束の間の休息
波動砲によって敵艦隊を撃破したところで、戦いは一息ついていた。
相原に、休め――と言われたものの、古代には、やらなければならないことがあった。
初陣を勝利しはしたが、代償として命を落としたクルーもいるのである。
やはり痛い勝利には違いなく、古代は席を離れると格納庫に向かった。
格納庫では、艦載機ファルコン隊隊長の水谷秀人が、部下と整備士と共に各機体のチェックを行っていた。
そもそもエディを失ったのは整備を怠った溝口機のエンジントラブルが原因だった。
溝口はパイロットとして腕は立つが、いささか怠慢なところがあり、水谷も、そういう彼の性格を懸念してはいたのだ。それがこのような悲劇を招くことになるとは――。
水谷は唇を噛みしめ、一機一機、入念にチェックをしていた。
「水谷!」
「艦長!」
「エディ・マッキャンがやられたそうだな。」
水谷は足元に視線を落とした。古代は、上に立つものとして、そんな水谷の気持ちが痛いほどわかった。
「一部のパイロットが少々落ち込んでいまして――。精神面にやや不安が残ります。」
「だろうな。ヤツはムードメーカーでもあったし……。落ち込んでるってのは勝呂だろう?」
「ええ。エディのヤツは腕も確かで、訓練生時代から勝呂とエースを争ってましたから。いいコンビだったのに。加藤先輩の話では、昔の――加藤先輩のお兄さんと山本さんのコンビに良く似ていたんだそうです――。」
「ああ。俺もそう思ってたよ……。辛いな。」
古代は戦いに散った、かつての戦友――加藤三郎と山本明を思い出す。
実に気持ちのいい男達だった。
「連中にはエディの、ヤツの遺志をついで、この戦いに勝利するのだと言い聞かせました。地球が平和を取り戻さない限りエディの魂は安らぎを得られんと――」
水谷が両の拳をギュッと握り締めた。
「まったくその通りだ。」
古代も深く頷く。
「水谷。おまえも気苦労が絶えんだろうが、ファルコンの連中のことは任せたぞ。」
「はい。」
水谷は力強く頷いてみせた。
古代は水谷の肩を叩くと、格納庫を後にした。
古代が去った後も、水谷は工具を片手にファルコンの機体チェックを続けていた。
「水谷さん。少し休みませんか?」
整備士の一人が水谷の顔色を見て声をかける。
「疲れてるんじゃないですか?休めるうちに休まないと、後に響いちゃいますよ。」
「ああ。そうだよな。じゃあ、そうさせてもらうよ。すまないな、後、頼む。」
水谷は、やや疲れた面持ちで、小さく笑った。
そして、重い足取りで格納庫を出る。
第2居住区――。
勝呂は自室にいた。
勝呂とエディは部屋も一緒だった。
「勝呂。入るぞ。」
部屋に入ると――。
灯りもつけず、勝呂は暗闇の中でベッドにうずくまっていた。
水谷は、そのままドアにもたれて、静かな口調で話し始めた。
「これが戦争ってヤツなんだよ、勝呂。俺達はいつも生死の狭間にいると言ったろう。おまえとエディは、まるでゲームに興じるように敵機を撃ち落としていたが、おまえらが撃ち落とした機体にはな、人間が乗っていたんだ。そいつらはみんなエディと同じように死んだんだ。戦うことの意味をもう少し考えろ。俺は……敵機を撃つ時、『地球の平和のため』という大義名分を掲げることで罪の意識に折り合いをつけてきた。地球には親がいて、兄弟がいて、友がいて……愛する人を守るためには仕方がないんだと言い聞かせて戦ってきた。ずるいのかも知れないが、そう思わなければ、とても操縦桿を握れなかったんだ。」
水谷の言葉に、勝呂は呻くような声で言った。
「隊長……。俺、もうファルコンには乗れない……。」
水谷は頭を垂れ、眉間を指先でつまみ、深い溜め息をつく。
そして、しばしの沈黙の後、ゆっくりと顔を上げ、声のした方に向き直ると、やや強い口調で勝呂に問うた。
「そもそも、おまえがここにいる理由はなんだ?何故フォンロンに、何故ファルコンに乗り込んだ?単に――戦闘機に乗りたかったからか?」
「それは――。」
答えに詰まる勝呂。
「よく考えろ。俺もかつて――戦闘で親友を失った。俺自身、死にかけたこともある。オマエの腕は、とっくに俺を抜いてトップだ。だが……人間としては、まだまだほんのガキだ。俺にはそう見えるぜ。いいか?仲間を失って悲しいのは貴様だけじゃないんだ。ようく覚えておけよ。もうダメだってんなら、足手まといだ。ファルコンには乗るな。わかったな。」
「……。」
勝呂は何も答えられずに、ただただ嗚咽した。
水谷は悲しげに目を伏せた。
そして、それ以上はもう何も言わず、静かに立ち去っていった。
暗い勝呂の部屋に、悲しみだけが深く沈んで残った。
古代がメインブリッジに戻ると――。
相原が何やら蒼褪めた顔で、振り向きざまに叫んだ。
「たっ、大変です!!艦長!!たった今、地球が直接攻撃を受けているとの連絡が!!」
「何だって!?アイオロスとスコーピオはどうしたんだ!?最終防衛ラインが突破されたというのか!?」
古代は思わず叫んだ。
「いえ。詳細はまだ分かりません。が、デスラーお得意の瞬間物質輸送を模したような奇襲攻撃だったそうです。アイオロス、スコーピオ率いる本星防衛艦隊が、かなり苦戦している模様。」
「くそう!それで地球の被害は?」
「甚大な被害を受けたのはアメリカ、オーストラリア……ちょっと待って下さい。情報が更新されます。あ、ヨーロッパ、アジア地域にも被害が拡大しているとのことです!」
「なんてことだ!!情報が入り次第逐一報告しろ!」
「はっ。」
(イヤな予感が的中しちまった……。)
重苦しい空気がメインブリッジに流れた。
地球からの入電――。
メインブリッジのスタッフは、皆、息を呑んだ。
「艦長、映像出ます!!」
相原の緊迫した声が響く。
パネルスクリーンにバウムガーデン長官の顔が映し出された。
蒼褪め、疲れきった表情だった。
「古代司令!こちらは今、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ、アジアの一部地域でボラーとの地上戦が始まった!!本星防衛艦隊が何とか踏ん張っていて最小限の被害にはなっているが……。君達の方は――」
「我々は、冥王星空域の敵を撃破し、現在、損傷した艦を急ピッチで修復中です。済み次第、アリゾナ、ビスマルクとコンタクトを取る予定でしたが。」
「そうか!急いでくれ、古代!」
「はい!」
古代も相原も、苦々しい表情で、パネルの地球を見つめた。
(ついに地球に被害が……。なんということだ!)
古代は奥歯をギリッと噛み締めた。