バレンタイン・嘆キッス?
<其の弐>
「言い過ぎよ、涼ちゃん。」
「!」
背中で女の声がして、涼はへっ?――と振り返った。
(こ、この声は!!)
ご推察の通り、声の主は森雪である。
涼は、負けじ――と、応戦の構えである。
大体、メイワクを被っているのはこちらなのだ!
しかし――。
雪の語気は、かなり荒い!
「ひどいわ。確かに彼は気がきかないし、ヤボで、女のコの気持ちなんか、ぜ〜んぜんわかんない朴念仁かもしれないけど――」
「おいおい……。黙って聞いてりゃ、キミも言い過ぎじゃ――。それで庇っているのか、俺を――」
どさくさに紛れて何を言うかと思えば、雪のあんまりな言い草に、古代はちょっと抗議してみた。
「あなたは黙ってて!!」
だが、すかさずピシャッと言われて、うっ……となる古代。
「彼はねっ、真っ直ぐで一生懸命で誠実なヒトなのよ!!」
ムチが飛んだ後には、甘いアメ。
くわぁっと顔が緩んで、すこぶる嬉しげな古代。
「あいたたたたた……。」
涼は、頭を抱えた。
「返すわよ。あの成金オヤジならワタシも知ってるわ!あの女ったらしのドすけべオヤジ!!その気になれば楽天女の10本や20本、手に入れるのなんて容易いわ。」
呆れて天を仰ぐ涼。
慌てふためく古代。
「その気――って、おまえ……ま、まさか『たあサン』とやらに色仕掛けで迫ろうってんじゃないだろうなっ!」
「うるさいわね。返しゃいいのよ、返しゃ!!」
激しい雪に白目を剥く古代。
「う……。この女、ホンマに……。」
呻く涼。
「うわあああ。俺はどうしたらいいんだあ!!」
頭を抱えてしゃがみ込む古代。
二人のやりとりに、涼はついにキレた。
「だあああああ!!!!いい加減にしやがれっ、バカ夫婦っ!!!おまえらはホントに救い難いバカ夫婦だあああああああ!!!被害者はワタシなんだっつうのがわかんねえのかっ!!でえいっ!酒はいらねえ、さっさとウチへ帰りやがれ!!いいか、夫婦喧嘩しても二度とウチの敷居は跨ぐなよっ!!!ああ、跨がせるもんかああああああ!!!!特にバカ嫁!!!ケンカしたんならウチじゃなく実家へ帰りやがれ、実家へ〜〜っ!!!ぜひぜひぜひ……」
血管がぶち切れんばかりに吼える涼。
「……。」
「……。」
無言で顔を見合わせる古代夫婦。
「雪ぃ〜っ、キミがいけないんだよ、キミが。」
「古代クンが悪いのよ、私を悲しませるから――」
「キミだってわかってるだろ。俺が好きなのはキミだけだってこと。」
「それを言葉や態度でしっかりと示してみたらどうなのよ!!」
「だ、だって俺はさぁ……。う、う〜ん、しょうがないなあ、もう。愛してるよ、雪。」
「ウン♪だからってこんなトコでいやだあ〜♪減っちゃうじゃなあ〜い♪」
「だからさぁ〜。仕事のコトは勘弁してくれよお。こうやって超特急(彼らの時代じゃ死語かもな〜)で片付けてきたんだぜ?な?」
「ウンもう♪いつもそれでごまかされちゃうのよねっ、バカっ♪」
古代にしなだれかかる雪。
その身体をぎゅうううっと抱きしめる古代。
そしてそのまま、二人仲良く腕を組んで去って行く。
あんぐりと見送るだけの涼。
「……。ああ、こんなのってあり、ですか?私が一番の被害者なんですよ。ワタシには…ワタシには神様の姿が見えないっ!!」
「す〜ずちゃん……。」
「え?」
涙しながら天を仰ぐ涼の背後で、また声が……!!
一体、今度は誰なのか?
ナゾがナゾを呼び(呼んでねえよ!)、話は更に次回へ持ち越すのであった……。
意地でも続く……。