宇宙戦士の血


「どう?」
回診にやって来た涼が、にこやかに尋ねる。

「おかげさまで退屈してたとこ。」
笑顔でそう言って、ベッドの森雪は上体をゆっくりと起こした。

「ったく!口の減らない女だ。」
肩をすくめて笑う涼。

「シャーロットと……あの男の子、どうしてる?」
傷を診ている涼に身体を預けて雪は尋ねた。

「やれやれ。心配性ですなあ。」
涼は処置をしながら苦笑して言った。

「シャーロットなら、もう心配ないよ。ドンパチが落ち着くまでワタシと一緒だしね。ただ、あのボクは……一言も口をきかないのよね。まあ……言葉が通じないんだから喋らないのは当たり前だし、彼の置かれている立場を思えばわかるけどね。実は、あの子の方は国吉が担当してんのよ。アイツの話だと、食事には手をつけてるみたいよ。少しだけどね。とにかく彼には……いろんな意味で時間が必要なんだよね。身体が治ったら軍が引き取りに来ることになってんだけど……。」

「そう……。」
雪は顔を曇らせて頷く。

「やだなあ、もう!ワタシとしては人道的に接してもらうつもりでいるから安心してよ。まだ、あの子については何もわかんないけど……。心を開いてくれるのを焦らないで待ってあげるしかないわ。」
涼は雪を励ますように笑顔を作る。

「よしっ、と!だいぶいいけど……。治った気にならないでよね。調子いいように感じるのは薬のせいなんだから。まだまだ寝ててもらわないとダメだからね!わかっ……ありゃ?」

激しい爆撃の煽りを受けて、時々、電源が怪しくなる。
病院周辺への襲撃が激化してきているのだ。

「地下へ潜ったからいいようなものの……。陸戦部隊、圧されてんのかな。きな臭いったらありゃしない、もう!」
涼が天井を見上げて、いまいましそうに言った。

「素人に毛が生えたような部隊もあるのよ、中にはね……。戦い慣れした人があまりに少なくなってしまったから。」
雪が辛そうに言う。

「わかっちゃいるけどね、軍が人手不足ってことは。」
涼も、そう言うと小さな溜息をついた。

「でも……。こんなんが続いたら、患者の命に関わって――」

「この周辺、誰が指揮取ってるんだろう……。」

自分の言葉を遮るように呟いた、雪の目つきが、ふと変わっていることに気がついて、カンのいい涼は思わず声を上げた。

「あんたさ。滅多なこと、考えないでよね。」

「え?」
雪は、はっとなって涼に視線を戻した。

「間違っても、こっから脱走しようなんて考えないでよね?」
涼の疑ぐり深い視線が雪の瞳を捉えた。

「脱走って……。いやだ、涼ちゃんたら!何言ってるのよ。これじゃ動けないに決まってるじゃない。」
雪は肩をすくめて一笑した。

「いや。宇宙戦士の類はね、ある程度、動けるようになると無茶しやがるから。森雪と言えど疑っとかないとね。」
涼は疑いの眼で雪を見つめる。

「いやねえ、信用ないなあ。古代君じゃあるまいし。」
雪は思わず苦笑した。

「ふふん!夫婦ってさ。似てくるんだってよ。知ってた?」
涼は不敵な笑みを浮かべ、負けずに言い放つ。

「な……。言うわね、涼ちゃん。」

不本意な面持ちの雪の額を人差し指で2度3度と小突きながら、涼は釘を刺した。

「いい?ヘンな気を起こさないでよ?確かにアンタの快復力は驚異的だけど絶対安静だからね!」

雪は、はいはい――と返事をして大人しく布団をずり上げて被った。

「よろしい!」
涼は満足げに笑みを浮かべたが、その直後、わずかな建物の微動を感じて眉間に皺を寄せてた。

「やれやれ。そうこうしているウチにメシの時間だ。」
涼は、腹を撫でながら、いまいましそうに呟くと部屋を出て行く。

そして雪は――。
布団を被ったまま、考え事をしていた。


それが大いに自分を困らせ、手を煩わせる事態を招くことになろうとは、早速、食堂で『たぬきうどん』をずりあげつつ小さな幸せを噛みしめている涼は、知るよしもなかった。


5分でうどんを平らげ、飲み頃のお茶を一杯飲み干してカウンターにどんぶりを返したところで涼は、ふと足を止めた。

「まさか……ね。イヤな予感……。」

昼食のために要した時間、17分。

食堂を出て、廊下をダッ、と走り出す。


森雪の個室に戻って、ダンッ、と勢い込んでドアを開ける。

「ああっ!!やられたあ〜っ!!」

ベッドがもぬけのカラである。

涼は、バッ、と病室を飛び出すと、廊下を駆け出した。


「あの女ァ〜ッ!」



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