戦士と女神 3


思った以上の働きを見せた桂木に、瀬田は大満足だった。

「しかしなあ。おまえらも成長したなァ。あんな戦い方ができるとは俺は正直、思いもしなかったぜ。まさかお前らから合流ポイントを指示されるとも思わなかったしな。合流後も、しばらくは体勢を立て直すのに梃子摺ると思ってたくらいだぜ?」
瀬田は豪快に笑うと桂木の背中をバンバン叩いた。

桂木はむせかえりながら、言い辛そうに口を開く。

「あのう……。実は……。」

「なんだ?」
にこにこしている瀬田。

「この作戦、俺達が立てたものじゃないんです。」
バツが悪そうな桂木。

「はあ?どういうことだ?」
怪訝な面持ちの瀬田。

「実は森さんが――」
口篭り、ハキハキしない桂木。

「森さん?お前の部隊に森なんてヤツいたか?」
顎に手をやりながら考える瀬田。

「いえ、あの。ヤマトの元クルーの……って言えば――」
消え入りそうな声の桂木。

「はん?ヤマトの――って……まさか…雪か?森雪のことか?」
ヤマト――と言われて、ようやく思い当たる瀬田。

しかし。
瀬田は、バチーンと力一杯、桂木の背中を叩いた。

瀬田の馬鹿力に桂木は、つんのめるようによろけて転倒し、涙を浮かべながらゴホゴホとむせ返る。

「おいおい。俺をからかうのはやめろ!!なんで森がこんなところにいるんだ?」
頭を振って瀬田が声を荒げる。

頭から信じていない瀬田に、消え入りそうな声の桂木。

「それが……ゴホッ。いらっしゃるんですよ、ここに。げほげほ。負傷者収容ベースの方で休んでもらってるんです。はあはあ。森さんは不甲斐ない俺達に痺れを切らしたらしくて……。中央病院にいらしたんですが……そのう……怪我を押して駈けつけてくれたんです。」

「何ィ?そいつぁ、ホントなのか!?」
瀬田は大声で叫び、ようやく立ち上がった桂木を突き飛ばすと、さながら猪のように雪がいるというベースに向かって走り出した。

引っくり返ったまま、その背中を見送る、情けないほど無様な桂木。


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「おい!そこに森雪がいるのか?」

「うわ!!瀬田隊長!!どうしたんです、一体――」
ドカドカと、入って来るなり大声で怒鳴る瀬田に、中にいた隊員が驚いて飛び退る。

「そんなに大声出さなくても聞こえるわよ。」

中から、いるはずのない女性の声。

「な!?な!?ホントに森なのか?」
瀬田は、目を丸くすると、ずかずかと中に入っていく。

個室のようにカーテンで仕切られた一角から再び声がした。
「幽霊じゃないわよ。確かに死にかけたけど……。まだ生きてるわ。」

瀬田は勢いよくカーテンを開けた。

簡易ベッドの上に。
森雪がいた。

「森……。ホントに森か?」

確かに。間違いなく森雪である。

にっこりと微笑んで、ひらひらと手を振る雪。

「な……なんで、おまえ。」
あんぐりと口を開いたまま、次の言葉が出てこない瀬田。

雪は蒼白い顔に微笑を浮かべ、枕をクッションにして上体を起こしている。

「これは一体――。どういうことだ?」

わけがわからん――といった面持ちの瀬田に、雪は苦笑した。

「私、中央病院にいたんだけど、攻撃があんまり激しくて、とてもノンビリ寝ていられる状態じゃなかったのよ。で、つい――」

雪の言葉に、いかつい顔をしかめる瀬田。
「つい――っておまえね……。あいつらに指示を出したのも、おまえなんだな。」

「実際、専門外なんだけど。あの子達よりはマシかな――と思って。なんていうか……年の功よ、年の功。」

やれやれ――と肩をすくめる瀬田。
「ふふん。しかし年の功はいいな。お前の戦い方は古代仕込みか?それとも沖田さんの――」

「両方よ。それに瀬田クン達、陸戦隊の人。と……斎藤クンかしら。」
雪は、にこりと微笑む。

「なるほどな。しかし……。さすがだなあ。あの素人に毛が生えただけの『ひよっこ隊』が、いっぱしの戦士に変わっちまうんだからな。まるで女神様だな。」
呆れながら感心している瀬田。

しかし雪は、女神様と言われて、うんざりした顔をした。

「からかわないでよ。誰が面倒見てるのかわからないけど、育て方が悪いのよ、育て方が。まあ、確かに彼らは戦闘経験は少ないし、人手が足りないのも分かるけどね。」

「ああ。それは俺も痛感していたことだ。」
溜め息をつく瀬田。

「それより……なんとか、収まりそうね。」
穏やかな表情で瀬田を見つめる雪。

「ああ。そんなことより、大丈夫なのか?」
照れて視線を外しながらも、その身体を気遣う瀬田。

「見ればわかるでしょ?あんまり大丈夫じゃないわ。」
悪戯っぽく微笑む雪。

「なんだ、おまえ……。クチが悪くなったなあ。」

呆れる瀬田に、雪は澄ました顔で言う。
「主治医のせいよ。」

「はん?ソイツはあの、金髪美人か?俺も、もう一度、彼女に診てもらいたいもんだな。」

雪は、ぷっ、と吹き出して、傷の痛みに思わず顔をしかめた。
瀬田が金髪美人に弱いのを知っていたので可笑しかったのだ。
実際、彼の妻も(今となっては少々太めだが)金髪碧眼の元美人女優である。

「ど、どうでもいいが、後始末が済んだらおまえを病院へ送り返すぞ。いいな?」
自分の心配を冗談で軽く流そうとする雪に、瀬田は少し厳しい口調で言う。

「お手柔らかにね。」
負けていない雪。

「冗談じゃすまないんだぜ、森。」
瀬田は苦笑して雪を見つめ、傍らのパイプ椅子に、どかっと腰を下ろした。
ギシッと軋んで、壊れそうな椅子。

瀬田は、真顔になって諭すような口調で話し始めた。

「正直言うとな、俺、出会った時からずっと、おまえのことを妹みたいに思ってきたんだ。俺の妹、ガミラスの遊星爆弾で死んだって言ったろ?男勝りのお転婆なヤツでな。長官からおまえのことを任された時、何だか妹が帰って来てくれたんじゃないかって……そんな風に思えちまったんだ……。まあ、俺の妹だからな、おまえみたいに美人じゃないし、似ても似つかないけどよ。」

「瀬田クン……。」
言葉に詰まる雪。

「だから……頼むから自分を大事にしてくれ。それに……チビどものことも考えてやれ。おまえは母親なんだからな。」
瀬田の、母親なんだから――という言葉に、ハッとし、雪は思わずうつむいた。

「まあ、何よりおまえに何かあったら古代のヤツに殺されちまうからなあ。」
にやり、と笑う瀬田。

「瀬田クン……。ごめんなさい……。」
涙ぐみながら瀬田を見つめ、小さく頭を下げる雪。

そんな雪の様子に困って頭をかく瀬田。
「いや……。なんていうか……。俺も、もう誰も失いたくないってことさ。さて、と。戻るかな。ひよっこ共に任しちゃおけねえからな。じゃ、ゆっくり休めよ、森。」

「ウン。あ、瀬田クン!!」

「あん?」

「ありがとう。」

「おう。」
微笑んで見送る雪に瀬田は、ビッ、親指を立てて片目を瞑ってみせた。



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