Family 2


翌朝――。

「ママぁー!パパがいるよ。パパだよ!!」
子供部屋から航が興奮気味にドタドタと走って来た。
「あら!今日は起きるの早いのねえ、航。」
朝食を作っていた雪は、手を休めて、にっこりと微笑んだ。
「ウン。おしっこ出たくて目を開けたら、パパが下で寝てたんだもん。」

進は半分眠りながら「子供部屋で寝る!」を繰り返すので、雪は仕方なく子供部屋の床に布団を敷いてやり、寝かせてやったのである。

「パパねえ、遅〜い時間に帰って来たのよ。」
「ふうん。起こしてくれれば、良かったのに。」
航は残念そうに口を尖らせて言った。
「航、おしっこ行ったの?」
雪が尋ねると航は、首を大きく横に振る。
「ううん。まだ。」
「じゃあ、早くしてきなさい。そしたら顔洗って。お洋服、棚の上に出てるから着替えて来て。」
「はあい。あ、パパ、お仕事は?」
「あるけど……今日は、夜まで一緒よ。」
「やったあ!」
航は嬉しそうにジャンプすると、はしゃぎながらトイレに駆けていった。

航がトイレから部屋に戻ると、澪はちゃっかり、父の布団の中に潜り込んで二度寝していた。
「ああ!!ずるいぞ!!ボクも。」
航は着替えをすっかり忘れて、自分も布団に潜った。

「うわあーっ!」
進が大声で叫ぶ。
「つっ、冷てえ足をくっつけるなあーっ!!」
航は驚き慌てる進に、けらけら声を上げて笑うと、面白がって、パジャマのめくれ上がった剥き出しの背中に何度も何度も足をくっつけた。
「わっ、航、このやろ!いい加減にしろよ!!」
進は、観念して布団を蹴り上げ、飛び起きる。
「こんにゃろう!!仕返しだ。とりゃ!!」
進は不敵な笑みを浮かべながら、布団をバサッと航に被せた。
父の宣戦布告に、ますます喜んで嬌声を上げる航。
いつの間にか、澪も参加して、三人でドタンバタン、取っ組み合いが始まった。

子供部屋からの物音に気づいて、雪は肩をすくめた。
(また始まったわね……。まったく、古代クンが一番のオコチャマなんだから。)

頃合を見計らって、雪は子供部屋にやって来た。

「ちょっと、あんた達、いつまでやってんの!いい加減にしてよ!」
雪が大声で叫んだ。
3人は、髪の毛をクシャクシャにして布団から顔を出した。
進は、ややバツが悪そうに頭を掻く。

しかし、強い口調とは裏腹に、雪の目は、限りなくやさしく笑っていた。
進は(すまん!)と目で謝った。

「何やってるんだか!航!澪!パパも、ちゃんと支度して!もうすぐ朝ゴハンよ。あ、布団もちゃんと直しといてね。」
「はあい!」
3人とも、とても素直ないい返事をして、にっこりと笑った。

4人揃っての、にぎやかで楽しい食事。
子供たちとの時間。
見つめる雪のやさしい微笑み。

失いたくはない。
雪、航、澪……俺のかけがえのない宝物。
そして俺達のこの、幸せな時。

俺は守る。絶対に守る。

最愛の家族を見つめる穏かな微笑みの下で、進は固い決意をした。

幸せな時間は、あっという間に過ぎ、やがて出発の夜。

「パパ、もうお仕事なの?」
航が悲しそうにうつむく。
「パパ、いっちゃやだ」
澪もベソをかく。

進は、せつなくなって子供たちを、ぎゅっと抱きしめた。
「ごめんな。実は今、とても大変なことが起こってるんだよ。」
「大変なこと?」
航は目を大きく見開いて、進を見つめる。
「ああ。地球じゃない他の星の人達がやってきて、地球の人を傷つけたり悲しませたりしてるんだ。」
「ほんと?」
「ああ。パパは、その人達に『そういうことをするのは、やめてくれ。みんな仲良くしよう。』ってお願いをしに行くお仕事をしなくちゃならないんだ。すっごく大事なお仕事なんだよ。」
「ン。」
航は手の甲で涙をゴシゴシこすりながら、小さく頷いた。
「ホントはパパだって、もっともっと航や澪と遊んでたかったんだけど……。ごめんな。」
「パパ、頑張って。ボク、待ってるから。澪をいじめたり、ママやおじいちゃんやおばあちゃんを困らせたりしないで、いいこでいるから。だから早く帰ってきて!」
航は涙をポロポロ零しながら進にしがみついた。
「ああ。」
進の目にも思わず涙が溢れた。
「パパ、え〜んしちゃやだ。」
澪が顔を上げ、進の涙を悲しげに指でぬぐう。
その温もりに進の肩が大きく震えた。

3人を黙って見つめていた雪は涙を隠すようにうつむくと、両手で顔を覆った。

「もう……時間だ。航、澪、パパ行ってくるからな。」
進は、まず航を抱きしめ、次に澪、最後に雪をぎゅっと抱きしめた。
そして涙で濡れている雪の瞼に、そっとキスをした。

「雪。俺は、必ず帰る。約束する。」
「信じてる。信じて待ってる。私も、子供達も。」
「うん。」
進は大きく深く頷くと、今一度、雪、航、澪を抱きしめ、ドアを出ていった。

雪は二人の子供の手を、ぎゅっと握りしめ、愛する夫の背中を見送った。




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