交戦 〜 雪の戦い・前編 〜



障害物を避け、舞い上がる土埃をくぐって、雪はできるだけスピードを上げて走り続ける。
上下左右に激しく揺れる車にシャーロットは舌を噛みそうだった。
「しっかり捕まっててね。」
今の雪には彼女を励ましている余裕はなかった。


とにかく走った。
二人を救うために、ただ、ひたすら走った。


そして――。
どれくらい走っただろうか。
必死で逃げたからなのか、始めからそのつもりはなかったのか、追っ手は現れなかった。

(もう大丈夫なのかしら?)
それでも不安な雪は、廃墟の町に死角を探した。
一刻も早く兼良の手当てをしなければならない。
人並み外れてタフな、元・陸戦隊の兼良だったか、長引けば命に関わる。

雪は適当な場所に車を隠すように止めた。


人手不足の軍が、小人数の敵に助っ人を出すとは思えなかったが、取りあえず陸軍に敵と接触した位置と自分達が危機にあることを知らせておく。
続いて医療センターにも兼良の負傷を知らせる。

そうして、ようやく車の中で蹲っているシャーロットに声をかけた。

「大丈夫?シャーロット。」
シャーロットは蒼褪めていたものの。しっかりとした声で「はい。」と気丈に返事をした。
「良かった。」
雪は、にっこりと微笑むと、彼女を助手席に移動させた。
「いつ襲ってくるかわからないから、なるべく頭、ひっこめててね。」

雪は大きく深呼吸をすると、医療器具と医薬品のセットを引っ張り出し、兼良を後部座席に横たえたまま、早速、手当てにかかる。
辺りの様子に気を配りながらの応急処置。
(思ったより出血が少ない。良かった。これならなんとか大丈夫かも。)
兼良の体力はケタ外れだったが、それでも決して軽くはない傷と出血。
自分がやったのは、あくまでも応急手当である。
早く病院に連れていかなくては。


雪は一通りの処置を済ませると、目を閉じ頭を垂れ、大きく息をついた。
(はあ……。疲れちゃったな。)
緊張の連続だった。
さすがの雪も、かなり消耗していた。

「あの……。おじさん、大丈夫ですか?」
シャーロットが、おずおずと尋ねる。
「そうね。このまま病院へ行ければ問題はないんだけどね。」
「そうですか。良かった……。ところで、あの――」
このヒトをなんと呼ぶべきか――と口篭るシャーロット。
気づいて雪は、ああ、そうか――と思った。

「いきなり、こんなことになっちゃったから自己紹介もまだだったわね。私は雪。それから、こっちのおじさんは……ってこのヒト、オジサンっていうと怒るんだけど。彼は兼良さん。」
雪はシャーロットの心をほぐすように、ちょっとおどけて答えてみせた。
安心したように小さく微笑むシャーロット。

「雪さん……は……軍の人なんですか?」
「元、ね。今は医者よ。」
「お医者さん!?」
シャーロットは目を丸くした。
「意外だった?」
雪は肩をすくめつつ、にこり、と笑った。
「いえ。そっちの方が納得がいきます。とてもそんなことできるヒトには見えないのに銃を撃ったり、荒っぽい運転したりするから……軍の人かと思った。」
「ふふふ。その昔、訓練したことがあるのよ。こう見えてね、私、宇宙戦艦に乗ってたのよ。」
「宇宙戦艦……って、もしかして……あのヤマトに乗ってた人じゃあ……。」
「ふふふ。」
雪は返事の代わりに曖昧な笑みを残して、後片付けを始めた。
ぽかん――としているシャーロット。

「さ。行くわよ。早くここを出て、あなたをおじい様のところへ送らなきゃだものね。」

雪の言葉にシャーロットは、ハッ、となった。
(そうだ。私のこと、おじいちゃんが待っててくれてるんだ!)
顔を綻ばせるシャーロット。


再び車は走り出す。


しかし――。
15、6キロ走ったあたりで、雪の表情が険しくなった。
「シャーロット。頭下げて。来たわ!」

かなり遠いが土煙が見える……。
追っ手だ。

(兼良クンを手当てしてる間に追いつかれちゃったのか……。参ったわね。)
雪は祈るように天を見上げた。

自分のテクニックでは敵の攻撃は避けられないかも知れない。
第一、 ハンドルを握る身で、銃は撃てないし――。
泣き言なんか言ってられないのはわかるけど、でも――。
――意識を失っている兼良を恨めしく思った。

雪はアクセルをいっぱいに踏み込んだ。
激しくGがかかる。
(どこまで逃げきれるかわからないけど――とにかく走るしかない、か。)


ピシッ、チュン!

敵は、やはり攻撃してきた。
距離は、まだあるが、このままでは追いつかれるだろう。

タタタタタタン!!!
チュンチュンッ。
ビッ!

銃弾が車のボディをかすめる。
顔をしかめる雪。

どうやら追ってきているのは、小型トラック1台のみのようだ。
しかし、何人乗っているかは、まだわからない。
ドライバーと狙撃者、最低2人――。

それでも――。
ひとりも同然の雪には応戦する術がない。
銃弾はハンドルをさばいて交わすしか――。

タタタタタンッ!
バシュッ!

土煙が上がる。

「くっ!!」

激しく車体を振りながら交わす。

後部座席の兼良とシャーロットを庇いながらの運転では心許ない。
車間距離は、少しずつ縮まる。

(ダメ…かも知れない……。)
さしも往生際の悪い雪も弱気になった。

ギュンッ!!
パキャッ!!

車のフロントが割れた。
思わず顔をそむける雪。

そのために――。
車が大きく横に流される。
ビルに接触しかかって、車のスピードは急速にダウンした。

敵のトラックが迫る――。


進と子供達の笑顔が脳裏をかすめた。
雪は、もうダメだ――と思った。



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