戦士と女神 2
雪は桂木にPA――パーソナルアナライザーを持ってくるように言った。
「何を調べるんです?」
桂木はPAを手渡しながら尋ねた。
「ちょっと思うところあってね。ねえ。敵の部隊は、あくまで陸上部隊なのね?」
雪はPAをカタカタと操作しながら桂木に尋ねた。
「はい。敵は敵でかなり苦しい状態にあると思うんですが。」
「そう。それでここまで圧してくるってことは――。それなりに優秀なリーダーを立てているってことね。」
(粘っこいところは、さすがに傭兵だけのことはあるわ。少なくとも経験不足のこの部隊より格上ってことか。)
雪はPAでの解析結果に満足したように頷くと、桂木を呼んだ。
「まずは敵をこの一帯から引き離すわよ。」
西から瀬田クンの部隊が向かってるなら……。
雪は瀬田が敵を撃破し、早々に合流することに賭けることにした。
「いい?あなたの部隊を3つに分けるわ。副隊長の、ええと――」
「中川です。」
ちょっと揚羽を思わせるような二枚目の、すらりとした長身の青年が答えた。
「中川クン。あなたのチームには、少しずつY方向に進んでもらうわ。とにかくポイントZに追い込まないと。じゃないと民間への被害が更に広がっちゃう。」
「はい。」
「桂木クン。あなたはこのまま、命懸けで応戦しなさい。瀬田君にはX方向から山越えしてもらうから。」
「しかし、海岸線は……?」
「これから海が時化るわ。」
桂木は、ハッとして雲の流れと波の動きをモニターした。
「あ。嵐――を利用するんですか?」
「こちらの安全を確保しつつ利用できるものは何でも利用しなきゃね。中川クン。ポイントYに辿りついたら、そこで二手に分かれて。リーダーには誰を立てる?」
「そしたら、コイツを。前田をリーダーに立てます。」
桂木は、いかつい身体の割には童顔の青年を指差す。
ニッ、と笑ってみせる前田。
「そう。じゃ前田クン、ポイントWには旧防衛軍が使っていた地下基地への出入口があるの。回り込んで、そこに入って。あ、ゲートは閉じちゃってるから吹っ飛ばしちゃってかまわない。恐らくここは敵には知られてないと思うわ。敵の位置を把握しながら、地上に出て。たぶん背後に回れる筈。退路を断って。うまくいけば……でも、あんまり勝ちを意識しすぎもよくないか。いずれにしても、かなり優位に立てる筈よ。後は瀬田クンを待って一気に叩く。」
「挟み撃ち……ですか?」
前田が、おずおずと尋ねる。
「う〜ん。そうね。そんなところだわ。」
雪はちょっと考えて、人差し指で頬をかきながら言った。
「なんか…勝てそうな気がしてきました。でも……雪さん。大丈夫ですか?顔色が――」
心配そうに雪の顔を覗き込む桂木。
「大丈夫じゃないわよ。ちょっと前まで寝てたんだもの。帰ったら鬼の――」
雪は、そこで一旦、言葉を切る。
般若のような神倉涼の顔が過ったのである。
思わず小さな溜息をつく。
「主治医に殺されちゃうかも。」
そう続けて、肩をすくめながら、にこり、と微笑んだ。
ジョークとわかって、一瞬、場が和む。
桂木と中川は顔を上げると、部下達に細かな指示を与える。
「いいか!俺達にはヤマトの女神がついてるんだ。絶対に勝つ!!行くぞ!!」
「おうっ!!」
兵士達の意気が上がる。
桂木にヤマトの女神――などと言われて雪は些か力が抜ける思いがしたが、それでこの若い部隊の結束が固くなるなら――と気を取り直した。
衛生兵の沢野理が、おずおずと雪の元へやってくる。
「あの、森さん。ホントは相当、無理してるんじゃありませんか?俺にもわかりますよ、そのくらいのことは。」
雪は沢野の言葉に肩をすくめてみせた。
「サトシくん。伊達じゃないわね。」
「俺も元は看護士ですから。あなたのことは俺が守ります!」
沢野は、雪を見つめてキッパリと言った。
「ありがとう、サトシくん。じゃあ、守られちゃおうかな。よろしくね。」
「はいっ!頑張っちゃいます、俺!」
ニッ、と微笑んだ顔が、まだあどけない沢野。
なんだか守られるというより守りたくなってしまいそう――と、雪は苦笑した。
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雪の導きで組織的に動き出した桂木達の部隊は、徐々に敵部隊を圧し始めた。
瀬田とも連絡が取れて、戦略通りコトが運びそうである。
『ガガガガガ……桂木か?俺だ!瀬田だ!……ガガガ……なんとかやってるようだな!間もなく合流するぞ!……ガガガ』
「はいっ!!」
X方向から山を越えて瀬田の部隊が合流した。
手練れの瀬田の部隊と桂木の部隊の激しい攻撃に敵部隊は、たまらず後退しようとした。
それを見計らった中川の部隊が側面からの攻撃を加える。
海岸線は時化の海――。
敵部隊の退路は1つしかなくなった。
否応なく追い込まれたが、それでも必死の抵抗を続けた。
そこへ――。
前田の部隊が地下から上がって、残された退路を塞いだ。
統率が乱れ始める敵部隊。
瀬田と桂木の部隊の畳み掛けるような猛攻に成す術もない敵部隊。
すかさず敵に呼び掛ける瀬田。
「我々は、無抵抗の者を手にかけるつもりはない。命を無駄にするな!!生きたければ武器を捨てて投降しろ!!」
敵部隊の動きが止まった。
桂木を苦しめた、この傭兵部隊も様々な星の捕虜からなる所謂、異星人部隊だった。
ボラーのために命を賭ける理由はない。
戦意を失った敵兵が次々と投降を始めた。
「おっしゃあ!!ヤツらの身柄を確保しろ!!あんまり手荒に扱うなよ!」
瀬田は嬉しそうに顔を綻ばせると大声で叫んだ。