戦士と女神 6


「ちょっと車止めてくれる?」
後部シートで横になっていた雪が桂木に声を掛けた。

「え?なんです?」

「桂木クン。沢野クン。ここで降ろして。」

「何言ってんスか?そんなことできるワケないじゃないですか。」
助手席の沢野が振り返って声を上げる。

「いいから止めて!」
雪は起き上がって、桂木の肩をぎゅっと掴んだ。

「う、うわっ!な、何すんですか、森さんっ!」
驚いてジープを急停車させる桂木。

「送ってくれるのは、ここまででいいわ。」
言いながら早速ジープに積んであった小型ホバー・バイクを下ろしている雪。

慌てふためく桂木と沢野。
「ちょっと、ちょっと!何してるんですか、森さん!」

二人を尻目に、さっさと始動して、雪は試し乗りを始める。

「大丈夫そうね。これなら行けるわ。このホバー・バイク、置いてってくれる?病院まではそう遠くはないし、これならなんとか戻れそうだから。」

「も……森さん……。あんたってヒトは――」

呆気に取られている桂木に、沢野が慌てて声をかける。

「しっかりして下さいよ、桂木さん。森さんも無茶はやめて下さい!今だってだいぶ我慢してるんじゃないですか?見たらわかりますよ!きっちり送ります。それが僕等の任務ですから!何が何でも僕等はあなたを――」

はっ、と雪が顔を上げる。
「二人とも降りて!逃げて、早くっ!」

雪の声にジープから飛び降り、転がる二人。

「うわあっ!」

銃弾を数発食らい、ジープが炎上、爆発した。

「くそうっ!来やがったか!沢野、俺が前に出る。おまえは森さんを守れ!」
歯軋りをする桂木。

「はいっ!あっ、森さんっ!なんで銃を構えてるかなあっ!無茶ですよ、応戦なんて!」
雪を振り返った沢野は思わず声を上げる。

「こう見えてもね。射撃の腕前には自信あるのよ。古代クン仕込みだしね。」
にこり、と笑う雪。

「森さんの腕前は、充分わかってますよ!でもあの時と今とでは――」

桂木の言葉を遮って、雪はもう発砲していた。
敵兵のひとりが崩れるのが見える。

「すげえ!」
目を丸くし思わず声をあげる沢野。

雪は敵に注意を払いながら二人を諭すように言った。

「ねえ、桂木クン、沢野クン。私はここで死んだふりするから、あなた達は戻りなさい。戻って瀬田クンを助けてあげて。」

「だめだ!俺はあなたのことを隊長から頼まれたんだ。そんなことできない。」
「そうですよ!」
頭を大きく振る二人。

「いいから!ただでさえ人手が不足してるのよ。行って!」

「できない!できません!」
尚も食い下がる二人。

雪は、じっと二人を見つめた。

「私を助けてくれるなら……そうね、じゃあこうしましょう。二人してここから敵を引き離してくれる?その間に私を逃がしてくれればいいわ。その方がむしろ助かる見込みは高いんだけど。どう?」

「はあ、でも。」
「しかし……。」

「迷ってる暇はないわ!行くわよ!」

二人は渋々、頷いた。


桂木は敵を引きつけるように、あえて発砲し、走って雪から離れた。
援護しつつ、後を追う沢野。

しかし――。
敵を引き離したのは、むしろ雪の方だった。

雪は、ホバー・バイクをフルスロットルで走らせると、二人から、あっという間に離れていく。
桂木らを追い始めた敵のトラックが、慌てて方向転換する。

「ああっ!森さあーーんっ!くっそう!沢野。俺達、森さんにまんまとハメられたぞ……。」
「そんな!」

「くっ……!俺は……俺はなんてバカなんだ!」
桂木は唇を噛みしめる。

「僕も……ですよ。」
沢野も、悔しそうに拳を握り締めた。


*******************


追ってくる敵兵は、トラックに乗った3人。
窓から身を乗り出し、撃ってくる。

自分とトラックとの距離は、まだある。
だが。
さすがの雪も、たったひとりでは応戦するのは無理である。

(大丈夫。薬のおかげで痛みは殆どない。でも……そのせいで手が震えちゃってるし、確実に相手を捉えるのは難しい……。)

雪は銃撃をなんとか交わしながら、フッとスピードを落とすと、あえてトラックと並んだ。
予想外の動きに、一瞬、怯む敵兵。
雪が手にしているのは小型の手榴弾。
ピンを抜くと、トラック目掛けてポイッと放り投げた。

眩い閃光。
そして激しい爆発。

思った以上に大きな爆風。
すぐに離れたつもりだったが、小型のバイクはたまらず飛ばされた。
放り出される雪。

しかし、運良く植え込みに抱きとられて、ほとんど無傷だった。
(兼良君の時とおんなじだわ。)
苦笑しつつ、雪は起き上がろうとした。
「うっ……。」
傷口がズキリ、と痛み、その場に蹲る。

やはり傷ついている身体にダメージは大きい。
もう、限界かも知れない。
痛みが次第に激しくなってくる。
次に襲撃されたらひとたまりもないだろう。

しかしそれでも気力で起き上がる。
そして、傍らに転がるバイクを起こしてみる。

バイクは――。
やはり動かなかった。

「ダメ……か。これまでかな。もう動けそうにないし。」
苦痛に肩で息をしながら、雪は呟く。

ふと、瀬田の言葉を思い出す
――おまえは母親なんだから。
――何があっても、つまらん覚悟だけはすんなよ。

(そうね、瀬田クン。あきらめるにはまだ早いわよね。)
雪は顔を上げて辺りを見回した。

はっ、となる。

夢中で気がつかなかったが、あれは。
あのモニュメントは……。

雪は嬉しそうに小さく微笑んだ。
自然と足が前に進む。

確かに……まだ終われないわ。
行こう。
とにかくあそこまで。

そうだ。
行かなくちゃ、あそこに。

雪は、足を引きずるように歩き出した。
懐かしい仲間達のいる、あの場所へ。



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