死闘! 火星宙域 (後編)


まだ燻っている第1砲塔内部――。

吉岡は、ゆっくりと目を開けた。
動こうとしたが動けない。
呼吸さえもままならない。
目を凝らしても視界が暗く、歪む。

視線を足元に移すと……
床に足がついていない。
一瞬、足を飛ばされたか?――と思ったがそうではないらしい。
身体が浮いているのだ。
(どういう……こと?)
視界を遮って伸びている、不自然な位置の鉄骨の先を辿る。

(やだ。笑っちゃうわ……。道理で動けないわけだ――。)

細長い棒状の鉄骨が自分の身体を貫いていたのだ。
吉岡は絶望しながらも笑っていた。

(何なのよ、これ。)
こうも早々とやられてしまうとは――。
戦いはこれからなのに!
自分はまだ、何もやってはいないのに!
情けなくて今度は泣けてくる。
(まだ死にたくない。)
そう思った時、ふっ、と意識が遠のく。

(土方君には少し言い過ぎたかな。)
土方の屈託のない笑顔が、ぼんやりと浮かぶ。
能天気で些か子供っぽい彼には腹立たしい思いもさせられたけれど、真っ直ぐで誠実な好青年だと思う。
(土方君なら、憧れの叔父さんのように立派な宇宙戦士になれるわ、きっと……。)
(私の憧れは……そうだな。あのヒトと……。古代艦長と雪さんみたいな……そんな――)

この期に及んで何くだらないこと、考えてるんだろう、私――。

視界が更に暗くなる。
薄れてゆく意識。
しかし、不思議と苦痛はなかった。


心残りは地球の未来と愛する母のこと……そして――。
(私、反対を押し切って宇宙戦士になったけれど、結局、この有様よ、 お母さん。ホントに……ごめんね。私、親不孝……だよね。でもこれで…お父さ んとお兄ちゃんに会える……のかな?お兄ちゃん……に会ったら私……謝ろうって――)

ふと、どうしようもない淋しさに包まれる。
(――クン、ごめんね。私、もう……。あなたのこと大好きだったよ。誰よりも大好きだった。今度、生まれ変わったら、その時は――)

吉岡は、死を覚悟した。
ゆっくりと、ゆっくりと目を閉じる。



「吉岡ぁーっ!!」
絶叫しながら飛び込んで来る土方。
黒煙を上げている第1砲塔内部。

「うっ……。」
人の呻き声に慌てて駆け寄る土方。

瓦礫の中に誰かいる。
砲術長の坂巻である。
「さ、坂巻さんっ!!大丈夫ですか?」
「俺は……大丈夫だ……。他のヤツを……見てやってくれ。特に吉岡を――」
気丈に答えるが、全身に火傷を負って、かなりの重傷である。
救護班が素早く坂巻の応急処置をし、運び出していく。

損傷の激しい奥の方に人影を見たような気がした。
散乱した瓦礫をかき分けて進む土方。
「吉岡。吉岡いるのかーっ!!」

「!」
その視線の先に……。
吉岡がいた。それも無惨な姿で。
息を呑む土方。
「よ、吉岡……。おい、吉岡!?――」
吉岡はガックリと頭を垂れている。
「あ……あ……。なんて………。」
駆け寄る土方。

「どけ。どくんだ!」
救護班の一人が土方を突き飛ばすように、吉岡の元に駆け寄る。
「こいつぁ、ひでえ。」
「い、生きてるのか?」
「――!生きてる!生きてるぞ!」

「手を貸してくれ。彼女をコイツから離す。」

注意深く鉄骨から吉岡を開放する。
咽かえるような血の臭い。
素早く処置を始める看護士達。

沈痛な面持ちで救護班員の一人が、土方の肩を叩く。
「土方。坂巻さんと吉岡以外は、残念ながら全員死亡だ。おまえは、持ち場に戻れ!後は俺たちの仕事だ。」
「頼む!吉岡を助けてやってくれ。死なせないでくれ!」
無言で頷く救護班員。


メインブリッジ――。

ふらふらと戻ってきた土方に向かって、古代は振り向き様に怒声を上げる。
「勝手に持ち場を離れられては困るぞ、土方!!今、我々がどんな状況下にあるのか分かっているだろう!!」
ただ、うなだれるだけの土方。
「ぼやぼやするな!!さっさと戻れ!!」

同じ様に振り返った他の者は、土方の血塗れの戦闘服に、第1砲塔の凄惨な状態を察した。
救護班からの報告は受けてはいたが、目の前の現実に皆、一様に悲痛な面持ちだった。
「くそう!!」
島は耐えるように肩を震わせて操縦桿を強く強く握り締めた。
(俺が、俺がもっとちゃんと交していたら吉岡は――)



と、その時、相原が明るい声で叫ぶ!!
「艦長!!ビスマルクより入電、直ちに合流し共に戦うとありますッ!!」
「よしっ!あと少しの辛抱だ!!皆、踏ん張ってくれ!!」
古代が声を張り上げる。

土方がショックから立ち直るのを待っている余裕はない。
古代が代わりに仁王立ちになって指示を出す。
「手の空いているものは、不足人員の補完をしろ!急げ!!」

そして桑原もマイク片手に珍しく声を張り上げた。
「側面どうした!?手動でなんとかなるはずだぞ!!フォンロンって艦は、いっくらでも融通がきくんだぜ!!早く誰か行け!!」

そんな中にあって、やはり呆けたままの土方。
パシン!――
業を煮やした古代は艦長席から離れると、土方の頬を思い切り張った。
「バカ野郎!!何をやってるんだ!!しっかりしろ!!」
土方は頬を抑え、うつむいたまま涙をぽろぽろ流しながら呻くように言った。
「戦闘のセンスは俺なんかよりも吉岡の方がずっと高かったんだ。だから、だからアイツがここでリーダーとして指揮を取って……俺が、俺が第1砲塔に行けばよかったんだ。その方がフォンロンのためにも……吉岡だってあんなにならずにすんで――」
「バカ野郎!!今そんなことを言ってる場合か!!いい加減に目を覚ませ!吉岡のことは救護班から報告は受けている……。だが、彼女のことを思うなら、そんな腑抜けた姿をさらすな!彼女は何を望んで戦っていた?吉岡は、そんなにヤワじゃない。大丈夫だ。きっと助かる。とにかくおまえは、今、何をすべきか――それだけを考えろ!いいな?」
「は、はい……。」
「声が小さいッ!!気合を入れろっ!!
「はいッ!!」

土方の顔つきが変わる。
服の袖で涙をぐいっ、と拭うと真っ直ぐに前を見据えた。
(そうだ。土方!今は戦うしかない!!肉親や……多くの仲間を失ってきた俺だ。おまえの気持ちは充分…いや誰よりも分かっているつもりだ。辛いだろうが堪えてくれ。この戦いを乗り切ったら……吉岡のところへ行かせてやる。それまで踏ん張れ。踏ん張れよ、土方、そして死ぬなよ、吉岡!)

古代は、ふっとやさしい眼差しで土方の背中を見守った。


ワープして来たビスマルク率いる艦隊が、絶妙なタイミングで合流。
苦戦していた地球艦隊が湧き上がる。

「艦長!ビスマルクの近藤司令です。パネル切り替えます。」
「スマン。遅くなったな、古代司令!」
「来てくれましたか、近藤司令!!」
「積もる話は、この戦いに勝利してからだ。行くぞ、古代!」
「はい。一刻も早くここを撃破して一緒に地球に向かいましょう!」
一進一退を続けていた攻防は、一転、地球側が優位に立ち始めた。


「こちら水谷。地球艦隊、いいカンジになってきたな。俺達もアタック・フォーメーション取るぞ!」
「了解。聞いたか、勝呂だ!チーム・ブラックピューマ、トルネード・アタックと行こうぜ。」
「へへ。待ってました!!勝呂、ヘマすんなよ?」
「バカ野郎、おまえが一番、アブナイんだよ!いいか、絶対に気を抜くなよ。俺達は誰一人、欠くことなく勝って地球へ帰るんだ。わかったな!」
「了解!そん時ゃ、晴れて吉岡にコクるんだろ?」
「ばっ、バカ言ってんじゃねえ。余計なことに気を回してねーで、集中しろっ!」
「へいへい!」
「行くぞ!」


メインブリッジ――。

「これから戦闘フォーメーションAを取り、ビスマルクと共に敵艦隊を一気に叩く!!ファルコン隊、隊形Bを取れ!!使用可能な全砲門開け!両舷砲塔、波動エネルギーを充填し、待機せよ!!」
土方の声が凛として響く。

(吉岡。キミの願いと俺の願いは同じだ!必ず、必ず勝利して、地球の未来を守って見せるからな!!だからキミも、絶対、絶対、死んだりなんかするなよ!!)

フォンロンは傷つきながらも、ビスマルクと共に激しい戦いを続ける。
古代には、若い戦士達が、ようやくフォンロンと一体となれたように思われた。
魂の篭ったようなフォンロンに、ヤマト初航海を思い出しながら古代は心で呟く。
(頑張ってくれよ、みんな!頼むぞ、フォンロン!)


そして――。
マックスと南部のいるアリゾナの艦隊もまた、全速力で火星を目指していた。



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