交戦 〜 雪の戦い・後編 〜



「森ッ!どけッ!俺が運転するッ!!」

絶望的な雪の背中で、兼良の太い声がした。
兼良は後部から這い出し、運転席に滑り込む。

「兼良クン!あなた――」
「くっちゃべってるヒマはねえ。俺ならなんとかいける。すまなかったな。おまえは後ろに行って応戦しろ!今の俺じゃ多分、当らないからな。いいか、何も考えるなよ。確実に仕留めろ。じゃなきゃ俺達はやられる。そう思え。頼んだぞ!」
「わかったわ!」

雪は素早く後部座席に移ると、射程距離が長いレーザーライフルを手にした。

「シャーロット!舌、噛むなよ!!」
エンジン全開で走り出す兼良!

雪はライフルを構えた。

スコープに敵兵を捉える。
しかし、激しい揺れに、なかなかターゲットを絞れない。

「おまえなら大丈夫!一瞬が勝負だ!」
後押しするように叫ぶ兼良。

敵のトラックがバウンドして、助手席の兵士の体が少し浮いた。

今だ――。

バシュッ!
ギュン!!

敵兵が仰け反った。
ヒット!!

続けて運転席の兵士を撃つ!
しかし――。
車が跳ね上がって、わずかに逸れた。

後部の荷台から新手が来る。

ギュンッ!

撃ってきた。
薬箱のひとつが粉々になる。

(落ち着かなきゃ。落ち着かなきゃ。……力を貸して、古代クン!!)

再びスコープに敵を捉えるとトリガーを引く。
トラックのフロントが砕け散って、車体が大きく揺れ、助手席の兵士が振り落とされた。

続けて運転席を狙う。
歯を食いしばる雪。

(お願いっ!!)
祈るようにトリガーを引く。

バシュッ!
命中!!

ギャギャギャギャッ。

ドライバーを失って、トラックは迷走した。
そして、そのまま、失速することなく半壊したビルに直撃する!!


激しい衝撃音。
そして――爆発!!
トラックは炎と煙に包まれた。


雪は、ほっとして兼良を振り返った。

「えっ??」

兼良は、ハンドルに突っ伏して失神している!?
そしてジープは――。
敵のトラック同様、ビルに向かって疾走している。

「う、ウソでしょ?兼良クンっ!起きてっ!!」
雪は絶叫した。

ジープは瓦礫を踏んづけて、大きくバウンドした。
同時に雪は前の座席に飛び込むと、シャーロットを抱えて車から身を投げた。

激しい衝撃。

雪は、薄れゆく意識の中で、ジープが壁に激突する直前で横転するのを見た。
(か、ねよし……クン……。)


***********


どれくらい経っただろうか――。

鼻先に何かが、くすぐったく触れた。
雪は、ゆっくりと目を開ける。
ぼんやりと視界が開けた。

雪の鼻をくすぐっていたのは人間の髪だった。
自分のものではない、亜麻色のやわらかな髪……。

(あ……シャーロット!!)
雪は、完全に覚醒した。
シャーロットは、雪に抱きかかえられたまま意識を失っていた。

(うっ……。)
思わず起き上がろうとした雪は、全身の激痛に顔をしかめた。
車中から飛び出した時に、地面に身体を激しく打ちつけ、転がった時にできた打撲傷である。

少しずつ、身体を動かしてみる。
あちこち痛むが、咄嗟に受身をとったためか、どうやら骨折は免れたようだ。

ゆっくりと少しずつ身体に力を入れて起き上がってみる。
なんとかいけそうだ。

雪はシャーロットを横たえると、早速、身体をチェックする。

大きな怪我はないようだった。
しかし、自分同様、多少の打撲は免れないだろう。

そして――。
次は兼良の安否。

雪は、よろよろと立ち上がると、辺りを見回した。

敵兵の乗っていたトラックは、もうもうと黒煙を上げて燃えていた。
付近に先ほど車中から放り出された兵士が倒れている。
既に絶命しているらしい。

一方。
自分らが乗っていたジープは、壁への激突は免れたようだった。
車輪を空に向け、情けなく引っくり返っている。

中にいた兼良クンは?
まさか――下敷きに?

雪は痛む身体を引きずるように近づいた。

と――。
視角になっていたビルの玄関の植え込みに抱きかかえられるように、兼良は放り出されていた。
(良かった……。)
雪は、強運の兼良に、ほっと胸を撫で下ろした。

そして――。
雪は植え込みから、兼良の巨体をやっとの思いでおろすと、なんとか無事に残っていた救急セットを傍らに運んだ。

(大丈夫。生きてる。しっかりね、兼良クン。)
満身創痍の兼良の手当てをしながら、雪は進のことを思った。

(古代クン……。今頃、どうしているかしら。あなたもきっと、激しい戦闘の真っ只中にいるのかも知れないわね。)

と――。
雪は人の気配がしたような気がして、顔を上げた。

まさか――。
さっきのトラックの生き残り?
だとしたら迂闊だったかも知れない。

雪は唇を噛み締めて、気配の主を探った。

(いた!)
やや離れた小さな瓦礫の山から、廃墟のビルへ身を潜めようとする人影。

雪は気配を殺すように、静かに動いて敵兵を追った。


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