ヤマトの遺児


古代進は、宇宙戦艦ヤマトの初航海以来の仲間と久しぶりに馴染みの居酒屋で飲んでいた。
面子は相原義一、南部康雄、太田健二郎、そして真田志郎。

古代は輸送艦隊の護衛艦艦長の職を経た後、太陽系外周艦隊第三艦隊旗艦艦長の任に長く就いていた。
仕事内容は専ら辺境警備であり、亡き親友・島大介の弟、次郎を始めとする若手の育成も兼ねていた。
いささか退屈な日々だったが、それも平和である証拠であったし、妻子持ちの身には、ほぼ予定通りに帰艦できるのは何より有り難いことでもあった。

「それにしても久しぶりだな。」
真田は嬉しそうに一同を見回した。
真田志郎は、宇宙空間開発局長に再任した。若い技術者を育てながら、相変わらず特殊機器の研究・開発に明け暮れる多忙な毎日を過ごしていた。

「真田さんも、ここ数ヶ月、こもりっぱなしだったですからね。」
相原が労うように酒を注いだ。真田は、くいっとそれを飲み干すと、相原の盃にも酒を注ぎながら言った。

「ああ。ほんのさっきまで新造戦艦の風龍(フォンロン)のメンテナンスをしててな。もうじきデビューだよ。」

すると南部が興味深げに目を輝かせた。
「オヤジから聞きましたが、いい艦だそうですね。ヤマトの再来って噂もありますけど。」

「いや。性能的にはヤマトの比じゃない。すごい艦だぞ。だが、オレ好みに作ったんで、乗ってみたらわかると思うが、そこはかとなくヤマト仕様だ。」

真田の言葉に一同、口を揃えて言う。
「へええ。そりゃ是非、乗ってみたい。」

「ホントに、こうしてみんなが揃うのも珍しいな。雪が来ないのが残念だ。」
真田は古代を見て言った。

「ええ。忙しいらしくて。澪もまだ小さいし。義母に預けてばかりでもね。でも口実だと思いますよ。久しぶりに男同士でゆっくりして来いってことだと思います。あいつなりに気をきかせたんでしょう。」

古代が言うと太田が手羽先にかぶりつきながら残念そうに呟く。
「らしいなあ。でも野郎ばっかじゃなあ。ムサ苦しくってなんねえ。華が欲しかったよ。」

「初航海じゃあ、雪はアイドルだったからなあ。すっかり古代のモンになっちまって――」
南部もしみじみと呟いた。

森雪は、地球防衛軍司令部の長官付秘書を辞め、友人である医師の神倉涼の協力を得て、医師の資格を取得した。
その後、数年の間、古巣の中央病院に外科レジデントとして勤務していたが、やはり患者本位でない研究重視の体質には馴染めずにいた。
しかし、涼の勧めもあって、彼女自身も所属している宇宙医療救援団体下の多国籍医師団のスタッフとなった。そして今や涼と共に組織内の中心的な存在となり多忙を極めているのである。

「遠慮しないで雪も来ればよかったのに。まあ、俺は時々、会ってるからいいけどさ。」
相原が、肉じゃがを箸でつつきながらニコニコして言った。

相原義一は、通信班リーダーとして古代の艦に乗艦していた。
地球防衛軍司令長官、藤堂平九郎の孫、晶子と結婚し、彼女との間に1児をもうけていた。
妻の晶子と雪も仲がよく、古代夫婦と相原夫婦は家族ぐるみの付き合いだった。

「俺は相変わらず侘しい独り身だよ。な、太田。」
南部が太田の背中をパンパンと叩く。

「南部。オマエはより好みしずぎなんだよ。」
太田が皮肉っぽく言うので、南部は太田の脇腹を、むぎゅっと掴んで、イヤミのように切り返した。
「うるせえ。そう言うオマエは食うことばっか考えすぎなんだよ。」

「ちぇっ、すぐそれだ。」
言いながらも太田は、揚げだし豆腐をペロリと平らげた。

南部康雄は、古代同様、太陽系外周艦隊に身を置き、航海班レーダー科ベテランチーフである太田と共に第五艦隊旗艦艦長として働いていた。

そんな彼らの様子を微笑みながら眺めていた真田が、しみじみと目を細めて言った。
「まったく、おまえらは変わらんなあ。」
「そういう真田さんだって変わらないですよ。」
真田の言葉に古代と相原は口を揃えて言う。
「いや。ちょっと老けたんじゃないスか。」
太田がニヤニヤしながら言った。
「え?そうか。俺はまだまだイケてると思うがな。」
真田は顎を撫でながら太田を睨んだ。
しかし、澄ました顔で太田は付け加える。
「ダメっスよ。たまには仕事に――じゃなくて、女にのめり込んでみたらどうです?」
真田は憮然として言った。
「太田……。悪いがオマエに言われたくないぞ。」
薮蛇の太田に、一同がドッと湧く。

「このままずっと平和でいてくれるといいな。」
真田は、酒をぐいっと飲み干した。すかさず太田が勺をする。
「さささ。どんどんいきましょう。あ、オネエさあん、焼き鳥もう一皿追加ね!」

幾多の戦いを乗り越えたヤマトの遺児達は、地球の穏やかな繁栄の中で、それぞれが幸福な日々を送っていた。


しかし――。

ここ数ヶ月、攻撃こそして来ないが、地球領域付近に偵察艇と思しき不審な小型艇が、出現することがしばしばあった。
地球防衛軍内部は一応の警戒体勢を敷き、古代ら歴戦の戦士達もまた、本能的に、きな臭さを感じ取っていた――。


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