SOS!火星に向かってワープせよ
メインブリッジ――。
「アジアにも被害が出てるってことは日本も……ですよね?」
島は、そこまで言って、ハッとなって口を噤む。
古代の顔つきが厳しいものに変わっていたからである。
「わからん……。軍が早急な対応策をとっていてくれていることを願うしかない。」
「艦長……古代――」
古代の蒼褪めた顔に相原は言葉を詰まらせる。
きっと自分も古代と同じ顔をしているだろう――と、相原は思った。
古代も相原も妻子を地球に残しているのだ。今すぐにでも飛んで帰りたい気持ちでいっぱいだった。
だが――。
ドアが開いて吉岡が戻ってきた。
島が振り返る。
緊迫した空気を感じ取り、怪訝な面持ちで、そっと島に歩み寄る吉岡。
「なんだか様子が変だけど……何か……あったの?」
「地球が……攻撃された。一部では地上戦も始まってる。さっき、長官から連絡が入ったんだ。」
呻くように答える島。
「そんな!?」
「詳しいことはまだ――。たぶん、このまま急いで地球に戻ることになるだろう。」
「なんてことなの!」
吉岡は蒼褪めて口元を両手で覆った。
「くそうっ。こんなカンタンにいくわけがないとわかっていたんだ――。地球艦隊を分散させて、本星を直接攻撃してくれるとはな!!」
冷静にならなければ――と思いつつも、古代の胸に不安と苛立ちは募るばかりだった。
(雪なら、雪ならきっと子供達を――でも……無差別に爆撃を受けていたら雪だって、ひとたまりもないじゃないか!!くそうっ!!)
「相原。総員、早急に各部所に配置させろ。それから桑原。フォンロンと遊動艦隊の修理状況はどうなっている?」
苛々した口調で古代が尋ねると、桑原も、いつになく神妙な面持ちで答えた。
「フォンロンにおいては、ほぼ終了しています。各部所、最終チェック待ちです。遊動艦隊の方ですが、80パーセントといったところです。この程度なら各艦とも、もう地球へ向かえます。艦長!我々も急いで――」
「いや……。万全な状態で地球に向かう!地球と地球艦隊が窮地に立たされている。ピッチを上げて早急に修理を終わらせるよう各艦に伝えろ!」
「はいっ!」
歯軋りをしながら、ブリッジ内を落ち着きなく歩き回る古代。
そして肘をついて両手を組み、祈るように目を閉じている相原。
島も吉岡も、こんな二人を見るのは初めてだった。
(古代艦長。相原さん……。)
***************
「何があったんですか!」
緊急召集に、全速力で駆け戻った土方は大声で叫んだ。
「あ。」
メインブリッジには自分以外のクルーが既に配置についていた。
(またやっちゃったよ、俺。)
うなだれる土方。
「地球が攻撃を受けたわ!」
挫けている土方に向かって振り向き様に吉岡が答える。
「なんだって!」
土方は、サッと顔色を変えて叫んだ。
「土方。地球への直接攻撃が始まった。地上でも戦闘が始まっている。最終防衛ラインが破られたんだ。現在、本星の艦隊が苦戦している。何ぼんやり突っ立ってるんだ。我々、遊動艦隊は早急に発進準備にかかるぞ。」
「はっ、はいっ。」
「艦長!!地球からです。地球艦隊、なんとか踏ん張ってくれてるようですね。どうやら真田さんがうまくやってくれているらしい。しかし地上戦が激化したとも伝えてきてます。民間人は地下に避難した模様。軍の対応、早かったようですね。でも、やはり――死傷者は大勢出ているらしい。被害状況の詳細は、まだ不明です。」
「そう……か。」
苦しげな相原の報告に古代も目を伏せる。
相原が、再び古代を振り返る。
「なんだ、どうした!?」
「第11番惑星空域のアリゾナから通信が入ってます。」
「わかった。切り替えてくれ。」
パネルに現れたのは、マックス・シュライバー司令だった。シュライバーは古代と同い年であったが、いささか童顔で人懐こい性格なので、ずいぶんと年下に見える。そのため、口髭を生やしていたのだが、あまり似合ってはいないようだった。
「コダイ。聞いたか?」
シュライバーは渋い顔で言った。
「ああ。」
古代の顔色を見て、シュライバーは、その胸中を察した。
「最終防衛ラインで、激しい戦闘になっているようだな。地上戦も始まったそうだが……。」
「ああ。こっちも一段落ついたのでね。これから修理が済み次第、地球に向かうところだ。」
「そうか。キミ達も、なんとか頑張ってるようだな。かなりの被害は出してしまったが、こちらの敵は何とか撃破した。キミの親友のナンブがよくやってくれてね。呆れるくらい熱いジャパニーズだ。」
ヤマトでは古代の右腕だった南部康雄は、アリゾナの副長として活躍していた。
古代は友の名を聞くと口元を、わずかにほころばせる。
「そうだろう?南部は戦艦における戦闘では超一流だからな。しかし、いささか血の気の多いのが玉にキズだ。ヤツが艦長に向いてないのは、そこらへんにあるんだ。キレると見境がないからな。」
「そうなのか?ナンブのヤツ、後ろで苦笑いしてるよ。しかし大した度胸の男でね。アレをヤマト魂って言うんだろ?」
「う〜ん、それは――」
口篭る古代にシュライバーはニヤリとして南部を振り返る。
「おい、ナンブ。コダイは言葉に詰まってるぜ?」
シュライバーの言葉に苦笑しながら古代は言った。
「いや。南部は大したヤツさ。しかし昨今は、ヤマト魂っていう言葉の、そもそもの意味が違ってきてるように思えてね。」
「ニホンゴは難しいからな。」
シュライバーは肩をすくめた。
「こっちが片付いたら、ビスマルクとも合流してミッションコード:バミューダといこうじゃないか!」
シュライバーの言葉は力強く希望に満ちていた。
「了解。しかし、さすがだな、シュライバー司令。」
「いやいや。『ヤマトのコダイ』の域にはまだまださ。これからはマックスでいいぜ、コダイ。」
「ふっ、お世辞のウマいアメリカンだ。これからはファーストネームで呼ばせてもらうよ。それより……さっきの連絡じゃあ、民間人はなんとか地下に避難したようだな。」
「そのようだな。地球じゃあキミの恋女房も頑張ってるんだろ?」
「ああ。もし無事なら……きっと被災者の救出に向かっただろうな。アイツもじっとしてるような女じゃないから。」
「ハハハハ。ヤマトナデシコか?」
「それも……意味が違うな。」
古代は苦笑した。
「ま、なんでもいいさ。いい女には違いねえ。実は、艦の損傷が大きくてな。修理に手間取ってるんだ。我々は、まず、なんとかビスマルクと合流したいと思っている。ビスマルクも戦況有利なようだが、それなりに厳しいらしいからな。もうすぐだ!それまで踏ん張ってくれよ、コダイ!」
それまで軽口を叩いていたシュライバーは、ふと真顔に戻ると、古代の目をじっと見つめた。
「早いトコ、片付けて帰ろうぜ!俺も女房と子供の顔が見たいからな。」
実は彼も、軽妙な言葉の裏に不安を押し込めていたのだ。
普段のシュライバーは底抜けに陽気な男だったが、その笑顔はぎこちないものだった。
(ヤツも苦しいんだな……。)
古代の瞳が暗く翳った。
「早く来てくれよ、マックス!」
古代は、相変わらず、あまり似合っていない制帽を人差指でクイッ、と持ち上げると笑顔を見せた。
「また会おうぜ、相棒!」
シュライバーは古代の思いに応える様にニヤリ――と笑うと親指を立てた。
通信が終わると、古代は大きな溜め息をついた。
冥王星空域で敵を撃破しはしたが、やはり多くの犠牲者を出してしまったこと。
そして――。
地球でも、ついに地上戦が始まったこと。
何よりも――地球に残してきた愛するもの達の安否。
激戦の続くアジアの一部地域――その中に日本も含まれている。
恋女房の雪と離れての長い戦闘は、暗黒星団帝国との時以来だった。
もう、あの時のような思いはしたくなかったのに。
無事であるとするならば――。
恐らく雪は、仲間達と共に医療スタッフとして、被災地の救護に派遣されただろう。
そして愛しい子供らは義父母達と共に避難しているはずである。
疼く心の傷、拭いきれない不安と焦燥、さすがの古代も、押し潰されてしまいそうだった。
(何が『ヤマトの古代』だよ。)
古代は自嘲気味に目を閉じる。
(オレだって地球に帰れば二人の子持ちの、普通のオヤジなんだ。)
古代は、掌で顔を覆う。
(何が『鬼の古代司令』だよ。オレだって……ホントは恐いんだぜ。)
『早いトコ、片付けて帰ろうぜ!俺も女房と子供の顔が見たいからな。』
マックスの作り笑顔と言葉が脳裏を過る。
と――。
相原が近寄って古代の肩に、そっと手をかけた。
「艦長……俺も同じ気持ちですよ。雪さんも航クンも澪ちゃんも、きっと無事で避難していますよ。むろん、俺の家族もね。信じましょう。今は信じて戦うしかないじゃありませんか。」
古代は顔を上げて相原を見つめた。
「すまん、相原。おまえだって辛いのにな。俺は……情けないな。」
「いえ。守りたいものが多くなればなるほど、恐くなってくもんです。ホントは俺もどうにかなっちまいそうなんですよ、あの時みたいにね。とにかく、歯を食いしばっていきましょう、古代艦長。信じて頑張る――今の俺達には、それしかないんです。」
「そう……そうだな。」
じっと耐えるような相原の背中を、古代はぼんやり見送っていたが、ハッとなって頭を大きく振った。
(しっかりしろ、古代進!雪も子供達も地球で頑張ってるんじゃないか!)
古代は艦長席の写真を見つめ、笑顔の雪と子供達に誓った。
(きっと…帰るからな。待っててくれよ。)
相原が古代を気遣って、もう一度、振り返る。
応える様に力強く頷いて見せる古代。
(すまん、相原。もう、大丈夫だ。)
「艦長。遊動艦隊、全艦修理完了、発進準備整いました。いつでも出られます!」
桑原が告げる。
「そうか、よし。土方、発進準備だ。」
「はい。」
と、その時、相原が叫んだ。
「かっ、艦長!アンドロメダよりSOSです!」
「何だって!?詳細は?」
古代は身を乗り出した。
「はい。敵の奇襲を受け、火星艦隊にかなりの被害が出ている模様。このままだと全滅です!!」
「くそうっ!」
(これから地球へ向かおうって矢先に――)
古代は唇を噛み締め、拳をギュッと握り締めた。
土方がシンジラレナイ――といった面持ちで呟いた。
「いくらアンドロメダが旧型だからって、どうして――」
「敵さんが一枚上手だったってことだろ!」
苦々しい表情で島が口を挟む。
古代はキッと顔を上げた。
「相原。地球の様子、詳しくわかるか?」
「はい。ちょっと待って下さい。――どうも一進一退のようですね。まだなんとも言えない状態だと思いますが。」
「そうか。マックスに連絡を入れろ。我々はアンドロメダより救援を要請された。とにかく、そちらは早急に地球に向かってくれ――と。」
「了解。」
「全艦に告ぐ。目標、地球から火星へ。我々はこれからワープを行い、火星艦隊の援護及び救出を行う。」
「総員直ちにワープ準備。」
気持ちを引き締める土方。
「ワープ準備完了!」
「波動エンジン異常なし!」
「ワープ・オート航行、セット・オン!」
「ワープ、1分前、各自待機。」
「30秒前!」
「10秒前9、8、7、6、5、4、3、2、1」
「ワープ!」
「ワープ!」
空間が揺らめき、フォンロン、そして遊動艦隊の姿が、ふっと消えた。