない顔で、それを見つめていたことに、誰一人として気づく者はいなかった。