フォンロン、地球へ向けて発進せよ!
計器類のチェックをしていた相原が、ふと、緊張した面持ちで通信機を操作する。
そして、ハッと顔色を変えると、古代を振り返り声を上げた。
「かっ、艦長!!通信が!!」
「なんだ、どうした?らしくないぞ!何を慌てている?」
相原の緊張した表情に、いぶかしげな古代。
「デ、デスラーから通信です!!」
「何だって?デスラーだと?」
相原の言葉に今度は古代が身を乗り出す。
急いでパネルを切り替える相原。
間もなく現れた映像に、古代、相原、徳川以外のクルーは、かつての敵に思わず息を呑む。
「古代。久しぶりだな。やはり、おまえが艦長として指揮をしていたのか。ふふふふ。なかなか、いい艦だ。ヤマトの再来かと思ったよ。」
デスラーは、古代に向かって懐かしそうに微笑むと、バラによく似た真紅の花を小さく掲げてみせた。
「デスラー……。久しぶりだな。折角のお褒めの言葉、嬉しい限りだが、この艦もようやくそれらしくなってきたばかりでね。」
古代も微笑み返したが、些か疲れたよ――とでも言うように、大げさに肩をすくめてみせる。
古代の苦労を察したのかデスラーは口角を上げて、にやり――とした。
それから、ゆっくりと目を閉じると、低く呟いた。
「なるほど。気苦労も並ではない――ということか。この艦も悪くはないが、しかし、大きく足りないものがある。」
「足りないもの?なんだ?」
眉を顰めて怪訝な古代。
「華がない。」
ゆっくりと目を開けるデスラー。
「え?」
きょとんとする、古代。
しかし、ちら――と思い当たり、おずおずと尋ねる。
「華……って……もしかして雪のことか?」
「姿が見えないようだが。彼女は常におまえと一緒なのではないのか?」
「あ……ああ。アイツはアイツで……地球で頑張っているハズだ。」
わずかに、その表情を曇らせる古代に、デスラーは、フッと眉を顰める。
「それでは尚更、地球を傷つけるわけにはいかんということだな。」
「どういうことだ?」
ハッ、となる古代。そして相原。
デスラーは不敵な笑みを浮かべ、やや威圧的な命令口調で古代に言った。
「おまえたちは太陽系内でボラーを殲滅することだけを考えろ。後は我々が引き受ける。」
デスラーをキッと睨んで、一体、それはどういうことだ?――と言外に尋ねる古代。
フッと薄く笑うデスラー。
「勘違いをするな。決して地球のためなどではない。あくまでも我々ガルマン・ガミラスのため――だよ。とにかく――我々は一刻も早く『新生ボラー』などという、下品でうるさいハエ共を駆除せねばならぬ。ボラーなど、我々の敵ではないのだがね。古代、さっさと片付けてしまえ。」
「デスラー……。」
相変わらず高慢に見えるデスラーのセリフに苦笑し、肩をすくめる古代。
しかし、ふと、らしからぬほどに表情を和らげて、つけ加えるデスラー。
「何より……私はこれ以上、大切な女性を失いたくはないものでね。……会えて嬉しかったよ、古代。今度また会う時は、おまえの傍らに雪がいることを祈ろう。さらばだ。」
もう一度、真紅の花を小さく掲げて見せると、デスラーの姿が、スクリーンから、スッと消えた。
「ちぇっ!相変わらずキザな野郎だなあ!あいつまた突然、現れて、一方的に話してサッサと消えちまったよ!」
相原が呆れたように言い捨てた。
それを受けて徳川も口を尖らせて言った。
「ホントだな。デスラーのヤツ、結局、今回も艦長と雪さんのことしかアタマにねえよ。」
「おまえら、分かってないな。アイツは見てないようで、しっかりチェック入れてるんだぜ?」
古代が苦笑して言った。
「うへえ。俺は別にヤツと友達じゃなくてもいいけどな。」
徳川は舌を出した。
だが、デスラーの言葉で一番、機嫌を損ねたのは索敵手のケリー・ウォーカーだった。
「そんなこと、どうでもいいわ!華がないって、どこをどう見て言ってんのかしら!!あのガミラス野郎!!」
目を吊り上げ、鼻を膨らませて毒づくケリー。
ケリーの存在を、すっかり忘れていた相原は、蒼褪めた。
ケリーは大柄で骨太で筋肉質、とにかく極めてがっちりとした体躯の女性であり、しかもショートカットだったので、「デスラーが男性と勘違いするのも無理はない」と誰もが心ひそかに思った。
チーフの相原は、頭を掻きながら鼻息の荒いケリーを宥める。
「デ、デスラーは、地球の女性と言ったら、古代の……艦長の奥さんの雪さんのことしか頭に浮かばないんだよ。なんでかって言うと、ヤツはイスカンダルのスターシアさんに実は惚れていて、雪さんは、そのスターシアさんの妹のサーシャさんに似ていて、だからその、つまり、雪さん以外の地球人女性には、まるで興味がないんだよ。」
デスラーのために、必死の言い訳をし、しどろもどろの相原を、ケリーはキッと睨んだ。
「う……。」
額の汗を拭う相原。
「もう、いいです、チーフっ!!」
ケリーは吐き捨てるように言うと、ぷいっ、とソッポを向いてしまった。
ケリーが些か短気で僻みっぽく、その上、かなり根に持つタイプであるのを知っている相原は、げんなり……と白目を剥いた。
顔を背けて、笑っている無責任な桑原と徳川。
顔を見合わせ呆れ返る島と土方。
相原は救いを求めるように古代を振り返ったが、彼は、そんなブリッジの明るいやりとりには目もくれず、難しい顔で腕組みをしており、何やら考え込んでいる。
(古代……。らしいな。)
相原は、そんな古代に苦笑した。
(そうか。それで合点が行く。ボラーは地球だけじゃなく、ガルマン・ガミラスをも相手にしていて、勢力を二分されていたというワケか。恐らく、本星付近ではガルマン・ガミラスとの激しい戦いを繰り広げているのだろう。この戦い、案外、早期にカタがつくかもしれない!!)
古代は顔を上げ、キッ、と前を見据えると、館内マイクを手にした。
「みんなよく聞いてくれ。これからいよいよ最終防衛ラインでの戦いとなる!地球に更なる被害が及ばないうちに、修理が済み次第、直ちに出発だ。アリゾナもすぐに合流できるだろう。分かっているだろうが、戦いはこれで終わったわけではない。本当の戦いはこれからだ!しっかりと気持ちを切り替えろ!わかったな!」
フォンロンに再び緊張が走る。
しばし勝利に酔いしれていた若手クルーの顔に厳しさが再び戻った。
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間もなく――。
フォンロン、ビスマルク以下、各艦とも全力で修復を行い、発進準備が整った。
そして――。
ついにアリゾナが合流。
「コダイ、待たせたな!」
陽気なマックスから通信が入る。
「古代司令殿、また一緒だな!」
モニター越しに、にやり、と笑って額に手をかざす南部と太田。
古代も、にやり、と笑いかけると気心の知れた戦友に、同じように敬礼を返す。
「熱くなりすぎるなよ!」
それから――。
古代は大きく深呼吸をすると、ゆっくりと立ち上がった。
「遊動艦隊全艦に告ぐ!我々は、アリゾナ、ビスマルクと共に、これより最終防衛ラインで戦う本星防衛艦隊と合流する。今でこそ、戦いは我々に優位に傾いているように見えるが、ボラーも必死の抵抗を見せてくるはずだ!これまで以上に激しい戦いになることは間違いないだろう!ボラーにも戦う理由はあるだろう。が、しかし、これを打ち破らなければ地球人類に未来はない。我々は断固として戦う。地球に息づくすべての命のために。そして絶対に生きて地球に帰る。この厳しい戦いに耐え抜いて、我々を待つ人たちの元へ必ず帰るんだ!以上!」
古代の言葉は、まるで自分に言い聞かせでもするようだった。
土方は深く頷くと、真っ直ぐに前を見据え、意気も高く、大きな声を張り上げた。
「フォンロン、地球へ向けて発進っ!」
地球艦隊は、全艦、本星に向けて発進した。
宇宙で――。
そして地上で――。
ボラーとの最終決戦の火蓋が、いよいよ切って落とされようとしていた。